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かにえRの犬も喰わない話  作者: かにえR


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33/35

暴力的なチーズ


スーパーに行った。


デザートコーナーの前で、ふと立ち止まる。


「チーズケーキが食べたい」


かにえRの胃袋が、確かにそう呟いたのだ。


「チーズケーキ……」


かにえRがそう呟くと、隣に立っていた婆さんがギョッとした顔でこちらを見て、そそくさと立ち去る。


頭のおかしなヤツだと思ったのか。


それとも、婆さんの名前が『チーズケーキ』だったとか。


知らない人間に突然名前を呼ばれ、驚いたのか。


そんなことはどうでもいい。


ローカルなスーパーだ。


バブルの頃に建てられたであろう大型マンションの横にある、小さなスーパーだ。


年寄りしかいない。


スイーツコーナーは、他のスーパーよりもずっと小さかった。


当たり前のように黒胡麻プリンはない。


(先日までハマっていたが、突然ブームが去った黒胡麻プリン。基本、大きなスーパーにしかない)


下段に並ぶチーズケーキを手に取る。


タルトだ。


軽い。


あまりにも、あまりにも軽い。


かにえRの胃袋が求めるチーズケーキとは程遠い。


「チーズケーキが食べたい」


また胃袋が呟く。


「どんな……」


そう尋ねるが、返事はない。


もう何十年も一緒にいる。


一緒にいるというか、共に生きている。


かにえRは外側で。


胃袋は内側で。


だから、胃袋の気持ちは十分わかっているつもりだ。


「チーズケーキ……」


そう呟きながらチーズ売り場に移動する。


いや、導かれたのだ。


そして、見つけた。


クリームチーズを。


お菓子作りとかに使う、塊のやつだ。


手に取る。


ずしりと重い。


文鎮みたいだ。


そういえば小学生の時、習字セットの申込書をもらった。


今みたいに、ドラゴンの柄とか、ファンシーな柄はない。


男子は青いライン、女子は赤いラインの入った黒地のバッグ。


かにえRは、赤い方に〇を付け、母に渡した。


次の日、母はホームセンターで買った習字セットを、幼きかにえRに渡した。


クラスでたった一人、違う習字セット。


みんなの文鎮は、緑色で二つに分かれてるやつ。


かにえRの文鎮は、銀色の一本のやつ。


「私も緑の二つに分かれてる文鎮がよかったな」


そう呟き、文鎮のように重いクリームチーズをカゴに放り込んだ。


家に帰り、クリームチーズを一口食べた。


砂糖もない。


ただのクリームチーズだ。


口内が一瞬で支配される。


支配だ。


濃厚な乳脂肪。


そして、むせ返るような酸味。


「おい、どうだよ」


クリームチーズが、かにえRの頬を片手で掴む。


「どう、どうって……暴力的な……」


満足げに笑うクリームチーズを見上げる。


あぁ、これだ。


これだった。


これだろ? 胃袋。


求めていたのは。


支配。


いや、もっと手前。


暴力。


暴力的なチーズ。


圧倒的な乳脂肪。


酸味。


お前は、暴力的なチーズを求めていた。


「あの薄っぺらいチーズケーキじゃ、満たされなかっただろ」


クリームチーズがかにえRの胸倉を掴み、耳元で囁く。


「は、はい……」


どこからか、声が聞こえる。


「……悪い……」


悪い?


なんだ?


胃袋。


胃袋だ。


胃袋が何か言っている。


「気持ち悪い……吐き気がする……」


胃袋が掠れた声で、そう呟いた。



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