ダンジョン始動!!
「よし、とうとう今日から挑戦者が来るんだな」
「はいマイマスター。ですがその前に一つ御決めになっていただくことがあります」
気合いを入れるために呟いた言葉にフローラが反応した。それ自体は良いのだけど、その内容に首を傾げる。まだ何かあったっけ?
「もう洸ちゃんたら寝惚けてるのかしら。ダンジョンはまだ地上に出てないのよ」
「お兄ちゃん、昨日ゆっくり眠れた理由を忘れちゃったの?」
すかさず義姉さんと義妹の突っ込みが飛んできた。地上に出てない、ゆっくり眠れた理由……………………あ。
「そ、そうか。入り口を出すことをしてなかった」
「はい、マイマスター。その通りで御座います」
すっかり忘れてた。昨日寝る前にそんなこと言われたっけ。しかし、入り口か。何処に、正確にはどの国に出すのがいいかな。
候補は四ヶ所。本当は他にも幾つかあるけれど、話を聞いている限り全然良くなかったからアウトになった。
一つは聖ワイルノート聖国。ここは世界中に広まっている聖教という宗教が支配する国で、国主は教皇。戒律があるためか冒険者の数は少なく、いても実力者というにはほど遠い実力の持ち主ばっかりだとか。魔物とかには聖教国軍が出動し鎮圧しているらしい。ダンジョンについては何故かノータッチみたいで国内のダンジョンは軒並み放置状態になっている。尤も逆にそれはこっちとしては有難く、ゆっくりと対応できる。その分ランクアップとかが年単位になるかもしれないという話だけど。
二つ目はエスパニット首長国。土地の三方向が海に面している国で、海洋資源をもとに内陸国と付き合っているようだ。元々は海賊とかが集まってできた国で蛮族国と揶揄されている。実際荒くれ者は多く、血気盛んで喧嘩も絶えないとか。それだけにダンジョンに潜る奴は多い。多いけど単純バカも多いから罠に嵌めやすいとはフローラ談。国としてもダンジョンは貴重な収入源ということで速攻潰しにかかるが、やっぱり単純バカが多いせいでよく難航しているらしい。僕のは罠主体だから相性が良いので候補の一つに挙げられている。
三つ目はグランデルブルグ帝国。世界で一番国力があるらしく、どの国もここの動向はつぶさに観察しているとか。国力があるからダンジョン攻略にも余念がなく、わざわざ専門のチームまで用意しているほど。じゃあなんで入り口を設けるのかというと撃退さえできれば定期的にがっぽり稼げるから。それに現段階だと専門チームではレベル制限に引っ掛かって入れないので、弱い人しか来ないだろうと予想したからだ。フローラはその考えに反対してるけど……。
最後の候補地は中国を彷彿させる国で、名前は九頭竜湖国。湖国の名が示す通りでっかい湖がある。それが名前の由来にもなっているが、9つもあるのだから吃驚だ。国土は他の国とは比べ物にならないほどの広さを誇り、帝国と肩を並べられるのはここしかないとまで言われている。だけど内部はぐずぐずに腐敗しているから兵士や冒険者の質は悪い。悪いけど人数はピカ一だから攻め込まれると意外に厄介だとか。それを捌けるならDPは貯めやすいので候補の一つだ
さてはて、この四つから選ぶのだが、うーん、どうしようか。ゆっくり進めるならワイルノート聖国、相性ならエスパニット首長国、定期性ならグランデルブルグ帝国、数をこなすなら九頭竜湖国。入り口自体はランクが上がったら増やせるみたいだから何処でもいいと言えば何処でもいい。だけど。
「やっぱり相性がよくて、数もある程度こなせるエスパニット首長国がいいかな」
「お兄ちゃんのダンジョンの作りだとそれがいいかも」
「そうねぇ。ただ忙しそうなのが玉に瑕かしら」
義姉さんも義妹も賛成してくれた。フローラも特に異論はないようで、こくりと頷いてくれた。どっちにしても明日になったら勝手に何処かに繋いじゃうみたいだし、いっちょエスパニット首長国に入り口を設けてみますか。
僕の腹が決まったのを察したフローラがパネルを操作してくる。画面には左上に「ワープポータル設置選択」という文字が浮かんでいる。真ん中にはエスパニット首長国の地図が映し出されている。
最後にフローラが場を譲るつもりなのか決定のところで僕の後ろの定位置へと戻っていった。確認画面がずっと出ている。
『ここでよろしいですか?
YES NO 』
僕は深呼吸してからYESの方で決定ボタンを押した。画面には「ただいま設置中」という文字と共にデフォルメされた先輩の姿があった。なにこれ、ちょっと…………。
「ちょっとムカつくわね、これ」
義姉さんがぼそりと呟いた。言っていることはもっともで、このデフォルメ先輩、なんとこっちを小バカにしてくるのだ。無駄に文字を見て含み笑いをしたり、こっちを嘲るかのような目で肩を竦めたり。
頑張ってプログラムしたのだろう。けど人を馬鹿にするためには労力を惜しまないというのが先輩らしいが、これからもこんなキャラが出てくると思うとげんなりするな。
ムカつき度がぐんぐん上がる中、漸く設置が終わったようで画面の文字が「設置完了」に変わった。
これでとうとう本当に敵がやって来る。そう思うと体がブルッと震えた。それと同時にフローラの声が。
「設置後、すぐに各国に神よりお告げという形で首脳部に報告が入ります。ですが準備もありますので、今しばらくは時間はあると思います」
まるで安心させるように言ってくる。こっちの心情がだだ漏れなのか、義姉さんや義妹もぎゅっと手を握ってきた。手の暖かさに落ち着きが戻ってくるのが判る。
「大丈夫よ。洸ちゃんのところまで絶対に行かさないから、ね」
「お兄ちゃんは安心してこの画面であたしの活躍を見ててね」
口々にそんなことまで言ってくる。情けない、本当に情けない。女性の方が腹が据わってるとは良く言ったものだ。最初の気合いはどこへ行ったのやら。でも、そんな情けない僕を支えてくれる三人には感謝し尽くしてもし足りない。
「じゃあ私はあのゴミ勇者を拾ってから配置につくわね。灯、ごめんなさいね。灯の装備を奪う形になってしまって」
「ううん、お姉ちゃんの方が先に敵に会うんだから仕方ないよ」
「うふふ、なるべくそっちに回さないようにするわ。それじゃ洸ちゃん、行ってきます。……ん」
「お兄ちゃん行ってきま~~す。あ、お姉ちゃんいいなぁ、あたしもあたしも」
二人は互いに軽く話して、最後に僕の頬へキスをしてから持ち場へと移動していった。僕はというと、内心ドギマギしながらも、冷静を装って手を振り見送った。
この場に残ったのは僕とフローラのみ。二人きりなのを意識するとさっきのドキドキとは別に、途端に気恥ずかしさが込み上げてきた。しかし、ちらりと見たフローラはちょっと拗ねた感じに唇を尖らせている。でもそんな仕草も彼女を可愛いと感じさせるから僕の頭は相当いかれているのだろう。やがて彼女は一度大きく深呼吸してから僕に笑顔を見せた。
「マイマスター、今暫くは時間が御座いますので紅茶を如何でしょうか?」
「あ、うん、お願い」
フローラは一礼するとそのまま部屋を出ていった。とりあえず、画面にダンジョンの入り口を映し出しておく。これで冒険者が来たら分かるだろう。
結局この日は5組の冒険者達がやってきた。どいつもこいつも目をギラギラさせたチンピラみたいな兄ちゃんだった。まぁ、制限レベル5だし、仕方ないと言えば仕方ないか。入口から入ってきた彼らの様子をフローラの入れてくれた紅茶を飲みながら、僕は画面で眺めていた。さてさて結果のほどは……。
おまけ設定
名前 :藤村灯
種族名:妖魔族
枝族名:妖精族
LV :1
頑丈度:185
腕力 :170
魔力 :120
敏捷力:150
器用 :150
体力 :175
スキル:荒山流古武術(弓術LV5 柔術LV7 杖術LV12 槍術LV7) 威圧LV3 精霊魔法LV1 交信魔法LV1
威圧:自分の実力から相手を威圧し、抑え込む。本人のレベルから下位の者に対して発動。スキルレベルが上がると威圧時間が延びる。
精霊魔法:精霊を使役し、魔法を使う。精霊には4属性(火、水、風、土)があり、人によって得意属性が違う。
交信魔法:意志疎通の取れないモノ(例えば樹木など)に対して意思疎通を図るための魔法。レベルが上がるにつれて様々なモノと交信可能。
オーバースペックさん2号であり、主人公の義理の妹。溺愛する兄を追いかけて異世界へとやってきた。元々日本にいた頃より基礎能力値は高かったが、異世界に転生する際に有力種のひとつを選ぶことでオーバースペックさんに。姉とは違いフローラとの仲は良好(一説によれば餌付けされたとのこと)。




