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「バンコの街はあっちの方角か」
僕たちの視線の先には、巨大な壁が聳え立つ街が見えた。王都に向かう前に、黒煙が上がっていた方角と一致している。周囲には他に街の姿は見えないので、あれがバンコの街で間違いないだろう。
「よし、到着と」
「……えっ?」
サイカが何か呟いたと思ったのも束の間の出来事。目前の景色ががらりと変化していた。全貌を確認できないほど巨大な門が目の前に現れたのだ。門の周りには大勢の兵士たちが、門に向かって睨みを利かしている。酷く警戒している様子だった。
周囲を見てみると、どうやらここが街の中であることがわかった。石造りの住宅や商店などが立ち並んでいるのだが、一部が崩壊している建物などもあった。
街の中は騒然としていて、大勢の人がみんな慌てた様子で、街の中を走り回っている。ハチの巣をつついたような騒ぎだ。
「……もしかして、ワープしたの?」
サイカの腕の中から解放されて地に足をつけながら、彼女に問いかけた。
「そうだよ。空間転移でバンコの街まで移動してきたよ」
「空間転移って……この人もハルトが召喚した人なんだよね? 初めて会う人だけど……」
「彼女の名前はサイカです。リサさんもドラゴンの姿なら一回見たことがあると思いますよ」
「サイカって、私の村を救ってくれたあの巨大な黒龍のこと!?」
リサさんは両目を見開いてサイカを見つめる。彼女の信じられない気持ちもわかる。人型になっている件もそうだが、彼女が女性だったとは夢にも思っていなかった。
「……ごめんね、マスター。実は私は雌だったんだ。本当はマスターの前に直接出てくるつもりもなかったんだけど、マスターが色んな人間に殺意を向けられているのが我慢できなくてつい飛び出してきたんだ。私みたいなのがいたらマスターも気分が悪いだろうし、すぐに帰るから安心してね。バイバイ……マスター」
「ちょ、ちょっと待って!」
矢継ぎ早に言葉を重ねて、光の粒子になって消えようとするサイカを僕は必死に呼び止めた。何が彼女の琴線に触れてしまったのか分からないが、大いに勘違いしていそうだったので、誤解を解くまでは帰すわけにはいかない。それに今消えられたら、抱えてるソフィア様の身も危ない。
「謝るのは勝手に君を男性だと思い込んでいた僕の方だよね? それに君が女性だったからだって、僕は態度を変えることはしないよ」
「でも、マスターは雌竜が嫌いなんじゃないの……?」
「え? どうしてそう思ったの?」
雌竜が嫌いなんて考えたこともないのだが、なぜサイカはそんな思い込みをしているのだろうか。
「……私以外は雄のドラゴンしかデッキにいれてないから」
「それは偶然だよ。僕が好きなドラゴンたちを組み込んだら結果的にそうなってしまっただけで、他に理由はないよ」
そもそも、ドラゴンの性別を考えたことがなかったから、全員が雄だと勘違いしていたわけだし、僕にドラゴンの雄雌の区別はつけれない。
「本当に……?」
「こんなことで嘘をついても仕方ないでしょ?」
「でも……あのカードもデッキに組み込んだこともないよね」
「あのカード? もしかして、僕が『MKB』を始めるきっかけになったあのドラゴンのカードのこと?」
サイカの言っているカードのことについては一つ心当たりがあった。僕が五歳くらいの時に叔父さんと近所の河原を散歩しているときに見つけたカードのことだろう。
名前は『黄昏を統べる雛竜』というカードだ。彼女の口ぶりから察するに、あのドラゴンも雌だったのだろう。
彼女の言う通りに、雛竜のカードをデッキに入れたことは一度もない。でも、それには別の理由があったからだ。
「あのカードは大切過ぎてデッキに入れれないんだ」
雛竜と出会わなければ僕は『MKB』を始めていなかったと思う。後に始めてたとしても、ドラゴンデッキを使っていたかどうかはわからない。そう考えると、今の僕のドラゴンデッキを作り上げたのは、雛竜のカードと言っても過言ではないと思う。
それだけ、あのカードが僕にもたらしたものは大きいのだ。僕の人生を支えてくれたカードと言ってもいいかも知れない。
「そっか……そういう理由だったんだ……えへへ」
笑みをこらえきれない様子でサイカが笑う。これまた理由はわからないが、彼女の機嫌が良くなったことはいいことだ。
子どものような無邪気な笑顔を見て、僕も自然と笑みを浮かべた。これまた理由はわからないが、彼女の機嫌が良くなったことはいいことだ。
「あの、ハルト? 人の目が集まってきたし、ソフィア様の持ち方を変えてあげたほうがいいんじゃないかな?」
リサさんに指摘されて周囲の視線を確認すると、多くの人が米俵を担ぐようにサイカに抱きかかえられているソフィア様に視線を送っていた。ソフィア様は恥ずかしそうに顔を伏せて、両手で覆っていた。
「ご、ごめんね、ソフィアちゃん」
サイカは左手を彼女に添えて、地面に降ろすことなく、お姫様抱っこの態勢に持ち替えた。
「お心遣い感謝致します……」
ソフィア様はまだ恥ずかしそうにしていたが、さっきよりはマシになったようで、顔を赤らめながらも、サイカに感謝の言葉を述べていた。




