表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

40/47

38

「アアアア」


 ファントムも僕らの存在を認識したらしく、唸り声を上げてこちらに顔を向けた。彼の顔は目も鼻もないのっぺらぼうのはずなのだが、しっかりと視線を感じる。心の中を覗かれているような嫌な視線だ。

 

 真っ黒な人型のモンスターはゆらゆらと体をくねらせて、こちらにゆっくりと近づいてきていた。


「リサちゃん、ソフィアちゃんをちょっと預かってて」


「は、はい!」


 サイカは抱きかかえていたソフィア様をリサさんに渡すと、迷いなくファントムの方に向かっていった。


「こんな陰鬱な場所に長居したくないんだよね。悪いけど一瞬で決めさせてもらうよ?」


「アァ?」


 サイカの姿が唐突に消えたかと思うと、洞窟全体が大きく揺れた。ファントムが先程まで立っていた場所にサイカが姿を現し、彼女の前方には土埃が大きく舞っていた。しばらくして、視界が開けると壁に大きく空いた穴から、ファントムがのそのそと歩いて出てくる。


「結構本気で殴ったんだけどな。意外と硬いね」


 どうやら、ファントムはサイカに殴られて洞窟の壁に叩きつけられたようだ。あまりの衝撃だったために、壁を貫通して洞窟に穴が開いたようだ。


「アアアア!」


 表情の見えないファントムだったが、彼にも感情はあるらしく激怒していることが傍目からも理解できた。叫び声を上げて、サイカの方に突撃していく。


「頭の方はそんなに良くないのかな?」


 右拳を振り上げて殴りかかってくるファントムの手首を左手で掴んだサイカは、わきの下を潜り抜けて背後に移動する。サイカは右肘をファントムの背中に叩きつけて、その場で半回転して、持っていた右手首を強引に持ち上げる。前かがみになったファントムの首筋に手刀を叩きこむと、彼はうつ伏せの状態で地に伏せさせた。サイカは右足を大きく振り上げ、彼の背中に振り下ろす。


「アアァ!」


 強烈なかかと落としを食らったファントムはうめき声を上げて、地面にめり込んだ。まるで、隕石が落ちたようなクレーターがサイカたちを中心に出来上がっている。とんでもない威力の蹴りだったことは一目でわかった。


「ファントムの方は手も足も出てないよ! これなら直ぐに決着が着くんじゃない?」


「いえ、あれではまだファントムに致命傷は与えられていないと思います……見て下さい、また動き出します」


 ソフィア様の予想通りにファントムはサイカの足を跳ねのけて、クレーターの中から飛び出してきた。首を左右に傾けて、音を鳴らすと何事もなかったかのように、サイカの前に立ちふさがった。


「耐久力はピカイチってことね。でも、それもいつまで持つかな?」


 挑発的な笑みを浮かべたサイカは、目にも止まらぬスピードでファントムに殴りかかる。だが、二度目のストレートはファントムの頬に届くことはなかった。彼はあたかもサイカが殴りにかかってくる場所を分かっていたかのように、彼女の拳を受け止めていた。


 しかし、サイカも拳を受け止められたことに動揺することなく、二発目の攻撃を繰り出している。腰を捻って、左足で強烈なミドルキックを放つ。胴体を捉えた一撃だったが、ファントムもまたしても、その攻撃を右腕で完璧に食い止めていたのだった。


 表情のないファントムがニヤリと笑ったように見えた。右腕と左足を押さえられたサイカは、身動きができない。ここからファントムの反撃が始まると、その場にいた誰もが脳裏に浮かんだ瞬間に、サイカの背中に翼が生えた。


「悪いけど、私は人間じゃなくてドラゴンなんだよね。ところで、ドラゴンの必殺技って何か知ってる?」


 サイカの口元に光の収束が始まる。青白い光で包まれていた薄暗い洞窟の中が、真昼のように明るくなっていく。


 危険を察知したファントムは反射的にサイカの手足を放して距離を取ろうとしていた。サイカのブレスのチャージが終わるわずかな時間に、ファントムは後方に大きく回避する。両者の間には既に十メートルほどの距離が開いていた――はずだった。


「私から逃げれると思ってるの?」


 サイカは瞬間移動してファントムの後方に姿を現す。背後に突如として現れたサイカには彼も対応できなかった。ゼロ距離から放たれるドラゴンブレスの光の奔流に彼は巻き込まれていく。


 あまりの眩しさに顔を背けて目を閉じる。光が収まったのを瞼の裏ごしに確認してから、瞳を開けるとボロボロになったファントムの姿が目に飛び込んできた。


 右半身を大きくえぐり取られたファントムだったが、致命傷は与えられなかったようだ。更に驚くべきことに、ぽっかりと穴が開いた体が徐々に元の体の形を取り戻していっている。


「やっぱり、この姿じゃ本来の力は出せないか……」


 サイカは不満そうな顔を浮かべてファントムを睨み付けていた。彼女は人の姿をしているが故に本来の力を発揮できていないようだ。


「アアアァ!」


 ファントムは突如として耳をつんざくような雄たけびを上げた。すると、体がどんどんと膨れ上がっていく。瞬く間に一戸建ての家と同じサイズくらいの大きさにまで変化した。それでも、成長が留まることはなく更に膨れ上がっていく。


「負けそうになったら巨大化するとかマジ?」


 苦笑を浮かべたサイカが僕たちの元に駆け寄って来る。ファントムが洞窟の天井を突き破りながらも、巨大化していく様子を最後に、僕たちはサイカの空間転移でダンジョンを脱出したのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ