お茶が入りました
「これで、ガイオスに続いて2人目だね。それに姉さん達の情報も向こうに渡っちゃった」
「致し方のないことで御座います。今回は相手の判断が良かった、とそう言えるのではないでしょうか」
僕とフローラはつい先程までの戦闘について話し合っていた。戦った本人達がいないので、反省会とはいかないが、次の改装で活かせることがないか確認していたのだ。
「やっぱり通信関係と言うか、姉さん達と連絡を取り合えるようにするのが先決だね。そうしたらアナライズの結果を伝えることもできるのだし」
僕の答えにフローラも同意を示してくれた。
「マイマスターの仰ることはもっともだと、私もそう感じております。ですが、前にもお伝え致しましたが、ダンジョンのシステムとしてご利用なさることは出来ません。方法と致しましては個人の能力を活用なさる他はないと存じます。ですが…………」
まあ、ダンジョンの機能にそういったものがないというのも、遠話の魔法があるというのも昨日聞いた。ということで、問題はその遠話の魔法を使える人材ということになる。
「配下召喚でそういった人材はいたりするかな……」
気になったのでパネルを操作して配下召喚で選べる人材(魔材?)を調べていく。聞いてもよかったけど、こういうのは自分でやるのが楽しいからね。
「目ぼしいのがいないね」
スキル欄を覗いていくが、遠話関連のものは全くない。結構色々あるのだが、遠話関連だけがないのだ。まさか先輩の嫌がらせか!?
「遠話の魔法は大商人や国の軍部関係者でありませんと必要無いもので御座います。習得につきましても、殆ど全ての魔法書が国によって管理されておりますので、非常に困難となっております。これは人間族魔族どちらでありましても共通の事実です」
フローラが申し訳なさそうに言ってきた。別にフローラが悪いわけではない。気にしないように言っておく。
しかし、だとすると遠話関連の人材確保は結構大変になるな。むぅ、この国だと、まさか大商人や軍人がノコノコ来るとも思えないし、拐うなんて犯罪に手を染める気もない。殺人をしているのに今さらとか、最初の勇者メンバーにしているのはなんだとか言われても困るけど。
「取り敢えず遠話については置いておこう。こっちからどうしようもないのだし」
そう言うとフローラはなんだか変な顔をした。顔をしかめて、まるで苦虫を噛み潰したような…………うーん。触れていいのかどうかで迷っていると、フローラは顰めっ面を崩してまたもや謝ってきた。
「申し訳ありませんマイマスター。今、遠話では御座いませんが、遠方と連絡を取る手段を思い出しかけたのですが、今一つ思い出せませんでした」
「ああ、うん。さっきも言ったけどあまり気にしなくて良いから。また思い出せたときに言ってね」
「はい。至らぬ点ばかりで本当にマイマスターには申し訳なく────」
また謝ろうとして来たので、強く引き寄せ強引に口を塞ぐ。
「☆←⊆▼〆ヽ!ー÷∞℃∴$§」
いきなりのことでフローラは目を白黒させている。いやー、至近距離で見ると本当に綺麗な眼をしてるのが判る。ついでとばかりに舌も入れてみる。
「~~~~~~~~~~~~っ!!」
その途端、声にならない叫びを上げ、より一層慌てふためきだすフローラ。だが、慌てているのは目と手だけで他は全く動いていない。故に暫く堪能させてもらった。
「っ!! マイマスターいきなりなされては困ります。」
ようやっとのことで口を離した第一声がそれだった。フローラの言い分だといきなりじゃなく宣言してからならいいのかな? 下らないことを考えつつも口は全く別のことを話していた。
「いや、だってフローラはすぐ謝るじゃないか。僕としては謝られるのは嫌だったから、ついその可愛らしい口を塞いでしまったんだよ」
自分で言ってて、ジゴロみたいな台詞だ。しかし、フローラには効果があったのか、顔を赤らめてそっぽを向いていた。そして、小さな、それはもう小さな声でこう答えた。
「し、仕方ありませんね。マイマスターのお手を煩わせてしまいましたが…………くふ」
フローラさん、フローラさん、顔がにやけてるのバレバレですよ。でも、可愛いから放置! Cawaiiは正義!
と、思考が寝不足のせいか変な方向に行ってしまう。いけない、いけない。話を元に戻そう。
「とにかく、遠話については機会が来るのを待とう。それで、フローラから見て他に気付いたことはない?」
問いかけると、フローラは顔をあっちの方向に向けたまま頬をパンパンと叩いてからこっちに振り返った。その顔は既にきちんと引き締められていて、浮かれた表情は見受けられなかった。
「私から申せますことは一つだけ御座います」
「それは?」
「はい、射手の少なさです。現状サシャが使い物にならないことが判明致しましたので、宵と灯の2人ではこの先、大人数が参りました時に対応できなくなる恐れが御座います」
「なるほど…………」
言われて思い返してみると確かにそうだ。なまじ義姉さんの連射速度が高いためあまり気にしてなかったけど、あれは1人に対してだもんね。複数の目標になったときにあの速度であの精度を求めるのは酷というもの。
「でも、仮に射手を増やすとしても、今度は灯の考えを実行に移しづらくなるよね?」
フローラもその意見は予め予想していたようで難しい顔になる。
「むぅ~~~」
僕も難しい顔になり、2人して悩む。しかし、良い案は出てこなかった。まあ、そんなものが簡単に出るのなら昨日の話し合いの時に出るしね。
「ふう、良い案も浮かばないし、この話もここまでにしよう。フローラ、紅茶淹れてもらっていい?」
空の容器を見せて催促する。いやほんと、美味しいとついつい飲みたくなるんだよね。
「了解致しましたマイマスター。今暫くお待ちください」
恭しく一礼してから部屋を出ていく。今度はどんな紅茶が出てくるのかな。少しワクワクしながら待っていると、紅茶の前にお客さんがやって来た。
「今度は…………5人か。で、全員が姉さんみたいに羽があるな」
そう今度の冒険者グループは有翼人達。天魔族とは違うと思うけれど実際はどうなのだろう。少し気になるけれど今はこの冒険者達だ。
装備品は5人のうち、2人が槍、2人が弓、そして最後の1人は杖だった。杖ということは魔法使いか。一応アナライズでも確認。やはり槍士、弓士(斥候ではなかった)、そして魔法士だった。レベルはマイナスがなかったから低いのは低いのだろうけど、これ、義姉さん達大丈夫かな…………。まあCawaii!は正義だから大丈夫だろう。
彼らは他の冒険者と同じように警戒しながら進みだした。敵が居ない、罠が置かれていない状況なのに油断する気配もない。中々に場数を踏んできていることが予想できた。
「お待たせ致しました、マイマスター」
その時、横手からそんな声と共に紅茶を淹れたティーカップが置かれた。紅茶からは甘い花の香りが漂ってくる。そちらに眼を向けるとティーカップには夕陽のようなオレンジ色が映えていた。
「これはこちらの世界原産の茶葉で御座います。マイマスターの世界ですと、ウバティーに近いかと思われます」
ウバティー…………初めて聞いたよ。正直紅茶なんてダージリンかオレンジペコ位しか知らない。
「眠気覚ましに飲まれる方も多いですので、今のマイマスターに必要ではと愚考致しました次第です」
甘い香りで眠気覚ましとは思いもよらなかった。試しに一口飲んでみる。
「渋…………あーでもなんだかちょっとスッキリした」
「クスクス、マイマスター、スッキリしませんと眠気覚ましとしては使われないのではないでしょうか?」
笑われた。でも、不快というよりはちょっと親しみを持ってくれて嬉しいかな。ふう、もうCawaii!は正義とか言わないからね。
「それよりフローラ、この冒険者だけど」
「はい、中々にマイマスターのダンジョンですと相性が悪そうで御座いますね。もしかしましたら二つ目の部屋以降まで来るかもしれません」
フローラはさっきまでの柔和な表情からキリッとした表情に戻り、そう結論付けた。しかし、そうか。フローラもそう思うか。
「とにかく今は義姉さん達の頑張りを期待するしかないね」
「はい」
僕とフローラは第一の部屋に入っていく彼らの姿を見ながら、そう頷きあった。




