ダンジョン攻略7
「・・・ここが、ラドンの間か。」
ゴーレムのエリアを無事に抜けた風太は、ラドンがいるエリアに到着した。そこは、このダンジョンを見てきた中で、今までで一番広い部屋だった。天井が見えないほど高い上、次の部屋に行くための入り口すら見えなかったのだ。地面には、まるで高い山のように岩が突き出、あまりの高さに先端が見えなかった。それもまた、この部屋の広さを強調していた。
だが、一方で、ラドンの姿がどこにも見えなかった。
『・・・ラドンはどこにいる?現在は主の命で、間を離れることを禁じられているはずだが・・・?』
エンシェントベヒモスは、ラドンの姿が見当たらないことに愚痴をこぼす。だが、風太とフィードは違っていた。
「・・・出てこい。まさか、油断したところを騙し討ちなんて考えてないだろうな?」
『・・・気付いたか。そうでなくては、ここまで来る者としては不適格だ。』
なんと、地面が隆起し、中から巨大な鳥が現れる。大きさは、進化したガルーダと同じかくらいで、まるで固まった溶岩のようにゴツゴツした身体をしていた。
「・・・こいつがラドンか。」
『なんだ、お前。隠れていたのか。てっきり逃げたと思ったぞ。』
『私が使命を放棄すると?馬鹿なことを。・・・だが、驚いたのは事実だ。まさか、ここまで来る者が現れるとは。このダンジョンが作られて以来の事態だ。しかも、主と同じ五大竜の契約者とは。長生きはするものだ。』
「ラドン。今の状況は分かっているはずだ。通してくれ。俺達は、魔王より先にランドに会わないといけない。」
『状況は察している。そこのアホとは違う。』
『ラドン!言うに事欠いてアホとはなんだ!』
仲間であるはずのラドンの棘のある発言に、エンシェントベヒモスは憤る。だが、ラドンはエンシェントベヒモスの怒りなど、気にも留めていなかったが。
「なら・・・。」
『・・・だが、このまま通すわけにはいかん。・・・魔王と五大竜なしで戦えることを示してもらおう。』
「!フィードなしで魔王と?」
『主の言だ。魔王の進むスピードが、想定より速いという。このまま行けば、対峙する恐れが高いという。しかも、魔王は闇の竜から力を与えられているのだ。五大竜の力を封じる術を持っていてもおかしくはない。』
「・・・確かに。外にいるブレイの攻撃から身を守っていたなら、できても当然か。」
『故に、お前を試さなければならない。これより私を、お前自身の力だけで倒してみせろ。お前が勝てば、ここを通し、お前と契約も結ぼう。』
「!本当か!」
『もちろんだ。二言はない。』
『おい!勝手に何決めてるんだ!』
『非常事態なのだ。それを打開できる者と契約することに何の問題もないだろう。そもそも、既に主は、この者達に賭けるとのことだ。聞いていないのか?』
『ああ!?聞いてないぞ!』
『・・・だからお前はアホだと言うのだ。』
『ふざけるな!』
ラドンに徹底的に貶され、エンシェントベヒモスは激怒する。だが、ラドンはエンシェントベヒモスを相手にせず、風太の方を向く。
『・・・どうする?私の試練を受けるか?』
「ああ。お前を倒して契約する!」
『よかろう!ではいくぞ!』
風太の意志を確認したラドンは、上空に飛び上がる。あっという間に、ラドンの姿は見えなくなった。
「・・・あんなデカいのに、速さはガルーダ並みだな。」
『風太。気を付けるんだ。君は今までいろんな敵を倒してきたけど、単独で魔王クラスの敵を倒したことはないはずだ。』
「そんなことはない。アダマンタイトゴーレムなら倒したことがある。」
『・・・いや、ゴーレムはあまり参考にならないよ。それに、ここは奴にとって・・・。』
その時、上空から大量の岩石が落ちてきた。岩石は、まるで巨大な槍の先のように尖っていた。当たれば即死、掠ったとしても大怪我は免れないだろう。
「!【トルネードフィールド】!」
風太は、周囲に風の結界のようなものを出し、岩石を弾き返す。
「・・・上から岩を落としてくるとはな・・・!」
『頭上は人間にとって一番対応が難しいんだ。おまけにあんな高い所にいたら、こちらからの攻撃手段は限られる。これならエンシェントベヒモスの方が遥かに楽だよ。』
「・・・ゴーレムと違って頭がいいし、空を飛べる。おまけにこの場所は、あいつのホーム。確かに、ただ作製者の命令で動くだけのゴーレムに勝ったくらいじゃ駄目だな。」
風太は、ラドンのいるであろう天井を見つめる。
(・・・飛んでる敵を攻撃する手段はある。だが、それは敵が見えている場合だ。見えないほど離れていたら、攻撃しようがない。前までの俺なら、魔物に頼ってばかりだっただろう。だが、今の俺には対抗する方法がある!ソウから教わったこいつの使い所だ!)
「・・・【フライ】!」
風太は、出発前にソウから教わった飛行魔法【フライ】を使用する。風太の身体は地面を離れ、天井に向かっていく。
(俺は、風属性。飛行魔法と相性がいいと言われてたが、本当だな。まるで走っているのと変わらない。)
風太は、凄まじい速さで天井に向かって飛んでいく。それをラドンは、感心した様子で見る。
『ほう。飛行魔法を使えたか。大量の魔力を使用するが、さすがは五大竜の契約者。問題ないと見える。・・・だが、このまま近付かせはせん!』
そんな風太に、ラドンは今度は岩石だけではなく、自身の羽ばたきによる突風を交えて攻撃する。
「!」
初撃はかわすも、ラドンは立て続けに岩石交じりの突風を放ってくる。
(凄い突風だ・・・!それに、岩も一緒に飛んでくる!おまけに際限がない!そのまま突っ込んだら大怪我だ!・・・なら・・・!)
風太は、再度【トルネードフィールド】を自身に張ると、そのままラドンに突っ込む。
『ほう。面白い方法でこれを突破するとは。』
「近付くことができれば・・・!」
『だが、お前は私の力を見くびっているようだな。』
「!?」
突然、ラドンの身体が赤色化し出す。それと同時に、凄まじい高熱が風太を襲う。
「!?」
危険を感じ、風太は再び距離を取る。おかげで大事は免れたものの、多少火傷を負ってしまう。
「・・・何だこれは!?」
『これが私の奥の手だ。私は、この世界でも稀な複合属性を持つのだ。』
「・・・複合属性?」
聞き慣れない単語に、風太は困惑する。
『本来、属性は一つであり、その属性の攻撃しか使うことができない。だが、稀に弱いながらも別の属性を持つ存在もいる。私は、地属性でありながら、火属性の力も使うことができるのだ。フェニックスに比べれば劣るが、それでも住む者が言うBかCランクの強さはある!』
「・・・マジかよ・・・!」
ラドンは全身がまるで燃え盛る溶岩のような姿で、自身の奥の手を語る。それを聞いた風太は、苦虫を噛み潰したような顔をする。
(・・・くそ!俺達人間は、魔物と違って防御力は低い!ランクA以上と戦えるからといって、攻撃をくらえば終わりだ!Cでも死ぬ!おまけに弱点ともなれば、余計に致死率が上がる!・・・どうする!?)
対策を考える風太。だが、ラドンはそんな暇など与えぬといった様子で、岩石を飛ばしてくる。しかも、ただの岩石ではない。燃え滾る溶岩自体を飛ばしてきたのだ。
「!」
溶岩弾を風太は回避するも、あまりに高熱を帯びた溶岩弾は、近付いただけで風太の身体にダメージを与える。風太は、熱によるダメージを受けないで回避できる位置まで引かざる得なかった。
(・・・最悪だ!近付きたくても、あの状態のラドンに近付けば、それだけで死ぬ!おまけにあの溶岩弾は、ただ回避してもダメージを受けてしまう!どうやって攻略する?)
しばし考える風太。だが、方法は一つしかなかった。
(・・・一つしかない。魔法であの火をかき消して、岩の身体を砕く!・・・だが、あの溶岩の身体をかき消せるか?俺の魔法の属性は風。いくらランクが低いとがいえ、相性が悪い。一応、モーゼからようやく上級も教えてもらったが、もし、通じなかったとしたら、逆に敵の火を強くするだけだ。・・・どうする?)
手段はこれしか残されていない。だが、相性は最悪で、リスクも高い。さすがの風太も躊躇いを覚える。
(・・・いや、一つだけある!相性関係なく押し切れそうなあれが!・・・ソウ。お前の教えてくれたもう一つの魔法、ここで使うぞ!)
風太は覚悟を決めると、燃え盛るラドンを風魔法で押し切る戦法に賭けることにした。
「・・・いくぞ、ラドン!」
風太は、魔法を発動すべく、魔力を収束させていく。
『?何だ?魔法でこの溶岩の身体を吹き飛ばそうというのか?だが、如何にお前の魔力が多くとも、風の魔法でこの身体を砕くことはできんぞ!』
「・・・最初に言っておく。・・・死ぬなよ。」
風太は、それだけ言うと、魔法を発動する。
「・・・【ルドラ】!」