Survey log 2 「高温多湿」
三十六と申します。よろしくお願いいたします。
26'11/1にはSurvey log 1 ~3までを公開。
11/2~11/7までは1話づつ公開いたします。
その後は毎週土曜日公開いたします。
《地球人の皆さんへ》
宇宙人達の使っている言語には日本語に訳せないものが多くあります。地球人の皆さんにわかりやすいように、固有名詞などは現代の日本語に直してあります。
* * * * * * * * * *
昨夜は驚いた。
シャワーを浴びる前にヴィヴィックスを脱いだ途端に違和感を覚えた。
なんだか大気が重くて暑い気がする。
慌てて、宇宙船の空調システムにアクセスしたけど、大気の成分は全て正常。
だけど、室温8℃・湿度70%になっていた。
なにこれ?暑っ!
これがラボ長のラヴェルさんが繰り返し何度も説明していた”高温多湿”と言うものなのだろう。
日中は宇宙船の入口は開けっ放しで作業してたからなぁ。
そんなことを考えていると、ガツェ隊長から通信が入った。
「気温と湿度には気付いたか?ラボ船とも連絡を取ったんだが、寝る時もヴィヴィックスを着ているように、とのことだ」
ヴィヴィックスとは、Vein-Variable Cooling Suit(可変血管型冷却スーツ)のことだ。
略称はV-VCS。
一般的な水冷スーツを軍部用に機能性を大幅に向上させ、見栄えも意識して作られた軍部自慢のスーツだ。
今日は作業中も、これを着ていたから高温多湿も気にならなかったんだな。
さすがヴィヴィックス!
そんな訳で、ヴィヴィックスを着たまま、僕は太陽系第三惑星での2度目の朝を迎えた。
* * * * * * * * * *
「よう!」
「おはようございます。ヴァインさん。パンプアップ済みですか?」
「いや、マシンはまだだ。ガツェ隊長が使ってた」
ヴァインさんも、もちろんヴィヴィックスを着ていた。
ブロンズ色の、皮膚と見間違うような肌にぴったりとした生地は、ヴァインさんの見事な筋肉をより素晴らしく見せていた。
表面に張り巡らせてある、細かい水冷用の筋が虹色に輝いて、筋肉の陰影もくっきり。
僕が武官を目指したのは、ヴィヴィックスを着たかったから、というのはヴァインさんには内緒だ。
何を言われるか、わかったものではないからね。
「この星、暑いですね」
「だよなぁ。うちの星なら、今の季節はマイナス5℃ってところだろ?13℃も高いと暑さ対策は必須だぜ。レポートに水冷スーツを脱ぐのは厳禁って書いとけよ」
「はい・・・って、レポート書くのはヴァインさんでもいいんですよ?」
「俺、書類仕事は苦手なんだよ。そういうのはロシェのほうが上手いだろ?」
この高温多湿の星が人気観光地になったなら、新しい水冷スーツが開発されるのかもな。
この前、一般家庭用にカラフルなのが発売されたらしいし、なんかすごいのが出来るのかも。
* * * * * * * * * *
「諸君、おはよう。早速だがブリーフィングにしよう」
ガツェ隊長の一声で家庭用小型宇宙船のリビングは会議室となった。
「ラボ船で説明を受けた通り、事前調査では、この星の支配者階級を特定することは出来なかった。予定ではラボ船で作ってもらったリストに沿って、この星の実力者と思しき方々を訪問する予定だったが、変更することとなった」
「どういうことですか?」
「それについては私から説明します」
ラボ船からのリモート参加のラヴェルさんが話を引き取った。
ラボ船の仕事は僕たちのサポートなので、毎日のブリーフィングには参加することになっていた。
「理由は湿度です。この星の湿度は昨夜皆さんが体感した通りです。実はこの場所は、この星の中では寒冷な場所なのです」
僕とヴァインさんは顔を見合わせた。
説明は受けていたけど、実際に体験してみると、暑いって驚くよ。
「素晴らしい胸筋の持ち主の所へ誘導しようと思っていたのですが、そこは、この場所よりも最低でも20℃は高いと予想されています」
「あの、湿度は・・・?」
僕はおそるおそる聞いてみた。
「計算中ですがデータ不足です。実はラボ船からの観測では任意の地点の湿度を正確に観測するのは難しいのが現状です」
湿度の観測の方法を説明したあと、ラヴェルさんは続けた。
「湿度は高温と組み合わせることで、身体への負担が増すことだけはわかっています」
負担ってなんですか?と質問しようとしたら、ガツェ隊長が断固とした口調で話し始めた。
「つまりだ、まだ我々が高温多湿に慣れていないうちに、この星の実力者と思しき方々の元へ赴くのは、予期せぬ非礼に繋がることもあるのではないか?ということだ」
「ですね。まずは順応しがてら万全を目指すのが最適解だと俺も思います」
「ヴァイン、お前の言う通りだ。そこでだ、ロシェ」
「はっ!なんでありましょうか?」
僕は背筋が伸びる思いだった。
新しい旅行先を開拓するというこの任務を、僕は遊びに行く先を誰よりも先に見学に行くようなものだと、心のどこかで思っていた。
だけど違うんだ。
この星に来るまでの航路でも、ガツェ隊長もヴァインさんも、決してオートパイロットにはしなかった。
2人は小さなデブリでも、すべて記録し母星に連絡していた。
今後、工作班が除去の作業をして、安全な航路に整えていくのだそうだ。
隊長の気迫は、僕に事の重大性を悟らせた。
今後の調査や外交交渉で僕たちが嫌われたり、危険な奴だと疑われたらどうなるだろう?
この星の支配者階級の方々への接触は難しくなり、良好な関係は結べないかもしれない。
そうしたら、ここが旅行先になったとしても旅行者が襲われてしまうかもしれない。
それではもう、この星は安全で楽しい旅行先とは言えないだろう。
今回の任務というものがどういうものなのか、僕は急に理解したんだ。
僕は背筋を伸ばして隊長の質問を待った。
「ロシェ、昨日、飛行体を見たと言っていなかったか?」
隊長が聞いてきた。
ガツェ隊長とヴァインさんの部下として、この星に来ることが出来て本当に良かった。
この任務を終える頃には、僕もこの2人に少しでも近づけているだろうか?
新たな覚悟を胸に抱き、僕はガツェ隊長の質問に答えるべく、口を開いた。
《地球人の皆さんへ》
『今回の着陸ポイント』はこちら
↓ ↓ ↓ ↓ ↓




