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「フィア……?」


「はい、ソフィア様。私はこちらにいますよ」


 ベッドに横たわっている少女がフィアと呼ぶと、僕たちの傍にいたソフィア様が少女の方に駆けよっていった。少女のことをソフィア様と呼びながらだ。


「あの……これって、どういうことですか?」


 状況を把握できていないリサさんがキャロリーナさんに問いかける。


「……私も混乱している途中だ。ソフィア様の書斎にこのような部屋があったこと自体初めて知ったのだ……」


 キャロリーナさんは、ソフィア様と瓜二つの顔をしている少女を見つめる。双子の姉妹かと思うくらいに、二人の顔はそっくりだった。違う点を述べるとするなら、少女の方が幼い顔つきで、体がやせ細っていることくらいだ。


 そっくりな少女たちの姿を見て、キャヴァリアント事件の時にアマリスさんが言っていた言葉を思い出した。女王が自身の代わりを用意して逃げ出していたことに気が付けたきっかけの言葉だ。


「ソフィア様……いえ、貴方がソフィア様の身代わりってことですよね?」


 日本で言うところの影武者だ。少女に対する態度や発言を踏まえて考えると、目の前の少女こそが本当のソフィア様なのだろう。つまり、僕たちが今までソフィア様と呼んでいた彼女はこの国のお姫様の偽物のだったのだ。


「ええ、こちらの方こそが本物のソフィア・アーノルド第一王女様でございます。私はソフィア様の単なる影――ですが、ソフィア様からフィアという名前を頂きました。これから私のことはフィアとお呼びください。もちろん、敬語は一切必要ありませんので、フィアと気軽に呼んで頂ければ幸いです」


 自らのことをフィアと改めて名乗った彼女は少女の上半身を抱きかかえて、ベッドの背もたれに持たれかけさせた。布団で隠れていた本物のソフィア様の服装が露わになる。彼女は真っ白なゆったりとした長袖の服を着ていた。


「フィア……? この方たちは一体誰なの……?」


 ソフィア様はオロオロした様子で僕たちのことを眺めていた。その瞳には警戒の色が混ざっていた。


「奥にいるのはソフィア様の護衛を専門とする比翼部隊の隊長のキャロリーナ様でございます」


「まあ、貴方がキャロリーナなのね。お話はフィアから聞いてるわ。いつもフィアのことを守ってくれて、ありがとうね」


「い、いえ……私は……」


 まだ今の状況に混乱しているのか、キャロリーナさんはいつものようなハキハキとした話し方ではなく、言葉を濁して俯くことしかできなかった。


 そんな彼女を尻目に、フィアさんは話を続ける。


「手前の方々が冒険者のハルト様とリサ様でございます。ハルト様はあの黄昏の召喚士様であられます」


「あの空を覆う程の黒龍を呼び出したと言われる召喚士の方ですか!」


 瞳の奥を輝かせ、年相応の笑顔を浮かべるソフィア様は、僕とリサさんの顔を交互に見比べていた。


「……黄昏の召喚士様は男性とお聞きしていたのですが、どちらの方がハルト様でしょうか?」


 毎度恒例の質問が飛んで来た。僕の性別を有耶無耶にしておくと、後々変なハプニングに巻き込まれるかも知れないので、今のうちにちゃんと伝えておこう。


「僕がハルトです。こう見えても性別は男です」


 一歩前に出て自己紹介すると、ソフィア様は僕の顔をしばらく眺めたあと、フィアさんの方に視線を向けた。


 フィアさんは何も言わずに、首を縦に振ると、ソフィア様は僕のことを二度見してきた。


「すみません……私は城の外に出たことがないので、このような可愛らしい男性の方がこの世に存在するとは思ってもおりませんでした」


 ソフィア様の言葉に思わず表情が曇る。


「ハルト、顔が怖いよ。女の子に間違えられるのはいつものことでしょ?」


 隣にいたリサさんが声を掛けてくる。別に僕が女の子に間違えられたことに、怒っているわけじゃない。ソフィア様の発言が引っ掛かったのだ。


「……城の外に出たことがないというのは本当ですか?」


「本当のことでございます。より正確に申し上げるなら、ここ数年はこの部屋より外に出られたことはありません」


 僕の質問に答えてくれたのは、フィアさんだった。彼女はさらにソフィア様の腕を持ち上げて、服の袖口を掴み上げる。


「ソフィア様、失礼します」


「だ、駄目よ、フィア! このような汚らわしいものを人様にお見せするべきではないわ!」


 ソフィア様は心底焦った様子で、フィアさんの謎の行動を止めようとしている。しかし、彼女は口で彼女を諫めるだけであり、体を動かして抵抗する様子は一切なかった。


 その理由はすぐに判明した。


 フィアさんがソフィア様の服の袖をまくり上げる。そこから出てきたのは、真っ黒な闇に塗りつぶされた腕だった。まるで、その部分だけ世界に穴が開いているような、異質な漆黒だった。

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