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京都弁男子に溺愛されています〜憧れの小説作家は気になる彼でした〜  作者: 一ノ瀬灯


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本編完結後 過去の人

「寧々は拓也くんとどれくらい付き合うてたん?」


 唐突に聞いてきた伊織に寧々は首を傾げる。今までそのようなことは聞いてこなかったのに、いきなりどうしたのだろうか。

 ソファーに並んで座りそれまで普通に談笑を楽しんでいたものだから、寧々は戸惑いつつも正直に答える。


「大学からの付き合いだから、約七年かな」

「……七年か、けっこう長いんやね」


 伊織は顔に笑みを浮かべているが、口元がピクピク震えている。笑顔を貼り付けただけの表情はどこか歪だ。


「それだけ長い付き合いやったら、結婚とか考えてたんとちゃうん?」

「うーん、それはないかも。ただ、今にして思えばあの頃は倦怠期だったのかもね……」


 仕事に忙殺され、なかなか会えない日々が続いていた寧々と拓也は、何かが掛け違えてしまったのだろう。拓也のことは確かに好きだったが、行動に移す気力がなかったことから感情が落ち着いてしまったのかもしれない。


「そうなんや。それならよかったわ」

「うん、私もそう思う」

「……寧々も?」


 伊織が珍しく皮肉を言ってきたので、彼としても気になるところではあったのだろうと寧々は察した。

 そうでなくても、あの時拓也からの破局宣言がなければ、あの日バーに行くことはなかったのだから。ある意味拓也が出会わせてくれたこの出会いにむしろ感謝している。

 寧々は隣に座る伊織の手を組んで、そっと肩にもたれかかった。

 すると、伊織は腰を抱いてきたので、胸の中に飛び込んだ。


「私、伊織さんと出会えてよかったって心から思ってるよ。拓也はもう過去の人だし、今の私に必要なのは伊織さんだけだもの」


 伊織にとっての理沙とはまた違った過去の人が拓也だ。拓也のことはきっとこれからどんどん忘れていくのだろう。それでいい、今現在自分との関係がある人は拓也ではなく伊織なのだから。

 優しく背中を撫でられると安心する。


「……俺も寧々だけや。悪い、変なきをつかわせてしもた」

「ううん、気にしないで。思ってることを言ってくれて嬉しいよ」

「ほんま? 女々しくあらへん?」

「そんなことないよ。それをいったら私だって理沙さんのこととか嫉妬しちゃうんだからね」


 寧々がむっとした顔をすると、伊織は吹き出した。そんな風に笑わられるとちょっと心にくる。

 でも、伊織のことだからきっと傷つける意図はないことは分かっている。


「もう、笑うなんてひどい!」

「ごめん、寧々がえらい可愛らしくて、つい」

「……伊織さんの理沙さんを想う気持ちは疑ってないよ」

「うん」

「いつまでも心の中にいる人だから、それはずるいなって思う。きっと、それはいつまで経っても変わらないかも」

「……」

「でもね、私はそういう優しい伊織さんだから好きになったの。だから、伊織さんはそのままでいいんだよ」


 伊織は心の中に理沙という別の女性が心にいることを気にしているのだ。たとえそれが恋愛感情じゃなかったとしても、同じ女性ならば思うところはあるはすだと、寧々に対してそのように思っていることもなんとなく分かっている。

 確かにいい気はしない、嫉妬だってする。だからといって、伊織から理沙を奪うのはまた違う話だ。いつまでも過去の人を偲ぶ伊織だからこそ、寧々はこの人を支えたいと思ったのだ。


「……寧々、おおきに。ほんまに……ありがとう」

「伊織さん……!」


 伊織にぎゅうと強く抱きしめられ、寧々は苦しくなる。滅多に標準語を使わない伊織が「ありがとう」とわざわざ言うということは、寧々のことを本当に想って伝えてくれたのだと分かり心があたたかくなる。

 はらりとあふれてきた涙は伊織の服を濡らす。伊織は何も言わずにただ抱きしめてくれた。

 優しい時間が二人を包む。わだかまりが完全になくなる時は永遠に来ないかもしれない。

 それでも、お互い今を生きているのだからきっと分かり合える。理解するまでにぶつかることがあったとしても、それは喜ばしい変化なのだとして甘んじて受け入れよう。

 寧々が欲しいのは、今の伊織なのだから。

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