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 サイカを呼び出して、リサさんの村を救ってから二週間が経った。異世界での生活にも少し慣れ始めた僕には、大きく変わったことが二つあった。


「僕はこのクイーンサーモンのムニエルをお願いします。リサさんはどうしますか?」


「私も同じものを注文しようかな」


「かしこまりました。出来上がり次第お持ちします」


 店員さんは僕の持っていたメニュー表を受け取り、店の中に消えていく。


 僕たちが訪れていたのはスタツの街のとあるレストランだった。最近は冒険者御用達の食堂ばっかり利用していたのだが、気分転換もかねて街を探索しているときに、このお店を見つけた。


 この街では珍しく店の外にテーブルが設置されており、青空の元で食事をとることができるお店なのだ。こういうオシャレなところで食事をしてみたかったので、思い切って選んでみたのだった。


 店の近くには大きな噴水の広場もあり、景色も大変よかった。これは料理も期待できそうだ。


 円形テーブル席の対面に居るリサさんが、感心した表情で僕を見ていた。


「どうしました?」


「経った二週間で読み書きできるようになるなんて、ハルトって賢いなって思って」


「『MKB』のカードテキストよりは、簡単でしたから」


 カードゲームにおいては、何度読んでもまったく意味が分からないことが書いてあるカードが極まれに存在している。目から入った情報が脳を通過せずに、そのまま外に放出される現象が度々発生する。本当に日本語で書かれているのかと疑うことも少なくはない。


 例を出すなら、『場合』と『時に』という日本語では同じような意味合いの言葉でも、効果がまったく違う場合が存在する。


 そんなカードゲーム世界の独自の言語に比べれば、この世界の言葉はまだ楽な方だった。地球のように、国ごとに言葉が違うということもなく、どの国も種族も同じ言語を使っているのもありがたかった。


「一番の理由は、リサさんの教え方が上手だったからですけどね」


 彼女の指導方針は誉めて伸ばすだった。正解するたびに頭を撫でられたのは、流石に恥ずかしかった。でも、途中で投げ出すことなく言語を取得できたのは、彼女のおかげ以外の何物でもない。


 大きく変化したことの一つ目が、この世界の文字を覚えたことだ。


「ねぇ、あの子って噂の召喚士だよね?」


「ああ、間違いない。あの黒龍を呼び出した黄昏の召喚士だ」


 ヒソヒソと僕のことを噂する声が聞こえる。店の前を通りすぎる人たちから、様々な視線を向けられる。そんな人たちの姿を見て、リサさんは僕に頭を下げてくるのだった。


「……本当にごめんね」


 彼女が僕に謝るのには理由があった。アマリスさんとの決め事で、僕がサイカを呼び出したことは隠すはずだったが、リサさんの村の人たちが僕のことを至る所で自慢しているそうだ。


 この街に出稼ぎにやって来る村の人は多いらしく、いつの間にかスタツの街でも『黄昏の召喚士』という二つ名が広がってしまっていた。


 サイカを召喚した術士ということで、僕はすっかり街の有名人となってしまっていた。


「リサさんが謝る必要はないですよ。それに僕はこの名前も気に入っていますし」


 二つ目の変わったことが、僕が『黄昏の召喚士』だと世間に広がったことだ。


 あとは、森でゴブリンを狩りに行ったり、街で美味しいものを食べたりして平和に過ごしていた。


 強いていうのならば、マナの総量が女王たちとの戦いを経て、7まで上がったことくらいだろうか。


 宿の契約が切れるまであと二週間。特に何も変わらない日々が続くのだろうと思っていた矢先の出来事。


「君が黄昏の召喚士か」


 ふと、顔を上げると白銀の鎧に身を包んだ女性が立っていた。金色の髪の身長の高い女性だ。清廉な顔つきで、切目が特徴的だった。


「アーノルド王国騎士団の方ですよね? 私たちに何かようですか?」


 リサさんが立ち上がって、女性騎士の方に近づいていく。明らかに騎士の人を警戒しているような動きだった。


「私が用があるのは、そこの少女の方だ」


 僕を指さして、少女と言う騎士の人。また、女の子に間違えられいるようだ。


 最近は色んな人に女と間違えられるので、もう面倒くさくて訂正するのも諦めることにしている。僕は無視して話を続けた。


「僕に何のようですか?」


「ソフィア殿下の護衛をお前に頼みたい」


「ソフィア殿下?」


「この国のお姫様の名前だよ」


 リサさんが耳元で囁いてくれる。 


 これってアマリスさんが言っていた国の偉い人絡みの厄介ごとかも知れない。こんなに早く目を付けられるとは思ってもいなかった。 


「お前の召喚士としての力に興味を持ったそうだ。あちらの馬車でお待ちだ」


 騎士に誘導されて視線を向けた先には、豪華な馬車が街の広場の付近に止まっていた。シンデレラの絵本などで見るような立派な馬車だ。もちろん、カボチャではないけど。


 あの馬車の中にお姫様が乗っているらしい。周りに十人くらいの騎士が護衛でついているので、間違いないと思う。


 しかし、この国の姫が自ら来るとは……どうにか追い返せないものだろうか。


 その時、面倒な客を追い返すには、マニュアル接客が一番だという叔父さんの言葉を思いだす。


 ここは僕が所属している組織の規約を持ち出すとするか。


「護衛任務ですね。わかりました」


「ちょ、ちょっと、ハルト! そんな簡単に引き受けていいの?」


 慌てた様子でリサさんが僕の肩を揺らす。話は最後まで聞いて欲しい。


「僕はまだ引き受けるとは言ってませんよ?」


「え?」


「は?」


 二人の声が重なる。リサさんはともかく騎士の人まで驚いた顔をするとは思ってもいなかった。


「だって、冒険者ギルドで依頼内容を確認しないと、どんな内容か分からないですよね?」


「冒険者ギルドだと……?」


「はい、僕はFランクの冒険者ですよ? まだ直接指名の依頼は受けられません。それが受けられるようになるのは、Cランクの冒険者からです。僕が護衛任務を受けようとしたら、ギルドから発行されるクエストしか受けられないんです」


 ギルドカードの裏の規約に書いてあることだ。文字が読めるようになったので、一度目を通していたら、その記載がされていたのだった。


「ですから、まずは冒険者ギルドで護衛任務の依頼を発注してください。僕がその依頼を受けるか受けないかを決めるのは、それからの話です」 


 僕が説明し終えると、騎士の人は拳を握り締めて、眉間に皺を寄せてこちらを睨みつけてきた。


「何をふざけたことを言っている? ソフィア殿下の直々のご依頼だぞ? それを断るというのか?」


「断るも何も、依頼そのものがまだないじゃないですか」


「屁理屈を言うな! 私はソフィア殿下の護衛任務を受けろと言っているんだ!」


 彼女は顔を真っ赤にして叫ぶ。周りの人が足を止めて、こちらを見ている。見世物ではないんだけどな。


「隊長、姫様がお呼びです」


 騒然としている現場に別の女性騎士が登場する。どうやら、馬車にいるお姫様から呼び出しを受けたようだ。


「すぐに戻る。ここから動くなよ」


 女騎士さんは不機嫌な声で一言残して、その場を去っていく。


「ハルト、今のうちに逃げた方がいいよ。アマリスさんも言っていたように、国と関わると面倒なことにしかならないよ」


「今ここを離れるのは、駄目ですよ。注文した料理を食べてません」


「……ハルト」


 そんな目で見ないで欲しい。別に僕は食い意地を張っているわけではない。


 日本にいた頃は、料理は粗末にしてはいけないと教わってきたのだ。まだこの世界に来て二週間ちょっとしか経っていない。体に染みついたものは、そう簡単に抜けないのだ。


 それに注文したものをキャンセルすると、お店に迷惑をかけることになる。これも日本人らしい考え方なのかな。


 いや、既に十分迷惑を掛けているか。本当にごめんなさい。


 それから、すぐに料理が運ばれてきた。店員さんに頭を下げると、向こうも「口出しできなくてすみません」と謝って来てくれた。普段なら迷惑な客は追い返すそうだが、騎士団相手には流石に帰ってくれとは言えないらしい。


「騎士団ってどんな役割の集団なんですか?」


「街には自警団っていう存在がいて、彼らは治安維持の為に、見回りとかしているんだけど、騎士団の人たちはそのまとめ役だね。他にも、魔物退治とか、国を守るために働いている人たちだよ」


 認識的には自警団の人たちが交番勤務の警察官で、騎士団の人たちが刑事だろうか。魔物と戦うこともあるというし、自衛隊の方が近いかも知れない。


 いや、実際には日本に怪物が出たとしても自衛隊が戦う権限はないらしいのだが、映画などで巨大怪獣と戦っているイメージが強すぎるのが悪い。


 話が逸れてしまったが、僕が厄介な人たちに目をつけられた事実は変わらない。さて、ここからどうしようかと考えていたとき、お店の入り口がざわつき始めた。


 騒ぎの原因はすぐに特定できた。先程の女騎士の人を先頭に、騎士の集団がお店の前に現れたからだ。その集団の真ん中には、綺麗な青いドレスに身を包んだ少女がいた。


 洗礼された足運びにピンと伸ばされた背筋。一挙手一投足の全てに目を奪われる。


「お初にお目にかかります。私の名前はソフィア・アーノルド。この国の第一王女でございます」


 銀色の煌めく髪に、真っ赤な瞳を宿した少女は優雅なお辞儀を披露し、こちらに挨拶をしてくる。


 まさか、お姫様が自ら出てくるとは想像していなかった。


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