後始末と準備
「結局あれで合計何人撃退したんだっけ」
「はい、第一のグループで4人。第二のグループで5人、第三のグループで5人、第四のグループで6人、第五のグループで21人の計41人です」
そんなにいるのか。たった一日でよくもここまで来るもんだ。やっぱりあれはそこまで魅力的なんだな。神より褒美が出るんだから当たり前か。
「五つ目の人数が凄いよね。よく撃退できたもんだと自分のことながら思うよ」
「相手が新人でしたのが勝因かと存じます」
「そうだね。皆が皆ガイオスみたいに強い奴じゃなくて良かった、ほんと」
「流石にあの者ほどの実力者は珍しい方ではないでしょうか」
「かもね。だけど……」
フローラの言う通り、あれほどの凄腕はそこまでいないと思いたいけど、何があるのか判らないのが世の中というもの。何よりガイオスだってギルマスからの命令で来ていたのだ。あの人がただ上司の命令だからって素直に聞きそうにないし、それを考えると確実にあの人より強い人はいるのだ。もしかしたらそういう人が一斉に来るかもしれないし、そうなると二つ目の罠どころか全部の罠が簡単に処理されてここまで来る可能性だって出てくる。可能性の話だけどゼロではないのだ。
「で、今は外だと23時位なんだっけ?」
嫌な思考を振り払うためにも話を変えるように訊ねる。と、フローラはふいと腕時計に目を落とし、恭しく頷いた。
「はい、現在は22時48分でございます」
「じゃあ、そろそろ終わり?」
「概ねその認識で間違いないかと思われます」
終わりという判断は、前にフローラから教えられたからだ。前に彼女はこう言った。
「ダンジョンへの入口は常時開いておりますが、夜になりますと店が閉まりますので活動しにくくなります。ですので殆どの者は夜におけるダンジョン攻略を控えております。珠に夜を主軸に活動する者はおりますが、そういう者はダンジョンには来ず、街を主体にする者で御座いますので、無視なされても問題は御座いません」
と、いうわけで終わりと考えたわけだが……ふむ、まずは義姉さんと義妹を呼び戻すか。一日中ダンジョンで過ごしてもらうのは申し訳ない。
「じゃあフローラ、姉さん達を呼びに────」
「その必要はないわよ。もう戻ってきちゃったから」
僕の台詞を遮った声のした方に振り返ると、義姉さんと義妹、それにあの勇者の姿があった。が、勇者の方は目が虚ろだ。結構和気藹々としてたように感じたんだけどあれは一体どうしたんだろうか。
「もう洸ちゃん、この子に見とれる前に言うことはないの?」
腰に手を当てて少し不機嫌そうな義姉さんの指摘で我に返る。そうだった。先ずは労いの言葉だ。
「ごめんごめん、姉さんも灯もお疲れ様」
「ぶー、とっても暇だったよ。全然敵来ないし、今日は不発だったの?」
「そうねえ、灯の言う通り、相手が来なくて暇だったわ。待ち疲れた感じかしら」
まず義妹が不満から口を尖らして文句を言いながらも抱きついてきて、それを引き離しながら義姉さんも軽い不満を口にした。やっぱり暇だったか。ずっと喋ってはいたけど、関係ないか。
「本日は計五組の冒険者達が来ました。ですが、第一の部屋とそこから続く通路の罠でほぼ全員が全滅しています」
僕の代わりにフローラが早口に事情を説明してくれた。義姉さんが目で確認してくるので頷いておく。
「ふうん、案外情けないわね。あら? 今ほぼって言ったわよね? 生き残った人はどうしたのかしら」
「生き残ったというのは語弊があります。正しくは、自主的に撤退した者がいる、です」
フローラの説明を聞いて不意にガイオスと一緒に帰った人を思い出した。ガイオスはともかく、あの人は今どうしてるかな。どうでもいいことなんだけど、何となく気になった。が、今は関係ないので脇に置いておく。
義姉さんはというとフローラの説明に疑問を持つことなくただ相槌だけ返した。
「ふうん。でも、どっちにしても初めのところで撃退できてるのよね。そうだとすると私と灯、それにサシャは一つ目の部屋で待機しておいた方がいいのかしら?」
「そうだよね。お姉ちゃんの所にさえ来れないなら、あたしの所なんて絶対来ないんだし。もう暇なのは嫌だよ!」
「……………………」
義姉さんが提案してくると、義妹もそれに乗っかった。ただ、義妹の方は暇すぎるからというのが理由になってるんだけど……。何も言うまい。
勇者はというと無言で何も反応すらしていない。いまだ虚ろな目を見せていることだし、彼女についてはあまり気にしないようにしよう。
「一応それについて、こういう案があるのだけど」
そう前置きして、フローラと話し合ったことを伝える。それを聞き終えた二人(三人のうち一人は聞いていない)は思案顔になった。
「確かに、私なら空を飛べるから高台になってても問題ないわね。それに例え向こうも飛べたとしても負ける気はしないわ」
「でも、お姉ちゃん。一人だけだと大変じゃないかな? うーん、あたしとサシャも何か出来たらいいなぁ」
義妹の言うことはもっともで、空を飛べる者が一人だと複数人やって来た時の対処が難しくなる。だからと言って義妹やサシャも配置するとなると今度はいざという時に逃げられなくなるし……。
「んー、あ、良いこと思い付いた。お兄ちゃん、お兄ちゃん。こういうのはどう?」
皆で頭を捻っていると義妹が明るい顔を見せて提案してきた。三人寄らば文殊の知恵とも言うし、ここはぜひ意見を聞いてみるとしよう。
…
……
…………
義妹の意見は確かに一考の価値があった。今回の撃退で獲得できたDPも合わせて使うとすると実行に移す事も何とかいけそうだ。
「なるほどね……それは確かにやってみる価値はあるわ。灯もたまには良い事を言うじゃない」
「はい、宵の言う通りですね。灯もたまには良い事を言います」
「二人して! たまには、は余計だよ~だ!」
義姉さんもフローラも義同じ様に義妹の意見に価値を見出している。やはり、試してみる価値はあるか。ただそのためには確認が必要だ。
「まぁまぁ、でも灯の言う通りに動くとなると姉さん達も結構大変だけど構わないの?」
「あら? 心配してくれるの? さっすが洸ちゃんは優しいわね。大丈夫よ。タイミングさえ間違わなければ問題はないわ」
義姉さんが嬉しそうに抱きついて、そう囁いてきた。すぐさま険しい顔をしたフローラと義妹に剥がされたけど。
「油断も隙もないですね」
「お姉ちゃん、自分だけず~る~い~」
「ふふ、こういうのは早い者勝ちなのよ」
やいのやいの言いだす三人。女三人寄らば姦しいとはまさにこの事だ。しかし、僕は彼女たちを尻目にパネルを操作し、一つ目の部屋を改造しだす。さらに思ったよりDPが稼げていたので追加でフレッシェンシャークも召喚。こいつらは同種であっても共食いをすぐ始めるという獰猛さをもっているので、互いに不干渉の設定だけ付与しておいた。この不干渉の設定が結構DPを喰い、結局今回稼げたDPはすっからかんになってしまった。
「ねえ洸ちゃんどう思う!? ってあら? 洸ちゃん何してるのかしら」
義姉さんの言葉に姦しかった残り二人も僕の方へ意識を向けてきた。その内フローラのほうは画面を眺め、ある事に気付いた。
「マイマスター、まさかまた全部お使いになったのですか?」
「ああ、うんごめん。やってるうちに気付いたら無くなってたよ。アハハ、ハハ、ハ……」
誤魔化すように乾いた笑みを返したんだけど、フローラには通じなかった。僕は結局怒るフローラとあと義姉さんにその場で正座させられて、がみがみと叱られた。それは最終的に朝まで続き、新しい冒険者を寝不足の状態で迎え入れる羽目になった。
「自業自得です」
はい、仰る通りでございます。次からはきちんとしますからお許しくださいませ…………ぐぅ。
おまけ設定
名前 :未定
種族名:妖樹族
枝族名:トゥレント
LV :5
頑丈度:250
腕力 :250
魔力 :100
敏捷力: 35
器用 :175
体力 :250
スキル:擬態LV3 枝葉操作LV3 混乱誘発LV1
擬態:自然界の何かに擬態する。LVが上がるにつれて、見破られる確率が下がる。
枝葉操作:自身のもつ擬態用の枝や葉を自在に操る。LVが上がるにつれて、硬度や射程距離、操作できる数が変化。
混乱誘発:対象への混乱を誘発させる事が出来る。トゥレントの場合は木枯らしを使った音波による誘発。LVが上がるにつれて、混乱させられる可能性が上がる。
ダンジョンマスターである藤村洸によって召喚された配下。合計3体が召喚されており、上記の数値はそのうちの1体のもの。移動用の足(根)や、攻撃用の枝などは数が決まっており、残りの枝や根は擬態用のもので自身で動かすことは出来ない。ただし、スキルによる操作は可能。




