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 地上にワープした僕たちの目の前には大勢の兵士たちが立ち尽くしていた。彼らは一同に突如として現れた僕たちの姿に驚きを隠せない様子だった。


「お前たちは――」


 兵士の一人が僕らに声を掛けようとした時、大きな地震がバンコの街を襲った。何かにしがみ付いていないと立っていられないくらいの大きな揺れが町全体を襲う。


「来る」


 サイカが一言呟くと、ダンジョンの入り口に設置されていた巨大な扉を、真っ黒な腕が突き破った。巨木を何十本と集めたように太い腕の主は、扉を破壊しながら地上に姿を現した。


「な、なんだあの化け物は!」


 兵士の叫び声が聞こえる。彼が驚くのも無理はないだろう。先程までは成人男性ほどの背丈だったファントムは、高層ビルを連想させるような巨体へと変化していたのだ。太陽は彼の体に遮られ、バンコの街が暗闇に覆われる。


「アアアアアアァ!」


 黒板を爪を立てて引っかくような不愉快な叫び声が辺りに木霊する。思わず、その場にいた全員が耳を塞いで、ファントムの叫び声が収まるのを待ち続けた。


「それがアンタの最終形態ってわけ? 正直言ってセンスないね」


 ソフィア様を抱きかかえている為に耳を塞げなかったリサさんの代わりに、彼女の耳を塞いでいたサイカは、叫び声など気にしていない様子でファントムを眺めて呟いていた。叫び声が収まってから、ファントムの方に視線を向けると、彼の背中から、腕が四本新たに増えていた。計六本もの腕を携えた巨人は、静かに僕たちを見下ろしている。


「マスター、私も本気の姿で戦いたいんだけどいいかな?」


 おそらくは、【逢魔龍 サイカ】の姿になって戦いたいということだと思うが、僕には彼女を正規の方法で召喚できるほどのマナはまだない。


 彼らを召喚していくうちに、自分の中にあるマナの総量はある程度把握できるようになったのだが、現在だって人型のサイカを召喚するのに、僕のマナの全てである8コスト分のマナを消費している。


 リサさんの村の時のようなパーダンを使ったコンボも、今からでは到底間に合わない。ファントムが街を蹂躙する方が、早いに決まっている。


「もちろん、マスターにはもうマナが残ってないことは知ってるよ。だから、私は二人から魔力を分けて欲しいんだ。魔力もマナの代わりになるのは、虹色の箸の時に証明されているでしょ? 二人から1コストずつ分けてもらえれば、ちょうど10コストになるよね」


 サイカの視線は僕の隣にいる二人に向けられる。抱きしめられていたソフィア様はリサさんに耳打ちすると、リサさんはゆっくりと彼女を地面に降ろした。


「私の肩を使って」


「ありがとうございます」


 地に足を付けたソフィア様は、生まれたての小鹿のように震えながらも、リサさんの肩を借りて、その場に立ち上がった。深紅の瞳が僕の瞳を捉える。


「ファントムの討伐はアーノルド王家の……いえ、国民全ての宿願でございます。私の魔力が必要というのならば、どうぞお使いください」


「私の魔力も必要なら、いくらでも渡すよ!」


「ありがとう、二人とも」


 二人は笑顔を浮かべて、サイカの願いを聞き入れてくれた。サイカは感謝の言葉を伝えて、次の指示を出してきた。


「マスターは二人の手を握って。手を握り合ったら、マスターに魔力を込める感じで送ってね」


 僕たちは黙って頷き、手を握り合う。右手でリサさんの手を、左手でソフィア様の手を掴む。二人のぬくもりを感じる手のひらから、暖かい魔力が僕の中に流れ込んでくる。


「これは……想像以上かも。これならもう一段階上でも問題ないね」


 心地よい感触に身を任せてると、サイカが囁く声が聞こえた。一瞬、マナが足りなかったのかと思ったが、どうやら逆のようだ。リサさんとソフィア様の魔力の総量が思ったより多かったのだろう。


「待たせたね。私のマジの本気を見せてあげる!」


 ダンジョンから這い出てから全く身動きもしないファントムに向かって,、サイカは指さして大声で叫んだ。


 直後に、彼女の体が光に包まれる。カードの状態に戻った彼女は、天高く空に飛びあがっていく。光ははるか上空で龍の形となり、漆黒の鎧に身を包んだ黒龍が姿を現す。


「ギャオオオオオオオ」


 自分の存在を世界にあまねく知らしめるようなサイカの咆哮が響き渡る。ファントムの登場に恐れおののいていた人々はみんな、サイカを見上げてその場に立ちつくしている。誰も彼もが彼女の姿から目を離せないでいた。


「あれがサイカ様の本来のお姿なのですね」


 ソフィア様もまたサイカの姿に見とれていた。名画を見るような崇高な眼差しを、空を優雅に舞うサイカに向けていた。


「でも、前に見たときと少し違う気がする……」


 そう呟いたのはリサさんだった。一度サイカの姿を目撃していた彼女は、一目でサイカの違いを見抜いた様子だった。


 鱗はより漆黒に、紫の爪はより鋭利に、翼はより巨大に。全てがパワーアップした彼女はただの【逢魔龍 サイカ】ではない。


 僕も一度しか見たことないその姿は、死ぬ前に僕が手に入れたあのカードだった。


「彼女は【覇王逢魔龍 サイカ・オーヴァード】。正真正銘の僕の切り札です」

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