思ってたよりも順調な滑り出し
「やって来たのは四人組かぁ」
フローラが入れてくれた紅茶を飲みながら、画面を見やる。画面には入り口に早速やって来た冒険者達の姿が映し出されていた。
「マイマスターがアナライズなさるまでもないと存じます。彼らは訓練すら受けておりません、低級に位置する冒険者です」
「分かるの?」
フローラの説明に驚き、振り返って尋ねる。勿論で御座います、と彼女は頷いた。
「画面越しではありますが、まず装備の質が悪すぎます。ボロボロなのはお分かりいただけると存じますが」
言われて彼らの装備をじっと見る。確かに鎧には大きな傷跡があったり、端っこが欠けていたりしている。それに色も光沢は全くなくてくすんでいる。
「お金を掛けないのか、掛けられないのか。それはこちらからは判断致しかねますが、恐らく後者であることは予想できます」
「その心は?」
「ダンジョンを攻略するのに心許ないからで御座います。どんな魔物が、敵がいるか情報もありません。実力者であればあるほど最低でも装備品には気を使うはずで御座いますが、彼らはその辺りを理解しておりません」
もっともな話だ。命を預けるのならば信頼の足る装備でありたいのは自明の理。それなのに装備品の調達を怠っているということはお金がないということ。お金がないということは実力者ではない。制限レベルに引っ掛からずに来てるのだからレベルも低い。以上のことを総合して考えると訓練されていない、低級という判断になるんだな。
「あ、動くみたいだね」
入ったところで四人固まって何か話していたようだが、漸く終わったらしい。集団の舵を取っていた男が先頭に立って、その後ろの両脇に二人、さらにその後ろに一人のダイヤ型にフォーメーションを組んだ。そして、それぞれが違う方向に気を張っている。なるほど、ああやって警戒しながら進むのか。
彼らが入った一層には広間となっている部屋が四つある。通路自体は一本道で部屋も順番に突破しなければならない。が通路には何も置いてないから、彼らは当然のように一つ目の部屋へと侵入してきた。
『おいおい、ここにくるまで何も無しかよ』
『新造らしいからな。ゴブリンすら置けなかったんじゃないか』
『ギャハハ、あり得るな』
…………いやまあ置いても良かったんだけど、そんなの各個撃破が目に見えてたしねぇ。とちょっとだけ言い訳しておく。聞こえるはずはないけど。
『で、目の前にあるのは濁って底が見えない沼地と。大方沼に入って動きが鈍ったところで対岸から弓矢で打ち倒そうというところだな』
『おいおい、沼地に仕掛けがあるのかもしれないぜ』
『いや、あれを見ろ。この沼地の反対側の両側に高台があるだろう。そこに簡易ではあるが防御用の板が置かれてる。つまりはあそこから撃ち殺そうって考えだろう』
先頭を歩いていた男が言う。
へぇ、ちょっとは目端が利く人間がいるみたいだな。まあ、そうじゃなかったらリーダーなんて務まらないか。
『けどよ、肝心の対岸の射手がおらんがな。きっとゴブリンすら置けないから射手も置けなかったんだぜ。ゲハハハハハ』
『こりゃラッキーだったな。濡れるし汚れるが泳いでいこうぜ』
『こんな楽ならこれからも新造のダンジョンに潜るのもありだな。ケケケ』
別の人間がこっちを馬鹿にする発言をすると、同調するように残り二人も軽口を叩いた。
あらら。そりゃ確かにあそこにはいつか弓兵を置こうと思ってたけど。沼の中に何かがいると全く考えないのは如何なものかと。
『おい、あまりくっちゃべってばっかだと追い付かれる。手柄を取られないためにもさっさと進むぞ』
リーダー格の男が剣を鞘ごと腰から外しながら言う。その動作を見た他の男達も同様にそれぞれの得物を手で持ち出した。
「…………濡れないようにしたいのかな?」
「多分仰る通りかと存じます」
僕の呟きをフローラが拾い、肯定する。目的は分かるけど短慮に過ぎないだろうか。いざという時に武器をどうするつもりなのだろう。ま、敵はいないと思っているから仕方ないのかな。
「重くて泳げないとか考えないのかな?」
「そちらも考えてはいないと愚考致します。この国の成り立ち、立地条件を考慮致しますと軽鎧を着て泳ぐくらいはお手の物といえます。また、彼らの鎧は金属部分は少なく普通の軽鎧より軽くなっている筈です。故に泳げないというのは考えないのかと」
まあ、海戦ぐらいこなせないと駄目だろうし、そうなると海に落ちることも多いだろうしね。しかし、これは思ったよりここで躓く人多そうかも。
『よし、行くぞ! 遅れるなよ』
リーダーがそう言ってザブザブ音をたてながら沼地へと入っていく。改装の上限で深さは三メートルほどだけど、対岸までの距離は優に40メートルはあるだろう。日本みたいに水着を着て何もない状態で泳ぐならそれほど時間は掛からない。だが、これら冒険者ともなると装備品やら何やらで重くなるし、身体能力が凄くない限り掛かる時間は延びるはず。そこを狙ったのが今回の罠というには簡素な仕掛け。
『はっはー! 汚れてはいるけど粘性は高くないな。余裕よ────』
一番後ろを泳いでいた男が軽口を叩いている途中で水中へと消えた。勿論声は聞こえていたから他の男達はその場に立ち泳ぎして後ろを振り向いた。
『おいおい、冗談が過ぎるぞ。さっきも言ったが時間がないんだ。ふざけず出てこい』
残りの男達も迷惑そうな顔で後ろを見つめている。
姿を消した男は別にふざけているわけではない。ただ出てこられないだけだ。
そんなことなど知りようもない男達はイライラした様子で待っていたが、一向に出てこないことに業を煮やしたのだろうな。舌打ちすると対岸に向かって泳ぎだそうとした。しかし、ちょうどその時先頭にいた男が沼地に引きずり込まれるかのように姿を消した。悲鳴をあげる間もなく、だ。
『お、おい。ピックス?』
男の片割れが恐る恐る呼び掛ける。無理もない。目の前で人が消えたのだから。僕だってかなり戸惑うよ。
『じょ、冗談は止せよ。お、お前も置いてくぞ』
そう言った次の瞬間、横にいた男がいきなり血を吐いた。その目は虚ろで生気は感じられない。何度も血を吐いた後、ゆっくりと沼に沈んでいった。
『な、何が……ぐっ』
男は言葉の途中で呻いたかと思うとそのままぐらりと揺れ、そして身体が傾いたまま先程の男と同様にゆっくりと沈みだした。これで最初に侵入してきた冒険者達は全滅だな。
「これは意外な結果だね。一人二人は次に行くと思ったんだけど」
「私もマイマスターの仰る通りになると想像いたしてましたが……この手の罠は慣れているはずなのですが、経験が足りておりませんでした」
フローラに感想を言うと辛辣なコメントが返ってきた。まあパニックというよりは良く分からないままやられちゃったぽいしね。
今回第一の部屋に設置した罠とも言えない罠は沼地に引き込んで配下に襲わせるというもの。あの配下は能力値は高いのに限定条件下でしか生存できない上に、気性も荒く使いづらいということで平均より安くなっていたのだ。それでも2匹も手を出すことは出来なかったけど。
「とりあえず第一陣はなんとかなったし、今日のところは何とかなるといいなぁ」
楽観になるけど、とフローラの入れてくれた紅茶を飲みほしながら画面を見つめ続けた。
おまけ設定
名前 :フローラ
種族名:睡魔族
枝族名:リリム
LV :5
頑丈度:175
腕力 :175
魔力 :225
敏捷力:185
器用 :185
体力 :165
スキル:催眠魔法LV5 火炎魔法LV3 氷結魔法LV3 副官の務めLV5
催眠魔法:相手に催眠関連の症状を引き起こす。LVが高くなるにつれて使える魔法は増えていく。成功確率は魔法LVと相手との魔力差。
火炎魔法:属性魔法の一種。火、もしくは炎を操る。LVが高くなるにつれて魔法の種類は増えていく。
氷結魔法:属性魔法の一種。氷、もしくは水を操る。LVが高くなるにつれて魔法の種類は増えていく。
副官の務め:副官としての務めを果たす際に効率が上昇する。補正はLVが高くなるにつれて高くなる。
主人公が異世界に来て初めて出会った人物。元々は地球(日本)にいたころに主人公が拾った飼い犬で、死に際に楽によって拉致され、転生。その後主人公に何らかの形で恩返しするために機会を虎視眈々と狙っていた。主人公にはとても好意的。




