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吃驚しました。まさかあんなことが……

『ここまで敵どころかネズミ一匹すらいなかったな』


『ああ、ガイオスの旦那の情報通りだ。だか、それによると…………』


『ここが難関でんな。あの沼地にえろうごっつい魚類がおるとか』


『ガイオスさんの言う通りならそうですが、ダンジョンというのは日々変化していきますからね。鵜呑みにするのは危険です。実際、あの高台の情報はありませんでした』


 部屋に入ってきた5人のうち4人が色々面白いことを言っている。一つはガイオスからの情報という点だ。昨日の冒険者達も同じ事を言っていた。これはガイオスが何かしらの組織、例えばギルドとか協会とかそういうのに情報を包み隠さず渡していると予想できる。つまり、これからも生きて帰った冒険者がいたら情報が漏れていくと判断した方が良さそうだ。

 もう一つはダンジョンの変化。こっちはある程度予想通りだったけど、他のダンジョンも日々作り替えていることが判る。これはもしダンジョン同士で争う事になった時に有益な情報になりうる。一応覚えておこう。


『………そこに3人いるな』


 最後まで黙っていた男がぼそりと呟いた。彼の装備は他の4人と違い、どこか風格が感じられる。そう、昨日のガイオスのような達人級の風格が。年齢も他の4人はまだ若い感じだけど、この人だけおっさんだよ。40くらいのおっさん。


『あらあら、ばれちゃったかしら。折角驚かそうと隠れていたのに、ね。残念だわ』


 義姉さんが全然残念がってない、凄く愉しそうな様子で姿を見せた。長い後ろ髪がふさあ、とたなびいている。なんというか、立ち姿がひどく似合っている。元々舞台映えする人だったしな。

 そんな義姉さんの後ろにこれまたヤル気満々の義妹とあくびをしている勇者の姿があった。義妹はともかく、勇者ヤル気ないね。


『うっひょ~~。これまたべっぴんさんばっかやないか。なんやなんや、ここもしかしてダンジョンやなくて、遊郭やったかいな』


 エセ関西弁の男が嬉しそうに義姉さん達を眺める。他の3人もエセ関西弁ほどではないけど、美人3人の突然の登場に驚いていた。しかし、おっさんだけは美人だから驚くということはなく、鋭い目で義姉さん達を観察していた。


『ふん、隠れるつもりなどさらさら無かったろう。姿は見せずとも気配は消しておらん。何より闘気がただ漏れではないか』


 気配とか闘気とか良くそんなのが判るね。後ろの4人は判ってなかったみたいでさらに驚いた顔を見せていた。


『気配はまだ判るのだけど、闘気とかそういう言葉、師範以外で使う人初めて見たわ。貴方それなりに出来そうね』


『そうだね~、最低でも師範(せんせい)ぐらいの強さはありそうだね』


 義姉さんと義妹はさも楽しげに会話をしている。師範とは日本にいた頃に通っていた古武術の道場で僕達に指導してくれた人のことだ。武の道一辺倒という感じの強面のおっさんで、実際ちょっと喧嘩の強い不良程度じゃ束になっても敵わない強さを誇っていた。というか、たまに自衛隊や警察に出稽古に行くとぼやいてた気が…………うん、気にしない気にしない。

 ちなみに最近では得意武器でという条件がつくが、義姉さんも義妹も勝率は半々といったところ。あれ? 今気が付いたけど、それとっても強くない?


「マイマスター、紅茶の御代わりは如何ですか?」


 思考の坩堝に填まりそうになったところでフローラが声を掛けてきた。有難い。お願いして再度入れてもらったカモミールティーを一口飲む。なんかすっと落ち着けた。

 フローラにお礼を述べて画面に意識を戻す。そこでは姉妹の会話に青筋をたてたおっさんが吠えたてていた。


『小娘どもが! 好き勝手言いおってからに、覚悟はできているのだろうな。我を侮辱した罪、その身で償ってもらおう』


 いつの間にか義姉さん達はあのおっさんをからかっていたようだ。後ろの4人も敵愾心溢れる顔になっている。この短い時間の間に一体何を言ったのやら。


『ふふふ、やれるならやってみたら? 無理でしょうけど』


 更なる義姉さんの挑発! 彼ら全員顔を真っ赤にして義姉さんを睨み付けている。大丈夫なのかあれ?


『ふん、小娘こそ今泣いて詫びぬことを後悔するのだな。フリッツ!!』


 おっさんが名を呼び手で合図すると、後ろにいた4人のうちの1人がこくりと頷いて魔法を唱えた。既に詠唱はしていたようだ。


『フリージングレクトライナー!!』


 魔法の発動を示す魔方陣が中空に浮き上がり、そこから凄まじい勢いで冷気が吹き出した。なぜ判るかというと、冷気によって空気が冷やされ、そこだけ白くなっているからだ。

 既に前に立っていたおっさんは横に退いていて、前を遮るものない。故に冷気は直進して沼地へと到着。そして、あろうことか、沼地を凍らせながら突き進み、対岸まで到着したところで止まった。沼地には凸凹ではあるものの、立派な氷の道が出来上がっていた。


『あらあら、すごいわね。まさか凍らしてくるとは思わなかったわ。で、そこを通ってくるのだとして…………私達がすんなり通してあげると思う?』


 言いながら弓に矢をつがえた姿勢で問いかける義姉さん。義妹も勇者も同様に弓を構える。勇者だけは要領を得ずに歪な構えになっている。


『ふん、貴様らごときの矢など当たりはせぬわ』


 背負っていた大剣を振り抜き、そのまま氷の道へと走り出す。後ろには残り4人もそれぞれ得物を構えて氷の道へと続く。

 5人が氷の道に差し掛かったところで矢が降り注ぎだす。主に義姉さんと義妹ので勇者のは手前の道に落ちたり、見当外れの方向へ飛んでいっていた。


『もう、サシャ。出来ないなら出来ないと先に言っておきなさい! 貴女はもう良いから大人しくしておきなさい』


 義姉さんに言われ、しょぼんと肩を落として後ろへ下がる勇者。まあ、矢が勿体無いし仕方ないな。

 一方、おっさん達の方は走りながらでも的確に飛んでくる矢であるのに、意に介さず進んでくる。と言うか、矢が飛んでいってるのおっさんだけで、おっさんが難なく振り払っているから後ろの4人はただ付いていっている形になっている。本人達もそれが理解できてるのか苦笑気味だ。


 バッシャーーーン!!


 その時誰もが、勿論僕も思いもよらなかった事が起きた。


『うぎゃあぁぁぁぁ!!』


 冒険者達の最後尾から絶叫が迸る。その場にいた全員の視線が音の発生源へと向いていた。一瞬ではあったが、誰もがその姿を目にし、驚きのあまり目を剥く。義妹が代表してポロリとその正体を口にした。


『さ、さめ?』


 疑問になってはいたが、仕方ないかもしれない。僕だって吃驚してるんだから。なぜなら、その鮫は宙を泳いでいたのだから。鮫は確かに泳ぐ。泳ぐが中空というのは…………うん、有り得ないわ。

 しかし現実問題、どうやって速度をつけたのか判らないがフレッシェンシャークは宙を舞い、氷の道を作った男をその大きな顎門(あぎと)で捕らえたまままた沼へと戻っていった。ちなみに氷の道は幅二メートルほど。飛びすぎでしょ!!


『走れ! このままいても再び飛び掛かられるだけだ。沼の対岸まで走れ!!』


 悪夢のような出来事であったがおっさんは流石に歴戦の強者だ。すぐさま状況を理解し、味方を鼓舞している。冒険者達は半分やけくそになりながら再び走り出した。

 しかし、時既に遅く、第二の跳躍を示す水音が響き渡った。


バッシャーーーン!!


『うわあぁぁぁぁぁぁ!?』


 同じ個体なのか、それとも全く別の個体なのかその判断はし難いが、どちらにしても二回目の襲撃。今回の被害者はまたもやおっさんではなく4人組(3人組?)の方の最後尾。なす術もなく悲鳴だけを残して沼へと連れ去られた。


『ああああああああ!』


 仲間から2人犠牲が出たからか、残った連中は半狂乱になって、その場でめったやたらと武器を振り回す。それを見逃す義姉さんと義妹ではなく、今度はおっさんではなくその2人に矢が降り注ぎ出す。


『ああああ、あぐ、ぎゃ!』


 武器を振り回していたお陰で幾つかははたき落とせたが、別に見極めてしている訳ではないので、次々と刺さり出す。おっさんは2人の状態を確認し、助けようがないことを悟ると舌打ちと共に氷の道を逆走しだした。


『逃がさないわよ!』


 義姉さんが次々と矢を射掛けるが、おっさんの逃げる速度はとてつもなく、なんと対岸まで逃げ切ってしまった。


『ふん、貴様らの命今暫く預けておいてやる。次に来るまで首を洗って待っておれ』


 義姉さんも対岸まで追いかけて射るのかなと思ったけど、おっさんが対岸に着いたのを見てふぅと溜め息を吐くと坂の上に戻っていった。おっさんの負け惜しみについては笑顔で手を振っていた。


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