冒険者捕えて縄をナウ!!
新年明けましておめでとうございます。
今年もまた拙作にお付き合い頂ければと思います。
『で、お姉ちゃん。コイツらどうするの?』
問い掛ける義妹の足元では気絶している2人が転がっていた。義姉さんの翼を掴んで高台まで運んだ後に、義妹の手で昏倒させられたのだった。その運んだ当人は運んだ荷物の重さで疲れた肩をほぐしていた。
『どうするって、灯。そんなの決まっているじゃない』
答と一緒にとてもにこやかな笑顔が義妹に返される。それを見た義妹は少し焦った顔でコクコクと何度も頷いていた。
うん、あの笑顔はヤバイから義妹の行動は何も間違ってはいない。何時だったかな……あれはそう中学二年の時だったかな。バレンタインの時にクラスの女の子がチョコをくれたのだけど、それを知った義姉さんはあんな笑みを見せていた。そして何かしたのだ。その後女の子は引っ越しをしたのだけど、本当何をしたのだろう。ま、過去の事はともかく、今は目の前の2人だ。
そんな事を考えていたら義姉さんがこちらに話し掛けてきていた。
『洸ちゃん、聞こえてる? この2人なのだけど捕虜にして羽の傷も手当てしておいて貰えないかしら?』
そんな義姉さんの頼みに対して後ろから不機嫌そうな声が聞こえてきた。
「厚かましいことこの上ありませんね。ですがマイマスター、この者達を捕虜に致しますのは私も賛成で御座います」
しかし、不機嫌ではあれど義姉さんの考え自体にはフローラも同意を示してきた。それでも捕虜にするかは僕に判断を任すみたいだ。
う~ん、食糧はまだ余裕があるから大丈夫だし、今捕虜用の牢獄を使っているのは居ない(勇者にはきちんと部屋を与えてある)。だから捕虜として扱うのは別に問題はないといえばない。…………ま、いっか。
「それじゃ、一先ずは牢獄に放り込んでおこう。その後はお願いできる?」
パネルを操作しながら問い掛ける。
「了解致しました。では、武装解除と共に治療を行って参ります」
フローラが恭しく一礼するのと同時に画面の中では冒険者2人の姿が一瞬光に包まれて牢獄へと転送される。きちんと転送できたようだ。
『ありがとう洸ちゃん。愛してるわよ』
言葉と一緒に投げキッスまでしてきた。きちんとカメラの方向に向かって。
……どうでもいいことだけど、どうやってカメラの位置を把握したのだろう。かなり巧妙に隠してあるし、画面を見せた覚えもないのだけど。
『あー! お姉ちゃんず~る~い~。お兄ちゃんあたしも愛しているからね!!』
義妹が叫び、そして姉と同じく投げキッスをした。残念ながら見当違いの方向だけど。
『あ、ほらサシャも早く早く』
義妹は更に勇者を焚き付けている。いや、彼女は関係無いのじゃないかな。
『ちょ、灯様。あたしは別に……』
実際、嫌そうな顔をして抗議しようとしている。まあ、当然だろう。けれど、義妹は許さなかった。
『あっ? 昨日もきちんと挨拶しなかった癖に口答えするの? ねぇするの? しても良いと考えてるの?』
女の子とは思えない低くドスの利いた声。お兄ちゃんはそんな義妹が怖くてなりません。いや、本当日本にいた時の可愛さが霞むくらいですよ。
そして、勇者にとっては恐怖の象徴だったようで、途端にガクガクと震え出した。顔色も青いし、結構灯が怖いのだろう。震え方も尋常じゃないしね。
『あ、あああ、あか』
『あぁん? きちんと喋ろうよ。それともこのお口は飾りなのかな?』
むにーっと勇者の頬を引っ張る義妹。勇者のほうはされるがままになってるけどいいのか? あと、何故義姉さんは微笑ましそうに見ているのか……触れないでおこう、なんか怖いし。そうして暫くは頬をむにむにとしていた義妹だったが飽きたのか、突然パッと手を放した。
『ふん、これくらいで許して上げる。でも次はないからね! もし同じことをしたら……』
ぎろっと睨む義妹に引っ張られた頬を押さえてぶんぶんと首を降る勇者。それを見ても義妹はまだ疑わしそうにしていたが、やがて勇者から離れて持ち場に戻った。
一連の流れにほっと胸を撫で下ろした。義姉さんもだけど、義妹もこの世界に来てからタガが外れたように動いている。別段僕自身に迷惑が来ないから放置しているけど、そのうち対策とかいるのかな。
と、視界の端にフローラの姿を認める。あれ? まだ行ってなかったのか。そう思い、フローラの方に振り返ると、彼女は清水の舞台から飛び降りるような、そんな決死の覚悟を灯した表情でこちらを見ていた。
んん? 捕虜にした2人の武装解除と治療にそこまでの覚悟が必要なのか?
「ま、マイマスター!」
首をかしげると、とうとう意を決して話しかけてきた。きたのはいいのだけど、どもってるよ、おいおい。
「どうしたの? なにか問題でもあった?」
訊ねるとわたわたしだして、更に顔を真っ赤に染める。そこまで緊張する用件があっただろうか。頭の中を洗ってみるも、何も出てこない。そもそも先程まで平然としていたのだから何が切っ掛けに……。考えられたのもそこまでで、フローラが口を開いた。
「わ、私もあああ、あいあい」
「あいあい?」
「愛しております!!」
そう叫び、そのまま回れ右をしたかと思うと一瞬で部屋から出ていった。そしていなくなった方向からドップラー効果付きの「失礼致します」という声が聞こえてきた。彼女は相当恥ずかしかったようだが、こっちも恥ずかしいよ。顔が火照ってるのが分かる。でも不快じゃない。嬉しさだけが心を満たした。
あの後はフローラは捕虜を無力化するとゆっくり時間を掛けて戻ってきた。多分落ち着くための時間だったのだろうけど、戻ってきた時僕の顔を見るなりすぐ真っ赤っかにしていたからあまり効果はなかったようだ。
冒険者のほうはあの後5組もの冒険者が来た。一組一組は4,5人だったけど数が多かったし、それぞれが何ともユニークな方法で沼を渡ろうとしていた。本人達には悪いが、必死になっているその姿は見ていて面白かった。そして、まだまだ自分には思いもよらない方法が隠されている事に気付かされた。もっとも、いつもの通り泳いで渡るという暴挙に出た組もいるにはいたが。
しかし、秀逸だったのは船(というよりはボート)を運んで来てそれに乗り込んだことだ。あれは本当に吃驚した。そりゃ、屈強な男5人であれば運べなくはないだろうし、別にあの部屋までに何か仕掛けている訳でもないのだから出来るが、それでも中々やろうとは思わないだろう。
けれども、その努力が実ることはなく、船底に穴を空けられて彼らは一様に沼に投げ出され、フレッシェンシャークに各個撃破された。穴を空けたのもそいつで、いきなり船が沈みだした時は一体どうしたのかと思ったよ。弓を射構えていた義姉さん達でさえ呆気に取られていたのは取っても印象的だった。
他にも水を操る魔法で疑似的に沼地の表面を固めたり(途中で魔法を継続できず水没)、忍者よろしく水の上を走るという快挙を成したり(直線的な動きしかできず真正面から矢で射抜かれた)した。自分で作っておいてなんだけど、沼地って結構難易度高い?
「――と、思ったんだけど実際どうかな?」
少し落ち着いた(顔はまだ赤い)フローラに聞くと、頷きを以って肯定された。
「ただの沼地でしたらそれほど難易度はありませんでしたが、淡水生物強豪の一角であるフレッシェンシャークを召喚なさりました事で跳ね上がりました。現状ではあれを撃退するのは困難でありますので……」
「ん? その言い方だと上位者は問題ないように聞こえるけど?」
ふと沸いた疑問を口にすると、なんとフローラはその疑問まで肯定した。
「仰る通りでございます。彼等はその力を以って野生のではありますが、討伐を行っております。勿論、マイマスターの配下でございますので野生のとは役者が違うとは存じますが、討伐不可能とまではいかないかと思われます」
うは……そんな上位者がごろごろいる帝国にしなくてよかったよ。
「……そろそろ冒険者達が用います店が閉まる頃です。彼らの挑戦も一先ずは終わりになるかと存じます」
ああ、もうそんな時間なのか。時間が経つのが早いな。
「うん、じゃあ姉さんや灯を呼んできてもらって良い?」
「畏まりました。では彼女らを呼びにまいりました後に夕飯の支度を致します」
「うん、よろしく」
僕は手を振ってフローラを見送った。しかし、やっと二日終わったか。まだまだ先は長いな。




