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「ねぇ、リサちゃん。ダンジョンってあの扉の向こうにあるんだよね?」


「バンコの街のダンジョンは、魔物があふれ出してきた際に被害を食い止めるために、大きな扉があると聞いたことがあります。あの扉の向こうがダンジョンで間違いないと思います」


「オッケー、これ以上変な注目を集める前に移動しようか」


 瞬きの為に目を閉じた次の瞬間には、眼前の景色が変化していた。土壁がむき出しの洞窟の中に移動していて、背後にはぴったりと閉じられた巨大な扉があった。扉を開けることなく、ダンジョンの中に侵入できたようだ。


「ここがダンジョン……」


 ソフィア様が緊張した面持ちで、洞窟の奥を眺めていた。壁にかけられた松明の影響もあるかもしれないが、彼女の顔色が悪いように見えたので、思わず声を掛けた。


「大丈夫ですか?」


「……ファントムがこの奥にいると思うと、少し緊張してしまって」


 僕たちを心配させまいと、微笑みを返すソフィア様の笑顔はぎこちないものだった。サイカも心配に思ったのか、彼女に優しく声をかける。


「怖かったらいつでも言ってね。お城には転移ですぐに帰れるからさ」


「いえ、皆さまならファントムを倒してくださると信じております。このまま奥に進んでくださって結構です」


「……ソフィア様は、僕たちのことをどうして信用してくださっているんですか?」


 ソフィア様と僕たちは初対面だったというのに、半ば誘拐に近い形でこんな場所まで連れてきてしまった。彼女の表情が強張っているのも無理はないだろう。僕たちのことを怖がっていないことが不思議なくらいだ。それなのに、僕たちに向かって信用していると言える彼女がどんな風に考えているのか気になって、思わず質問してしまった。 


「ハルト様たちは、フィアが連れてきた方々だからです。気分を悪くされるかも知れませんが、私はハルト様たちを心の底から信じることは、まだできておりません。ですが、フィアは私のことをいつも一番に考えてくれていました。そんな彼女が連れてきた方々だからこそ、私は信用してみようと思っております」


 フィアさんがソフィア様の身代わりだと初めて知ったとき、僕は哀れみの感情を彼女に抱いた。影武者というのは、単なるスケープゴートのような存在だと考えていたからだ。 


 でも、実際には彼女たちの間にはちゃんとした絆が存在しているように思える。だから、フィア様も王様に黙って僕たちをソフィア様の元に案内したに違いない。僕たちならソフィア様をファントムの呪縛から解き放てると考えての行動だったのだろう。


「わかりました。フィアさんの為にも、必ずファントムを倒して見せますね」


「よろしくお願いします」


 ソフィア様は緊張がほぐれたのか、口角を上げた可愛らしい笑みを浮かべた。これが本当の彼女の笑顔なのだろう。


「それじゃ、ファントムを倒しに行こうか。ソフィアちゃん、その王家の秘術とやらはもう解いてもいいよ。お姫様抱っこされるのも飽きたでしょ?」


「……封印を解いてしまえば、ファントムが自由になってしまいます。拘束している間に、倒してしまった方がいいのではないですか?」


「平気平気。どんな魔物か知らないけど、私は負ける気はこれっぽっちもないから。それとも、フィアちゃんが信じてくれた私たちのことが信じられない?」


「その言い方は卑怯です……」


 観念した様子でソフィア様は苦笑いを浮かべると、彼女は静かに目を閉じた。彼女の両手と両足から青白い光が粒子となって、空に消えていく。


「ファントムの封印を解かしていただきました。すぐにでもファントムは活動を再開することになるでしょう」


「ダンジョンの奥に転移するから、みんな覚悟していてね」


 その場にいた全員が一斉に頷く。再び目を開けた際には、また景色が大きく変化していた。


 ドーム球場のように天井までも大きく広げられた空間が目の前に広がっていた。蛍のような青い光が所せましと、空を漂っている。満点の夜空の下にいるような、不思議な空間だった。


 幻想的な風景とは逆に、一か所だけ暗闇に覆われている場所があった。人の形をかたどっているそれは果てしない暗闇であった。見ているだけで、背筋が凍るような感覚に陥る。


「あれがファントム……」


 世界にその部分だけ穴が開いたような漆黒の闇。ソフィア様の腕を覆っていたあの闇と同じものが人型でその場に存在していたのだった。

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