新フロア始動(仮)
間が空いてしまいすみません。忙しい時期は脱しましたのでこれからは前のペースで更新できると思います。どうぞこれからもよろしくお願いします。
ヘリアンサス――リアがやってきた翌日、支配の間のスクリーンに映し出されている冒険者たちの顔は秀逸だった。僕だけでなく、義姉さんや義妹、それにフローラにリアもクスクス笑っているぐらい面白い。そして彼らがそんな間抜け面を晒している理由は……。
『おいおい、これ以上進めないぞ』
『どうなってんだよ。情報では最初は沼のはずだろ!?』
『あたしに聞かれたって分からないわよ。今朝入ったら既にこうなってたの』
今、彼らは昨日ランクが上がったことで作れるようになったフロアにいる。が、デパートとかではあるまいし、別にそれぞれの階層に数字を振っている訳がない。ということで、彼らには今いるフロアが新しく出来たものという認識はないはずである。
「とりあえずこの反応からするとある程度時間に余裕ができるね」
「はい。魔物が巣を構築し終えるまでには数日掛かると思われますが、その間につきましては冒険者といえども無茶はしないかと存じます」
フローラに淹れてもらった紅茶をゆっくり頂く。今回はなんとビックリ伊勢紅茶というブランド品らしい。日本にも紅茶ブランドがあるなんて知らなかった。
「うんうん、冒険者なんかにトンネルを掘れるわけないもんね」
「ふふ、灯の言う通りね。あの野蛮人達に土木技術なんて高等技能はないに決まっているわ」
「ですけど宵様ー、あいつら何かしようとしてるですよー」
リアの指摘に僕も目を戻すと、画面の中の冒険者達が躍起になって様々な方法を試している姿を見てとれた。が、どれも成果には繋がらず、一向に進んでいる様子はなかった。
では、彼等が躍起になっている理由はというと、それは目の前が全て土で埋まっているからに他ならない。誇張なしに、彼らの目の前には端から端までぎっしりと堆積している土しかないのだ。
「入ってきた時の呆気にとられた顔は写真に撮っておきたかったわ」
とは義姉さんの言。そりゃ沼と聞いていたのが土壁になっていたら誰だって驚くよね。
土については今回、新しい試みをしようと、それなりのDPを消費して設けた物である。フロアは大きな空間が一つだけで今までの一層のような小部屋と通路で構成される形ではない。うろ覚えになるけれど、確か幅2キロ、奥行き4キロ、高さ30メートルくらいの馬鹿デカイ部屋だったはず。それだけの大きさの部屋へ容量一杯に土が敷き詰められている。
そして、そこにある配下を配置している。が、冒険者とは逆の位置、つまりは次の階層手前に配置したので冒険者達と出会う事はない。あとは彼らの習性に期待して放置しておく。次の階層へは流れないように扉は頑丈にしているし大丈夫だろう。
冒険者のほうは、流石に大技で土を削り取るといっても限度はあるだろうし、今映っている人達を考えるとまぁ無理だろう。
「さてと、彼らが手をこまねいている間にこっちはこっちで進められる事をしようか」
「と、仰いましても現状、特に何かをして頂く事は御座いません」
「へ?」
折角の時間だから有意義に使おうと提案したら、間髪いれずにフローラに否定された。そんな簡単に何もないと言われるとは思ってなかったから一瞬思考が止まる。
「マイマスターは今まで不休のまま、ずっと動かれてきました。丁度いい事ですし、この辺りでお休みになっては如何でしょうか?」
いや、フローラさん? 今まで不休と言ったって、僕はここに座っていただけですよ? 疲れることなんて一つもありませんよ。
そういった事を言い返すと、義姉さんと義妹の眼が妖しく光った。あれ? どうしたの?
「そう、洸ちゃんは全然疲れてないのね。良い事を聞いたわ」
「お兄ちゃん疲れてないんだ。良い事を聞いたよ」
二人は同時に言うと、互いに互いを警戒しだした。
「あら、灯。あなたは慣れない弓を扱うのに疲れたでしょう? 時間はあるのだからゆっくり休んだらいいわ」
「お姉ちゃんこそ、飛びっぱなしで戦ってたから疲れてるでしょう? 英気を養うためにもここはじっくり休んだ方がいいよ」
ばちばちと二人の間に火花が散っている幻覚が見えた。何これ怖い。
「うふふふふ」
「あはははは」
二人は不気味な笑いを浮かべながら牽制し合う。じりじりと僕に向かって少しずつ近づいてきているが、また怖さを引き立てている。
「あ、ねぇフローラ。この前生け捕った捕虜については――」
「万事抜かりなく対応しておりますのでご安心ください」
対応してくれていたのは安心できるけど、現状では逆に安心の材料にならないよ?!
「他に何か……」
「あ、じゃあじゃあマスター、あたしと遊びに行くですよー♪」
と、突然僕の手を掴んで引っ張ったのは画面をずっと眺めていたリアだった。結構力強く引っ張られたから少しつんのめる。
「っ! リア、少し待ちなさい!!」
「あー、リア! 抜け駆け禁止!!」
義姉さんと義妹が声をあげるが何のその、あっかんべーをして逃げようとするリア。
しかし、僕はその態度にカチンときた。リアが引っ張るのに反発し、逆に引き寄せる。
「はへ?」
そして、近付いてきた頭にチョップチョップチョップ。
「あだ、あだ、あだ。うぅ~~」
恨みがましい眼で見つめてくるが、そんなの気にしない。
「今のはリアが悪い。きちんと姉さんと灯に謝りなさい」
追い付いて来ていた義姉さんと義妹を指差し指示する。ちらりと見えた2人の表情は毒気を抜かれたようでいて、どこか嬉しそうでもあった。
暫し睨み合いが続いたが、先に折れたのはリアだった。少しだけ義姉さん達に向けて体を向けて謝った。
「うぅ~~、ご免なさいです」
声音からは渋々というのが丸分かりだったが、義姉さんと義妹は僕が叱ったのもあって謝罪を受け入れてくれた。
「もうこんなことはしないように!! 次にしたらお仕置きだからね」
「……ハイです」
少しビクビクしながら頷いた。お仕置きという言葉がそれほどに恐かったのかな。まあ、いいか。くるりと体の向きを変えて今度は義姉さん達の方へ向き直る。
「ごめんね姉さん、灯。今日のところはこの子に色々教えることにするよ」
背後にがぁーーーん! と文字が添えられそうなほどショックな顔を見せる2人。
「え、ええ。洸ちゃんがそう言うなら、し、仕方ないわね」
「ふ、ふん。後で遊んでって言われても遊んであげないもん」
義姉さんは(頬が引きってはいるが)笑みを見せ、義妹の方は(目に涙をためながらも)拗ねた振りをして聞き入れてくれた。
「ふう。じゃあ僕たちは部屋に居るから何かあったらすぐに呼んでね」
少し離れた場所にいるフローラへ頼む。彼女だけは常と変わらぬ笑みを湛えて一礼した。
「承知いたしましたマイマスター。リア、あまりマイマスターにご迷惑をお掛けしないように。私達の仕事は役に立つことなのですから。あまりに事が過ぎますと送還の可能性があることを理解しておきなさい」
フローラの注意にリアがコクりと頷く。やけに神妙なのは何か理由でもあるのだろうか。少し疑問に思いながらも支配の間を後にし自室へとリアをつれて戻る。
兎に角、リアに簡単なルールを教えないとな。




