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Fランクポーターの俺、配信切り忘れで「虚無顔でボスを瞬殺する姿」が全国放送されてた件。今さら「ただの荷物持ち」とは言えない  作者: 伊達ジン


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第7話 会見中の公開処刑と大炎上

 無数のフラッシュが、炎上烈の顔を暴力的なまでに白く飛ばし続けていた。

 ギルド日本支部の大講堂は百人近いマスコミで埋め尽くされているにもかかわらず、奇妙な静寂に包まれていた。聞こえるのは、無遠慮に焚かれるカメラのシャッター音と、背後のプロジェクターが発するファンの駆動音だけだ。

 言い逃れようのない完璧な証拠映像を突きつけられ、烈の脳は処理を完全に停止していた。


「炎上さん。これらの映像について、何かご説明はありますか」


 最前列に座る中年の記者が、マイク越しに冷徹に問いかける。

 烈はビクッと肩を震わせ、張り付いた喉から無理やり声を絞り出した。


「ふ、ふざけるな……! そんな映像、俺は知らないぞ!」

「知らない、とは?」

「フェイクだ! アンチが俺たちを陥れるために作った悪質な加工映像に決まってるだろ! 俺は確かに魔竜の鱗を砕いたんだ! 鈴木は囮になって……ッ!」


 烈の絶叫は、あまりにも見苦しかった。

 マスコミの陣取る席から、失笑と冷たいため息が漏れる。


「炎上さん」


 記者はタブレットから視線を上げ、憐れむような目を向けた。


「この解析データは、探索者ギルド本部の情報管理部が発行した公式の一次資料です。偽造の可能性はゼロパーセントです」

「なっ……だ、だからって……!」


 烈の額から脂汗が滴り落ちる。視線が泳ぎ、マイクを握る手が小刻みに震えていた。もはや彼自身でさえ、自分のついている嘘を取り繕いきれなくなっていた。

 そのひな壇を包む極限のプレッシャーに、最初に耐えきれなくなったのは烈ではなかった。


「い、いやだ……」


 隣に座っていた魔法使いの女が、突然烈の手からマイクを引ったくって叫んだ。


「私、私は止めたんです! 烈がポーターを囮にするなんて知らなくて! 私はリーダーの命令に従っただけで……ッ!」

「ふざけんな!」


 烈は女からマイクを奪い返し、怒鳴りつけた。


「お前だって何も言わずに一番に逃げただろうが! お前の足が遅えから俺が足止めを……ッ!」

「ひどい! 最低のクズ野郎!」

「てめえらだって同罪だろ! 俺一人になすりつける気か!」


 ひな壇の上で、B級パーティ『紅蓮の剣』は完全に瓦解していた。

 醜い責任の擦り合い。マイクを通した罵声と、見苦しい涙。

 それらを、百台近いカメラが冷徹に記録し、全国のネットワークへと生中継で垂れ流している。


「そこまでだ、紅蓮の剣」


 会場の横から、マイクを通さない太く低い男の声が響いた。

 マスコミがサッと道を開け、一人の初老の男がひな壇へと歩み寄ってくる。ギルド日本支部の監査部長だった。その後ろには、威圧的な黒い制服に身を包んだギルドの公式警備員たちが数名控えている。


「ぶ、部長……! 違うんです、これは誤解で……!」


 烈はすがるように手を伸ばしたが、監査部長は氷のような視線で彼らを見下ろしただけだった。


「生還した直後で混乱しているだろうと、一時的にでも温情をかけ、会見の場をセッティングした私が愚かだったようだ。君たちのついた底の浅い嘘は、ギルドの権威を著しく失墜させた」

「嘘じゃありません! 俺たちは本当に……!」

「黙れ」


 監査部長の鋭い一喝が、烈の言葉を切り裂いた。大講堂の空気がビリッと震える。


「探索者法第一二条『他者を意図的に囮とする行為』、および同法第三〇条『ギルドと世間に対する重大な虚偽申告』。これらに明確に抵触したと判断する」

「そ、そんな……」

「炎上烈、ならびに該当パーティのメンバー三名。君たちには今この瞬間をもって、探索者ライセンスの剥奪、およびギルドからの永久追放を言い渡す」


 永久追放。

 その宣告は、彼らの探索者としての命が絶たれたことを意味していた。

 もはやダンジョンに入ることもできず、これまでに得たステータスも、築き上げてきた名誉も全て剥奪される。


「ま、待ってください! 俺たちはB級ですよ!? これからもっと上にいって、ギルドに莫大な利益を……!」

「B級程度、ギルドには掃いて捨てるほどいる。それに……」


 監査部長は蔑むように鼻を鳴らした。


「君たちには今後、S級ボス出現という未曾有の事態において、偽証と隠蔽でギルドの初動調査を遅らせた責任として、莫大な違約金と損害賠償が請求されることになる。スポンサー企業もすでに全て契約解除に動いているそうだ。……連れて行け」


 警備員たちが無言でひな壇に上がり、腰を抜かしている烈たちを両脇から容赦なく抱え上げた。


「離せ! 離せよ! 俺は英雄になるはずだったんだ! なんでこんな……なんで俺がこんな目に……ッ!!」


 烈の絶叫は、再び激しく瞬き始めた無数のフラッシュとシャッター音に無残にかき消されていく。

 カメラのレンズは、応接室でフォロワーの数を見て有頂天になっていた彼の、絶望に歪む顔を克明に捉え続けていた。


★★★★★★★★★★★


 翌朝、午前六時〇〇分。

 築四〇年を越える木造アパート『コーポさざんか』の一階角部屋。

 鈴木悠作は、スマホのアラームが鳴るよりも早く、鉛のように重い身体を布団から起こした。


「……腹減った」


 当然だ。昨夜の夕食は、塩コショウで炒めただけのもやし一袋だったのだから。

 基礎ステータスがカンストしていようが、胃袋の物理的な空腹感まではごまかせない。

 特売の卵を逃した喪失感は、一晩寝ても全く癒えていなかった。むしろ、朝になって現実味が帯びてきたことで、心のどん底はさらに深く沈み込んでいる。

 悠作は立ち上がり、小さな冷蔵庫を開けたが、中には飲みかけの麦茶のペットボトルしか入っていなかった。ゴミ箱には昨日開けたもやしの空き袋が虚しく捨てられている。


(……とにかく、夜勤明けの店長がいるうちにコンビニに行こう。愛想笑いの一つでも浮かべて頼み込めば、期限切れの廃棄弁当くらいもらえるはずだ。じゃないと今日は動けない)


 悠作は首の後ろをボリボリと掻きながら、洗面所で顔だけを洗った。

 寝巻き代わりにしている色あせたスウェットの上から、昨日も着ていたワークマンの作業着を羽織る。髪は寝癖で爆発しているが、直す気力もない。どうせ近所のコンビニに行くだけだ。

 テーブルの上に放りっぱなしにしていたスマートフォンは、昨夜電源を切ったままだ。画面は真っ黒で、当然通知も鳴らない。誰かから連絡が来ているかもしれないが、どうせ『紅蓮の剣』からの厄介なクレームだろう。電源を入れるだけ時間の無駄だった。


 悠作は小銭が数枚入っただけの財布と鍵だけをポケットに突っ込み、玄関へと向かった。

 今日一日、できれば誰とも関わらず、息を潜めて平穏に過ごしたい。

 錆びついたアルミ製のドアノブに手をかけながら、悠作はいつものように呟いた。


「はぁ……今日は何も起きませんように」


 ガチャリ、と鍵を開け、ギィィという安っぽい金属音と共にドアを押し開ける。


 ――パシャッ!

 ――パシャパシャパシャパシャパシャッ!!


「……え?」


 ドアを開けた瞬間、目が眩むほどの強烈なフラッシュの光の束が、悠作の視界を真っ白に染め上げた。

 早朝の薄暗さが嘘のように、アパートの前が異常な熱気と光で溢れ返っている。


「鈴木さん!! 昨日の魔竜単独討伐について一言お願いします!!」

「ネット上で『虚無ニキ』と呼ばれていることについてどう思われますか!?」

「『紅蓮の剣』が永久追放されましたが、彼らへの報復の意図はあったのでしょうか!?」

「天音ルミさんが『お師匠様にしたい』と発言していますが、関係は!?」

「こっち向いてください虚無ニキ!!」

「うおおおおお虚無ニキ最強!!」


 悠作の視界が少しずつクリアになっていく。

 狭いアパートの廊下から、前の細い路地に至るまで。

 スーツ姿のマスコミ数十人と、巨大なテレビカメラ、マイクの束。さらにはスマホを構えた大量の野次馬と、「虚無ニキ」と書かれた手作りのうちわを持つ熱狂的なファンたち。閑静な住宅街には到底そぐわない、総勢百人を超える群衆が、六畳一間のアパートの玄関を完全に包囲していた。


 鼻先に突きつけられる無数のマイク。

 自分に向けられる、熱狂的で異常な視線の数々。

 悠作は、その理解不能な状況を前にして、完全に表情をなくした。


「……は?」


 絶望。

 第十二層で巨大なトカゲと対峙した時よりも、スーパーで特売終了の札を見た時よりも、はるかに深く純度の高い絶望が、悠作の心を真っ黒に塗りつぶしていく。


(なんだこれ……。道塞いでて、コンビニ行けねえじゃん)


 ただでさえ空腹で飢えているのに、これでは廃棄弁当をもらうワンチャンスすら完全に潰されてしまった。マスコミを押し退けて進めば余計な騒ぎになるのは目に見えている。

 ひしめき合う群衆を前に、悠作は全てを諦めたように深いため息をついた。


「……また出遅れるじゃん」


 絶望のどん底から漏れた、そのかすかな呟き。

 しかし、その言葉は群衆の耳に届いた瞬間、あり得ない方向へと変換された。


「出遅れる……!? まさか、こんな騒ぎに巻き込まれたせいで、今日のダンジョン探索に出遅れたってことか……!?」

「S級を倒した翌日でも、己の修練を優先するのか……ッ!」

「なんてストイックなんだ……ッ!!」

「俺たちのせいで虚無ニキの歩みを止めてしまった……!? 邪魔してすいません!!」

「カッコよすぎるだろ虚無ニキ!! キャアアアアッ!」


 勘違いの連鎖が、群衆の歓声とフラッシュをさらに爆発的に膨れ上がらせる。

 悠作は、朝の冷たい空気の中で熱狂の渦の中心に取り残されたまま、ただ呆然と立ち尽くすことしかできなかった。

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