太陽は丸描いてちょんちょんちょん
岡本太郎の「今日の芸術」という本に、
『太陽は本当に丸に線をちょんちょんちょんなのか』
みたいなことが書いてあった。
太陽を描けと言われたら、多くの人間が丸を描いてその周りに線を何本か描くだろう。
岡本太郎はそれに怒っていた。
いや怒っているかどうかはわからない。
それでいいのか、と。
言いたいことはわかる。
あれはたしか、小学2年生頃。図工の時間だった。
虫と遊ぶ自分を描こうというテーマ。
私は家にあった図鑑を学校に持って行った。
家には何故か2冊だけ子供用の図鑑があった。花と虫の図鑑。
ゲームや漫画が禁止の家だった。
明確に母にダメ!と言われたわけではない。
でもそれらは家の中にあってはいけないものという雰囲気があった。
そんな家にあった花と虫の大きな図鑑。
かにえRはその二冊の図鑑を舐め回すように読んだ。
大人になった今、花の名前は覚えていないし、虫は苦手だ。
図工のテーマを聞いた時、みんなが選ばない虫にしようと思った。
この図鑑があればそれが可能だと思った。
そしてかにえRは「ゲンゴロウ」を選んだ。
ゲンゴロウだ。図鑑でしか見たことがない。
大きな画用紙にクレヨンで一生懸命ゲンゴロウを描いた。
ゲンゴロウの足は赤っぽい。赤いクレヨンで塗ったあと、ティッシュで擦り気持ち悪さを表現した。
ゲンゴロウには失礼だが、写真で見ても気持ち悪かった。
ゲンゴロウの足にしがみつく自分を描き終え待っていると、担任の先生が言った。
最後に絵の具で背景を塗りましょう、と。
かにえRは青色の絵の具を手に取った。
ゲンゴロウは水生甲虫だ。
背景は水だろう。
青と、少し白を足そうか。
そう思って白色の絵の具に手を伸ばした時、先生がかにえRの腕を掴んだ。
「この虫は緑だから、背景が青だと似たような色になっちゃうでしょ?」
「でもゲンゴロウは水生甲虫だから……」
「緑と青じゃ同じような色でしょう。赤の方がいいよ。夕焼けで遊んでるみたいでしょ」
「でも……」
かにえRは頑固だ。
青色の絵の具を握りしめ固まった。
先生はパレットに赤色の絵の具をビュッと出して筆を取る。
そして、固まるかにえRの目の前でゲンゴロウの周りを赤色で塗り始めた。
4時間目だ。給食の時間が迫っていた。
スープの匂いが廊下を通り教室に入ってくる。
「ほら、あとは自分でやって」
先生から筆を受け取り、ゲンゴロウの周りを赤色に塗る。
これじゃあ足の色がわからないじゃん。
こいつ、足が赤いのが気持ち悪いのに。
緑の身体に赤い足が気持ち悪いから選んだのに。
後日、廊下に張り出されたその絵の端っこに金色の何かが付けられていた。
あの時、確かに太陽は丸描いてちょんちょんちょんだった。




