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 翌朝、息子夫婦の部屋のベッドの上で目を覚ました。傍らには、いつかと同じようにディルムットさんが、椅子に腰かけていた。


「目を覚ましたか、マスター。昨日のことは覚えているか?」


「昨日のこと……? この家で夕食をごちそうになってからの記憶が曖昧かも……」


 この家で美味しいお肉料理を振る舞ってもらったことは覚えているが、その後の記憶が霞がかかっているように思い出せない。なにか大変な出来事があったような気がするのだが……


「無理に思い出す必要はないさ。俺はマスターが目を覚ましたことをリサ達に伝えてくる。その間に服でも着替えておいてくれ」


 ディムットさんは僕に着替えを渡して、部屋から出ていった。着替えるために、体に掛かっていた布団をどけると、何故か僕はパンツ一枚しか履いていなかった。


 僕はどうしてパンツ一丁で寝ていたのだろうか。失われた記憶を取り戻すのが、少し怖い。


 着替え終わると、リサさんが部屋の中に入ってきた。昨日はソフィア様と同じ部屋で寝たらしい。


「ハルト、昨日のことは何も覚えてないんだよね?」


「覚えてないです……一体何があったんですか?」


「絶対に思い出さなくていいから」


 鬼気迫る彼女の声に、僕は昨日のことは一生思い出さないようにしようと心に誓ったのだった。


「ハルトが目を覚ましたから、もうこの村から出発するみたい。忘れ物はない?」


「大丈夫です。ソフィア様の元に向かいましょう」


 泊めていただいた夫婦に改めて礼を言って、家を後にする。昨日ロアさんが回復魔法をかけた人たちやその親族たちに感謝の言葉を掛けられながら村の中を移動し、馬車にたどり着く。車内には既にソフィア様が座っており、僕とリサさんが乗り込むと、村の人たちの見送りを受けながら、再び王都に進みだした。


「ハルト様、本当にすみません……キャロリーナに家族と同じように接しろと伝えた私が間違っておりました……」


 出会って早々にソフィア様が僕に謝罪してくる。昨日の出来事にキャロリーナさんも関わっているようだ。記憶がないのでなんのことかわからないけど。


 ただ今朝であったキャロリーナさんの僕に対する目つきが変わっていた。リサさんが僕に向けるような、具体的にいえば、子供の成長を見守る親のような目つきになっていた。無事に和解はできたようだから、良しとしておくか。


「謝るのはこちらの方です。ロアさんが何か企んでいたみたいで、キャロリーナさんはそれに巻き込まれただけのようですから」


 馬車に乗る前に、ディルムットさんに事の発端がロアさんであると教えてもらった。大玉の前に、小玉のスイカで慣れさせる為だったらしいのだが、何かの暗号で僕にはよくわからなかった。


 彼は「委員会には気をつけろ」と言い残して消えていったのだが、僕は闇の組織にでも目をつけられてしまったのだろうか。


「はい、この話はこれでおしまい。さっきも言ったけど、これ以上の詮索は禁止だからね!」 


 ソフィア様とお互いに頭を下げ合うと、リサさんが話を終わらせにきた。口を酸っぱくするとは余程のことがあったのだろう。僕たちは昨日の話題には触れずに、会話を続けたのだった。


 異変が起きたのは、昼過ぎのことだった。平原のとある場所で馬車を止めて、お昼ごはんを食べていた時の出来事だ。


 僕たちの進行方向から、銀色の鎧を着た若い騎士が、馬を物凄いスピードで走らせてきた。彼は僕たちの存在に気が付くと、更にスピードを上げてこちらに近づいてくる。


「ソフィア様、私が話を聞いて参ります」


 ただならぬ様子の騎士のもとにキャロリーナさんが向かっていった。男の騎士の方が一方的に何かを話している様子だが、徐々に彼女の顔が険しいものになったので、いい知らせではないだろう。


 話を聞き終えたキャロリーナさんがソフィア様の元に駆け寄って来る。


「ソフィア様、バンコの街のダンジョンから魔物があふれ出したそうです」


「それは本当なのですか!」


 椅子に座っていたソフィア様が急に立ち上がる。信じられないといった様子で、立ち尽くしている。


「幸いにも冒険者や駐在していた第三騎士団の活躍により、バンコの住民には被害はなかったそうです」


 聞いた話ではダンジョンというのは、無尽蔵に魔物を生み続ける場所のようで、各ダンジョン事に特徴が違ってくるらしい。空を飛ぶ魔物しかいないダンジョンや、炎を操る魔物しかいないダンジョンなど、特色があるそうだ。


「バンコの街のダンジョンはどんな感じなのですか?」


「死霊系の魔物しかいないダンジョンらしいよ。あとは、最下層にはものすごく強い魔物がいるとか。確か名前は――」


「『ファントム』」


 ソフィア様が威圧感のある声で、その魔物の名前を口にした。彼女は、普段からは姿からは考えられないほど、憎悪に満ちた表情をしていた。彼女のあまりの迫力に、僕とリサさんは口を噤んでしまう。


「ハルト様、私は今すぐにでも王都に帰還しなければならない理由ができてしまいました。どうか、お力をお貸しいただけないでしょうか」


「わかりました。僕に任せて下さい」

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