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デッキからカードを一枚取り出す。僕が選んだのはラビット・ドラゴンだ。
「この馬車ごと空を飛ぶことはできる?」
「ぐぅぐぅ」
彼は口をもぐもぐさせながら、首を縦に振る。あらかじめ馬を取り外しておいた馬車のロープを、ラビット・ドラゴンの首にかける。試しに、一メートルほど空に浮いてもらうと、無事に馬車も空中に浮いた。
馬車は四人乗りなので、僕とリサさん。ソフィア様とキャロリーナさんが乗り込む。他の比翼部隊の皆さんとはここで一旦お別れすることになった。彼女たちは念の為にバンコの街の救援に向かうそうだ。
「大きなお城が見える方角に飛んで」
王都は大きな城が目印ということなので、ラビット・ドラゴンに王都の特徴を伝える。指示を出すと、馬車ごと空に浮かび上がっていった。
空を飛ぶことに慣れている僕とリサさんは何事もなかったが、ソフィア様の体は微かに震えていた。彼女の隣に座っているキャロリーナさんも窓の外を見ては、眉をひそめていた。
「ソフィア様、もう既に王城が見えております」
「本当に私たちは空を飛んでるのですね……」
恐怖より好奇心が勝ったのか、二人は右側の窓から景色を眺めていた。僕も確認の為に、右側の窓を覗き込む。
大平原の一つ山を越えた先に、白亜の城が建てられていた。その城を街が囲うように存在している。あれが目的地の王都のようだ。
「ハルト、あっちから黒い煙が……」
反対側の窓を見ていたリサさんが暗い声をあげる。彼女が指さした方向を見ると、黒い煙がいくつも空に舞い上がっていた。
「あの方角は、バンコの街だ。おそらく、二回目の襲撃があったのだろう」
「それなら、先に街の救援に向かいますか?」
「いえ、このまま王都に向かってください。ダンジョンから魔物が溢れだしてしまっている原因を先に解決しなければ、街の被害は増える一方です」
「その原因が王都にあるわけですね?」
ソフィア様は首を縦に振って頷く。バンコの街も気になるが、ここは街にいる冒険者や騎士団の人、それと応援に向かった比翼部隊の人たちを信じて、僕たちは王都に向かうことにした。ラビット・ドラゴンに、王都の方向に飛んでいくように指示をして、ソフィア様の話の続きを聞くことにする。
「今回の騒動は、バンコの街のダンジョンの最奥に眠るファントムが暴れ出したことにより、魔物たちが活性化したとみて間違いないでしょう」
「一体どんな魔物なんですか?」
「ファントムは実態を持たない負の感情の集まりだと言われています。実態がないので、剣などで傷つけることができず、魔法にも強い耐性を持っています。その為に討伐することがほぼ不可能な魔物で、アーノルド国はこの魔物をダンジョンの奥地に封印することしかできませんでした」
「では、今回はその封印が解かれたということですか?」
「全てではありませんが、何か綻びが生じてしまったのは間違いないと思います……王都にはどのくらいで到着することができるでしょうか?」
ファントムの封印が完全に解かれたら、間違いなくバンコの街はこれ以上の被害を受けることになるだろう。ソフィア様が焦る気持ちもわかる。
「あの距離ならあと五分くらい掛かると思います」
「そ、そんなに早く着くのか?」
「全速力で向かってますから」
キャロリーナさんが驚いた声を上げるので、窓の外を見るように促した。彼女は更に驚いた顔をして、外の景色を食い入るように眺めていた。新幹線がないこの世界では、高速で流れる景色はとても珍しいものに違いない。
「ハルト様に助けを求めておいて正解でした。本当にありがとうございます」
「他にも手伝えることがあったら言って下さい。出来るだけ、力になりますから」
それからすぐに僕たちは、王都が真下に見える位置までたどり着いた。ラビット・ドラゴンが僕の想像以上に、張り切って飛翔してくれたようだ。
「どこに着地しましょうか?」
「王城の中に、大きな広場があります。そこに着地していただけませんか?」
王都に直接乗り込んだら、騒ぎになるかもと思ったのだが、ソフィア様から更に城の方に着地してくれと頼まれた。魔物の襲撃と勘違いされて迎撃されないだろうか。
「この馬車は王家専用の馬車だ。すぐさま撃ち落とすような真似はしないから、安心してくれ」
キャロリーナさんも大丈夫だと言っているし、このまま着地することにしよう。僕はラビット・ドラゴンに地上に着陸するように指示を出すのだった。




