ダンジョン構築終わり
「マイマスター、繁殖部屋の方に移す捕虜なのですが、勇者は省いて構わないでしょうか?」
部屋を作り、ゴブリンも二匹召喚した時にフローラからそう提案された。別に構わないと言えば構わない。ただあれほどの美人さんをゴブリンなんぞにくれてやるのは癪に障っていたし。
そんな気持ちが顔に出ていたのかフローラは苦笑していた。むぅ、見透かされているな。話を逸らすのも兼ねて疑問をぶつけてみた。
「省くのは構いませんが、勇者だけ省くのは何か理由があるのですか?」
フローラはこくりと頷いた。一体どんな理由があるのだろうか。
「そうですね……まず、勇者という存在について御説明致します。勇者とは簡単に申しあげますと、神々より選定されし者の総称でございます。つまり、あのお捕まえになりました勇者もいずれかの神より選定されているのは間違いありません。そして神は選定した者が死ぬまでは他の者を選定し直すことは出来ません」
「え? ということはもしかして僕、神様から睨まれたりします?」
「いえ、ダンジョンマスターで在らせられますマイマスターはより上位の神より権利を保護されておりますのでそのようなことは御座いません」
ほっ。もしこんなことで神様から睨まれた挙げ句、神敵とか言われたら流石に困るからね。んー、じゃあ、あの子をどうするつもりなのだろう。
「はい、勇者は神から選ばれるだけのことはありまして、その実力は人間の中でも上位まで成長することが約束されております。そこで残り2名の者の命の保証と引き換えに、彼女を配下として操れればと愚考した次第で御座います」
…………鬼? まさかの騙し。確かに命の保証はしてるけど!
「騙しているわけではありません。ただ少しばかり労働をお願いするだけで御座います」
「そうそう。洸ちゃん、働かざる者食うべからず、よ」
義姉さんもフローラもすごい良い笑顔だ。攻め込まれたのがよほど腹に据えかねているみたい。と、そこで義姉さんが何か思いついたようで手をポンと叩いた。
「ああ、そうだわ。フローラ、その勇者とかいうのは男性なのかしら?」
義姉さんが聞くと、フローラは忌々しげに顔を歪めて答えた。その顔に表れているのは嫉妬? あれほどの美人さんだからねぇ。女性同士でも羨ましいのかな。
「いえ、女性です。気になるようでしたら顔を見に行きますか?」
「……そうね。ついでに灯も起こして様子を見に行きましょうか」
フローラの顔から何かを読み取ったのか、義姉さんはその提案に頷き、横で寝ている義妹を起こした。
「ほら、起きなさい。遅刻するわよ」
いやいや、遅刻て。ここは現代日本じゃないよ義姉さん。
「むにゃ……あと五分……むふふ」
なんの夢を見ているんだ。確か悪夢じゃなかったのか? さっきまでうなされていたのに今は善からぬ夢を見ているのか頬が弛んでいる。
それを見た義姉さんはため息を一つ。そして、義妹の耳元でボソボソと呟いた。
「早く起きないと洸ちゃんに見捨てられるわよ」
? 僕が見捨てるとはどういうことなのか。今一つ意味は判らなかったけど効果覿面だった。
言われた瞬間に目をぱちりと開いたかと思うと、ガバッと起き上がり、手櫛ではあるが髪を整えた。その時間、わずか5秒。
「お姉ちゃん、準備できたよ! ……て、あれ?」
ここで漸く我に返ったのか辺りを見回して首を傾げている。それに構うことなく義姉さんが告げる。
「今から洸ちゃんを殺そうとした女共を見に行くのだけど、勿論来るわよね?」
強制というより本当に訊ねている感じなんだけど、何だろう。義妹が断らないと思っているような。そして、その僕の考えは的中した。
「え?! そんなのいるんだ。ふーん、お兄ちゃんを殺そうだなんて……きっついお仕置きが要るね、それは。あは」
普段の快活さからは考えられないほど冷酷な笑みを見せて呟く。何だろう、とっても恐いのですが……。
心の中で震えていると、フローラが二人を伴って支配の間を後にする。一人ポツンと残された形だけど付いていくのは恐いから構わないかな。
へたれと言うならその通りではある。でも、恐いものは恐いのです。あの状態の二人、高校のとき仲の良かった女友達のことを話したときの二人に酷似している。あれは僕の中で一、二を争う失敗だった。ある日を境に僕を見ると怯えて逃げていくようになった彼女。今思えばあの二人が何かしでかしたのは想像に難くない。ある日? 勿論彼女のことを話した日だよ……。
取り敢えず帰ってくるまでノータッチでいたいので、その間暇だからフロア作りに精を出そう。さっき選んでいた時に目星をつけていたのがあるし。今考えているトラップを仕掛けるのに良さげなのが。
「DPはっと。無属性だけどやっぱり高いなあ。1800もしているじゃないか。まあ、その分トラップも仕掛けやすいんだけど」
ぶつぶつ言いながらポチポチと押していく。何処かでズゥンと重たい音が続けて響いてくる。ついでとばかりに振動も微弱ながら来ているようで、カップに注がれている紅茶に波紋が発生している。
そのカップを持ち上げ、口をつける。義姉さん達が来たあとに再度入れてくれたやつで今度はダージリンらしい。少し冷めてしまっているけど問題なし。
飲みながらもポチポチ続けていく。トラップを仕掛けやすいとは言っても、流石に手を加えないと使えない。
ポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチ。
何だろう。一人無言でやっているというのに興奮してくる。なんというか、悪童の気持ちが少し分かるかも。人を嵌める楽しさというのか、ワクワクしてくる。日本でだと良心云々の前に捕まっちゃうからね。やろうとさえ考えたことはなかったけど、ここだと気にする必要もなし。自分の意外な一面すら楽しみながらダンジョンをどんどん組み立てていく。
今回使用した分は2フロア分で4000ポイント。さらにそこから細々とした設定に手を加えるのに500ポイント。そして、手を加えたところに仕掛けた罠代が1200ポイント。合計で5700ポイントも使ってしまった。
さっき義姉さんやフローラに言われて作った繁殖用部屋には500ポイント使っているし、ゴブリン二匹分で200ポイント使っている。一覧にするとこんな感じ。
『使ったもの』
・フロア×2 →4000(1800と2200)
・罠×複数 →1200(内訳秘密)
・フロアの修正 →500(内訳秘密)
・繁殖用部屋 →500
・ゴブリン×2 →200
・合計 →6400
8000もあったポイントがあっという間に五分の一だ。慎重に使いたいところだけど、ゴブリンだってすぐに数が増える訳じゃない。ここは思いきって魔物召喚で使いきってしまおう。
と、そんなことを考えていたら義姉さん、フローラ、義妹の三人が帰ってきた。義妹が満足顔なのが非常に気になる。それに義妹ほどではないにしても義姉さん、フローラも機嫌が良さそう。一体何があったのやら。
「おかえりなさい」
僕が声を掛けると三人は揃って「ただいま」と返してくれた。やっぱりちょっとした挨拶だけどあるのとないのとじゃ気分が違うね。
「ただいま戻りました、マイマスター。首尾は上々です」
「そうね、中々に上手くいったわ。勇者は仲間の命と引き換えにここで奴隷として働くことを承諾したわ。灯が活躍してくれたお陰ね」
義姉さんがそう言うと義妹は得意気な顔で近寄ってきた。まるで主人に褒めて貰いたい犬のようだ。
…
……
………
義妹はきっと選ぶ種族を間違えてしまったのだろう。明らかに獣魔族、それも魔狼族の方が正しい気がする。妖精族なのに尻尾が見えるじゃないか。
近寄ってきた義妹の頭を撫で撫でしつつ、義姉さんとフローラに作り上げたダンジョンを見せる。義妹の後に近寄ってきていた義姉さん達はそのダンジョンの詳細を見て目を丸くしていた。
ま、後の魔物についてはやっぱりフローラに要相談だな。




