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【覇王逢魔龍 サイカ・オーヴァード】のコストは12。普通のサイカよりも更にコストが高く、単体の性能で言うのなら「MKB」のカードの中でも最高峰の強さを秘めたカードだ。


『マスター、暴れても大丈夫な所に跳ぶよ。見知らぬ場所に行くから、隣の二人も覚悟しておいてね』


 頭の中にサイカの声が響く。どうやら彼女は念話のような手段も持ち合わせているようだ。サイカの声は隣にいる二人にも伝わったようで、彼女たちは頭を下げて頷いて見せた。


『息はちゃんとできるようにしておくから、マスターは焦らないでね』


「えっ?」


 サイカに言葉の意味を尋ねる前に、視界がブラックアウトする。瞬間移動するたびに、まったく違う景色が目の前に広がっていたのだが、今回は想像を絶する場所に跳ばされてしまった。


 赤褐色に塗られた大地に、僕たちはいつの間にか移動していた。草木も何もない荒野が一面に広がっており、空を見上げると果てしない暗闇がどこまでも続いている。


 そして、頭上の暗闇の中には青色と緑色に彩られた球体があった。それが何なのか理解したときに、先程のサイカの言葉の意味がわかってしまった。


 驚愕のあまりに目を見開いていると、リサさんに声を掛けられる。


「ハルト……すごく驚いているみたいだけど、ここがどこだか知っているの?」


 リサさんもソフィア様も事前に知らない場所に飛ばされると聞いていたおかげか、落ち着いた様子だった。彼女たちはどこに飛ばされたのか、まだ理解できていない様子だ。


 まさか宇宙に飛び出して、別の星に移動してきたとは思いもしないだろう。


 僕も地球という前例を見ていなければ、現状を把握できていなかったし、スペースシャトルも宇宙ステーションもないこの世界の人々は、非現実的なこの景色に見覚えがないのは当たり前だ。


「……歩いてここに来ようと思ったら、何十年、何百年もかかる距離にある場所だと認識してもらえればいいと思います」


 彼女たちにこの場所を何と説明すればいいのか分からずに、ふわっとした話をしてごまかした。


「そんな遠い場所まで一瞬で……」


「サイカって、本当に凄いね……」 


 二人の視線がサイカに移される。僕も一緒に視線を移すと、名も知らない星の上で、黒龍と巨人は睨み合っていた。どちらも相手の出方を窺っているようだ。


「アアアアア!」


 先に仕掛けたのはファントムだった。


 天を舞うサイカに対して、ファントムは背中の腕と両手を地面にめり込ませて、地面をえぐり取った。巨大な岩石の塊を持ち上げると、彼女に向かって投げつけた。街一つ程の大きさの岩石は、猛スピードでサイカに突進していく。


 サイカは岩の塊を避けようとせずに、体を前回転させて己の尻尾を、タイミングよく岩石に叩きつけた。粉々に砕け散った石の破片のいくつかが、ファントムに向かって投げ返される。彼もまた破片を避けようともせずに、その身で受け止めた。砕けた破片といっても、家一個分くらいの大きさのある破片たちは、ファントムの体に無数の穴をあけた。


 自身の耐久力に自信があったのだろう。もしくは、ダンジョンの中でサイカのブレスを喰らってから、超速回復したように、回復能力に絶大な信頼を置いていたのかもしれない。


 彼が自身の体の異変に気が付いたのは、全身に岩石の破片を受けた直後だった。待てども一向に回復しない体を見て、明らかに狼狽していた。


「ファントムが焦ってる……?」


 顔がなく表情がないはずのファントムを見て、リサさんも僕と同じような感想を抱いていた。それほどまでに、ファントムは慌てふためいていたのだった。


「サイカ様が何かされたのでしょうか」


 ソフィア様が僕に向かって質問を投げかけてくるので、サイカが何をしたのか説明してあげることにした。


「サイカはファントムの攻撃力と効果を吸収したんです。つまり、今のファントムはゴブリンよりも弱い魔物に成り下がってしまったんです」


【覇王逢魔龍 サイカ・オーヴァード】の能力は『相手のモンスターの効果と攻撃力を無効にして、その効果と攻撃力を得る』というもの。相手が強ければ強いほど強力な力を得るのが、彼女の能力なのだ。


『言ったでしょ。私の本気を見せてあげるって。アンタには最初から勝ち目はなかったの』


 サイカは自身の尻尾をファントムに巻き付けて、宇宙に向かって駆け上がっていった。雁字搦めに縛り付けられた彼は必死に抜け出そうとするが、まったくと言っていいほど身動きが出来ずにいた。地球とよく似た惑星と同じ高さまで飛び上がると、サイカはファントムを投げ飛ばした。


『この一撃で終わらせてあげる!』


 サイカの口元に光の収束が始まる。これまでとは違い、真っ白な光には黒い稲妻が迸っていた。


 ファントムは必死に手足をバタつかせて逃げようとするが、宇宙ではその行為は意味を為していなかった。


 やがて、サイカの攻撃の準備が整った。狙いを済ませて、口から必殺の一撃が放たれる。


『グローミング・トランセンド・バースト!』


 果てしない光の奔流が、漆黒の稲妻を螺旋状に纏い、ファントムの体を包み込んでいく。真っ白なブレスの中にあった黒点は見る見るうちに姿を消していく。サイカの攻撃が止むころには、塵ひとつ残さずに、ファントムはこの世から姿を消してしまったのだった。

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