新配置始動
「お姉ちゃんおはよー。それにフローラさんも。って、まだやってたの?」
ガミガミと叱られて意識が朦朧としていた時、不意に義妹の声が。そちらに顔を向けると純粋に驚いている感じの顔がある。何をそんなに吃驚しているのだろう。
「あらあら、灯が来ちゃったのならもう朝ね。そろそろ相手も来る頃だし、一旦この辺りで終わりにしましょうか」
もう朝だったのか。道理でとても頭が重いわけだ。
「そうですね。宵の言うことももっともです。マイマスター、これに懲られましたら二度と同じことをなさらないようお願い致します」
頭が眠気で上手く働いていないので、言われていることは実はよく判ってないのだけど頷いておく。それでも、フローラと義姉さんは満足そうによし、と頷きあった。
「では、朝食に致しましょう。宵と灯、サシャの分については携帯食の方を用意してありますので配置についてから食してください」
言いながらパネルの操作で出てきた机の上に携帯食を置いた。いつの間に………フローラさん、貴女ずっと僕の前にいたと思うのですが。どうやって作ったの、それ。
「え~~~、あたしはお兄ちゃんと一緒に食~べ~た~い~!」
「駄々をこねても無駄です。もう夜が明けましたので冒険者御用達の店も開くことでしょう。つまり、冒険者達も活動を始めるということです。配置前に彼らが来たらどうするつもりですか?」
「ぶぅ」
フローラにたしなめられた義妹が頬を膨らませる。そのまま一度座っている僕に抱きついて、一頻りに頬を擦り合わせた後、携帯食を乱暴にひったくって部屋を出ていった。あの様子を鑑みるに相手をした冒険者はボッコボコだな。可哀想に。
「あらあら。あの分だとやって来る冒険者に八つ当たりしそうね。でも洸ちゃんを狙ってくるのだから別に構わないかな。それじゃ洸ちゃん、私も行くわね」
僕が考えていたことと同じことを言って、義妹が擦り合わせたのとは反対の頬にキスをして、こっちは軽やかな動きで携帯食を受けとるとそのまま部屋を出ていった。義姉さんはご機嫌だな。
「マイマスター、私はサシャの分を届けて参ります。その後、残り二名の様子も確認して参ります。朝食は戻り次第すぐさま御準備致しますので今しばらくお待ちください」
フローラは優雅に礼をした後、少し首を傾げ、一つ頷くと意を決して近づいてきた。そして、ボーッとしてる僕のおでこにキスをしたかと思うと、さっさか部屋を出ていった。
先の二人と違い、顔を真っ赤にして早足に出ていったことから恥ずかしかったのだろう。じゃあするなよ、と言いたいところだけど、対抗心でも芽生えたのだろうか。そもそもすることまでした筈なのに可愛い反応だ。うん、可愛いは正義。寝不足からくる低下した思考力はそう結論付けた。
しばらくして戻ってきたフローラが準備した朝食を食べたら、寝不足は少しだけスッキリした。よっぽど暇じゃない限り寝ないと思う。
「マイマスター、新手の冒険者がやって来ました」
しかし、注意力は低下していたようで、フローラに言われるまで侵入に気付けなかった。地上からの入り口を映し出していた画面には本日一組目の冒険者たちの姿がある。
「あー、うん、ごめん。相手は…………5人かな?」
入ってきた5人はそのまま後続を待たずに歩きだしたことから人数に当たりをつける。
「恐らくはマイマスターの仰る通りかと。5人での連携が様になっております」
フローラは別の視点から同じ判断を下していた。うん、連携とか全く判りませんでした。
「あ、そうだ。姉さんたちの配置はっと」
ちょっと自分が情けなかったので、話を変えるためにそう言いながらパネルを操作し第一の部屋を映し出す。勿論確認の意味もあるけどね。
画面に目を移すと、義姉さん達は既に配置についていた。義姉さんはニコニコと泰然としていて、義妹は鼻息は荒く気合いの入った様子。勇者は相も変わらず虚ろな表情で携帯食をモシャモシャ食べていた。あれ?
ちなみに第一の部屋で昨日と比べて違う点は二つ。一つはフレッシェンシャークの数。一匹から二匹になったので単純に冒険者達の数を減らす効率は倍になったと考えるべきか。沼の大きさからすると二匹というのは狭苦しくなるんだけど、その内拡張して楽にしてあげたい。
二つ目は高台が一つ新しく設けられたこと。勿論それは冒険者側ではなくこちら側に、である。丁度部屋の真ん中に位置し、沼に面したところを最高地点として、そこから二つ目の部屋へ続く通路への入り口に向かってなだらかな坂になっている。幅は大体三メートルほど。あまり広くはないがここから弓で射るのは義妹と勇者だけなので問題はない。義姉さんは空を飛んで射るらしい。姿勢崩さないのかな。
あ、弓については昨日の冒険者達の装備品の中にあった。水で濡れて駄目になってたり、フレッシェンシャークやトゥレントに折られてたりする物もあったが、運良く三つ確保できた。うん、ご都合主義万歳。
「はてさて、上手くいくかな…………」
僕の独り言は部屋に妙に響いた。むぅ、別に意味深長な訳じゃないんだが、少し気恥ずかしく、耳が熱い。
その時、すっと横手からカップが差し出されてきた。良い匂いがする。フローラが紅茶を入れて僕に差し出してきたようだ。
「どうぞ、こちらをお飲みください。カモミールティーで御座います」
カモミール…………ううん、何か良い効能があったと思うのだけど忘れてしまった。
「カモミールティーは多少では御座いますがリラックス効果が認められております。マイマスターはご緊張のご様子でしたのでこちらを御用意致しました」
と、フローラがすぐさま効能を説明してくれた。そうだった。リラックス効果があるからって父さんが愛用していたんだ。しかし。
「僕、そんなに緊張しているように見えた?」
「はい」
クスクスと笑いながら頷かれた。そういえば、家にいたときもよく義姉さんや義母さんに気持ちを読まれていたな。そんなに判りやすいものなのだろうか。
う~~ん、と唸ってはみるものの、自分では判らないことなので、あまり考えても無駄か。ふと、画面に目を戻すと、タイミングよく第一の部屋に冒険者達がやって来ていた。
「来たね。まあ、鮫も二匹だし、姉さんと灯なら大丈夫か」
「はい、あの程度の数で御座いましたら問題なく対処すると思われます」
フローラの言葉は義姉さん達に対する信頼感を窺わせるものだった。出逢った当初は火花をバチバチ飛ばし合っていたのに。自分が原因だっただけに嬉しく思う。
さてはて、賽は投げられた。一体どんな目が出るのか、楽しみであり怖くもあるな。




