29
この村の温泉を利用したことのあるというキャロリーナさんに連れられて、目的の場所まで移動する。村から五分程歩いた所に、掘っ立て小屋が一軒建てられていた。その小屋の奥には木製の壁で囲われている場所があった。壁の向こうからは湯気が立っているのが見えるので、どうやら温泉の周りを木の板で囲んでいるようだ。
小屋の扉を開けて中に入る。外見にそぐわず室内が綺麗だというのが第一印象だ。
床には簀子が敷き詰められており、小屋の入り口で靴を脱ぐようになっていた。僕たち以外の靴はないので、どうやら今は貸し切り状態のようだ。
壁には三段の棚があり、持ち手のついていないバスケットが均等に配置されていた。衣服を置いておく場所だろう。この辺りは日本の銭湯とかと変わりなさそうだ。
小屋の右奥には扉が二つ並んで設置されている。左側の扉の取っ手には青い布が巻き付けられており、反対の扉には赤い布が巻き付けられていた。一目で男湯と女湯が分かるのはありがたい。
ブーツを脱いで、服を脱ぐ籠の前まで移動する。脱衣所特有の温泉の匂いで、日本に居たときの記憶が掘り起こされた。
寝たきりになる前は、お父さんによく銭湯に連れて行ってもらっていた。一つしか湯船がない小さな銭湯だったけど、自宅とは違う大きなお風呂が大好きだった。風呂上がりに飲むフルーツ牛乳も美味しかったな。
「浮かない顔をしてどうした?」
キャロリーナさんに声を掛けられて、現実に戻って来る。過去のことを思い出して、辛気臭い顔をしてしまっていたようだ。
「いえ、なんでも――えっ?」
彼女の方向に顔を向けた僕は、その場で固まってしまう。
キャロリーナさんは綺麗に衣服を折りたたんで、籠の中に入れていたからだ。服を脱いだ彼女は、上下とも黒色の下着姿になっている。ビスチェ風の下着なのだが、通気性を意識してか、薄い素材で作られている。今にも下の肌が透けて見えそうだ。
「な、なんで脱いでるんですか!」
咄嗟に顔を真逆の方に向けて、彼女の洗練された肢体から目をそらす。心臓は破裂しそうな勢いで鼓動を早めていた。
「私も温泉に入るために決まっているだろう」
それはわかるが、せめて僕がいなくなった後で服を脱いでほしい。彼女は男の僕に下着姿を見られるのは、恥ずかしくないのだろうか。
「お前も脱がないのか? 女性同士で恥ずかしがる必要もないだろう」
そうだった……彼女は僕のことを、女の子だと勘違したままだった。こんなことなら面倒がらずに、初めて会った時に誤解を解いておくべきだった。過去の自分を恨みながら、状況を打開する方法を考える。
小屋の出入口はキャロリーナさんがいる方にある。ここは一旦の間、お風呂場に移動して、彼女が脱衣所からいなくなってから、着替えて外に出ればいい。流石に彼女も男湯までは着いてこないだろう。
僕は超特急で着ている服を脱いでいった。脱衣籠に乱雑に衣服を放りこみ、青い布が巻き付けられているドアの方に向かう。
勢いよく扉を開けて中に入る。タオルを用意している暇もなかったので、裸姿を見られる前に素早く行動に移した。
「マスター、こっちですよ」
扉の向こうには一糸まとわぬ姿の、リサさんとロアさんがいた。
湯けむりがあがる泉の前で、二人は体を洗っていた。背中姿のリサさんが椅子に座っており、立ち上がっているロアさんの体を洗っている状況だ。
ロアさんの全身は泡まみれで、奇跡的に大事な部分が隠れていた。僕に笑顔で手を振っているのだが、体が揺れるたびに控えめな双丘が揺れて、泡が重力により下に引っ張られている。
白い泡の中から彼女の髪色と同じ桃色のナニかが見えそうなところで、リサさんが振り返って大声を上げた。
「ハルトっ! なんでここにいるの!?」
僕の存在に気が付いたリサさんは、両手で胸を押さえて、前傾姿勢をとって体を隠した。
それでも全身を隠しきれるわけもなく、半袖焼けした部分と、まったく日に焼けていない白い肌のコントラストが僕の目に飛び込んでくる。その上、咄嗟にしゃがみ込むような形で、体の前面を隠したのはいいが、反対にお尻が付き出される形になってしまっていた。
頭隠して尻隠さずとは、こうして生まれたのだなと、頭の中で一人納得している自分がいた。もう完全にパニック状態である。急転直下の出来事の連続で、まともな思考回路は残されていなかった。
「突っ立って何をしている? 早く湯に浸からないと風邪を引くぞ」
僕は体を百八十度回転させて、背後を振り返った。金色の髪を靡かせながら、キャロリーナさんがこちらに向かってきていた。もちろん、彼女は豊満なその体を隠そうともしておらず、全てが僕の目の前にさらけ出されていた。
「わ、わわ……」
声に鳴らない声をあげて、一歩後退する。後ろに下がった際に、濡れた床に足を取られて転びそうになってしまう。
「おっと、大丈夫か?」
転ぶ寸前に、手を掴まれて体を一気に手繰り寄せられる。視界が急に真っ暗になり、顔が柔らかい感触に包まれる。
隙間から顔をあげると、彼女の翡翠色の瞳に見つめられていた。鼻孔をくすぐる花のような香りと、彼女の全身から伝わる温かさが妙に心地よかった。
「お前も子供らしいところがあるのだな」
抱きしめている力を緩めて、彼女は僕から後方に距離を取る。つまり、彼女の一糸まとわぬ姿が、至近距離で僕の目に飛び込んでくる。
小ぶりのスイカほどある凶悪なソレを目撃してしまい、直前まで何に顔を埋めていたのか理解して、僕はそのまま気を失った。




