アウトレットでショッピング
風邪もこじらせることなく完治した寧々は、前向きになって考えることにした。主に、伊織との関係性についてである。
現状は友達以上恋人未満というあいまいな関係だが、それも進展するようなことを伊織が言っていたので、彼がその気になるまで待つしかないのだ。
それでも、宙ぶらりんでいるよりかは断然いい。伊織の中で片付かないままだったことが、寧々がいることで前進しようとしてくれているなら嬉しい。
八月に入り、本格的な暑さが襲う。汗でべっとりしながら出勤するのは地獄すぎる。正直ここ数年の夏の暑さは異常気象といって差し支えないだろう。
なんとか出社してタイムカードを切る。クーラーの効いた室内は天国といっていい。
朝礼も終わり、今日も一日業務をこなす。
お昼休憩になり、同僚の岩澤といつもの定食屋に言ってランチタイムを取る。今日も寧々が頼むのはサバ味噌定食、岩澤はしょうが焼き定食だった。サービスのお冷をもらい、のどを潤す。
「それにしても、清水さんといい感じに距離が埋まってきたのに、つかず離れず状態でもどかしいね」
「……確かに、周りの人はそう思うのかも。でもね、私はそれでもいいんだ。清水さんは謎が多いだけでちゃんとしてる人だから、私も信用できるわけだし」
「まあ、篠原ちゃんがいいならそれでいいけどさー。……そうだ、今度の夏休み一緒に遊ばない?」
「いいよ。どこに行く?」
夏休みは十日ほどあるので、岩澤と遊ぶ日を抜いても九日もある。そのうちのどこかで伊織とデートしよう。
いつも通り談笑しながらランチタイムを楽しく過ごした。
定時で上がった寧々は、夏休み期間にデートできないか伊織にメッセージを送った。クーラーが効いた電車に揺られながらスマホを見ていると、伊織から返信がきたようでお知らせをタップした。
【ちょうどお盆休みになったら寧々ちゃんと行きたいところがあったんよ。少し遠くなるけど、ええかな?】
『遠出ね、分かった。ちなみにどこか聞いてもいい?』
【おおきに。急で悪いんやけど、京都のある場所に寧々ちゃんを連れて行きたいんよ】
寧々を京都に連れて行きたいとのことだが、急すぎてどういう意図があるのか分からずタップする手が止まる。まさか、家族に会わせたいとか?
……それはさすがにないか。
なんて返信をしようか悩むが、結局どんなに悩んだところで答えは決まっているのだ。
『京都旅行、楽しみにしてます』
夏休み初日、寧々は岩澤とショッピングするためにアウトレットまで足を運んだ。
なぜアウトレットになったかというと、伊織から京都旅行に誘われたことを話したからだ。
岩澤は寧々の服を新調するためと意気込んでいるが、本当のところは単に彼女がアウトレットに行きたかったからというなんともあれな理由である。
理由はさておき、寧々も新しい服が欲しかったし、岩澤と久しぶりにショッピングするのも楽しみだったので、今日は目いっぱい満喫しよう。
「篠原ちゃん、これとか似合いそう!」
「そうかな?」
「そうだよ! 気になったら試着してみなよ」
岩澤が渡してきたものは、大きなボウタイがついているダークブラウンの半袖ブラウスだった。光沢があり肌触りもいい。岩澤が似合うと言ってくれたし、試着してみよう。
寧々は試着室で着替えて鏡に映る自分を見た。ボウタイがかわいすぎる気もするが、着たいと思ったものを着るのが一番だと伊織なら言ってくれるだろう。
そんな風に考えながら、寧々は試着室のカーテンを開けて岩澤にお披露目した。
「やっぱりかわいいよ! 篠原ちゃん似合ってる!」
「ありがとう。私にはかわいすぎる気がするけど岩澤ちゃんがすすめてくれたものだし、清水さんなら好きなものを着なよって言ってくれそうだから」
照れながらそう言うと、岩澤は苦笑しながら「篠原ちゃんと今一緒なのは、ミステリアスなはんなり男子じゃないんだけど?」とからかいを混じえつつ、寧々に似合うと言ってくれた。
ついでにブラウスに似合うパンツを見繕いセットで購入し、ほくほくした気分で次の店に向かった。
次は岩澤のお気に入りのブランド店であるスニーカーショップに入った。新しいスニーカーが欲しかったらしく、めぼしいものを見つけては次のものを物色したりと楽しそうだ。
寧々もしばらくスニーカーを買っていなかったので、岩澤とお揃いのものを買うことにした。各々自分にぴったりのサイズを確認し、履き心地を試してみる。歩いてみてしっくりくるので寧々はこれに決めた。
岩澤も大丈夫だったようで、二人とも会計を済ませ店を出た。
それから気になる店は何軒か入って見て回り、気に入ったものは試着して、サイズが合うようならそのまま購入した。
そろそろお昼休憩を取ろうとフードコートに移動した。お昼時ということもあり、中は混雑していて混み合っていた。どうにか席を見つけて腰を下ろす。
寧々はおろし冷うどん、岩澤はラーメンを頼んだ。寧々は暑い時こそ冷たいものを、岩澤は暑い時こそ暑いものが食べたいという、両極端な思考のもとそうなったのである。
渡された端末がピーピー音が鳴ったので、カウンターへと取りに行く。ずっしりとした重みのあるトレーを受け取り、寧々は席に戻った。
岩澤も端末が知らせを受けて取りに行ったようだ。
「いただきます」
「いただきます」
寧々は冷たいうどんを口に含み、咀嚼する。コシがあって歯応えがいい。おろしと相性もよく抜群のおいしさだ。ネギもシャキシャキでおいしい。
岩澤はというと、ふうふうと息を吹きかけながら暑いラーメンを啜っていた。とんこつしょうゆのいいにおいが鼻をくすぐる。
「岩澤ちゃんのラーメンからいいにおいする」
「一口食べる?」
「いいの?」
「いいよ。そっちのうどんももらっていい?」
「もちろん」
二人はトレーごと器を交換した。寧々は熱々のラーメンを箸で掬い、息を吹きかけて一気に啜った。口の中は麺でとても暑いが、それよりもとんこつしょうゆの濃厚な味がおいしくてたまらない。
「ラーメンおいしいね。夏は避けてたけど、案外悪くないかも」
「でしょー? 夏に食べるラーメンもなかなかいいよね。このおろしうどんもコシがあってめっちゃおいしいわ」
それぞれ器を自分の前に戻し、昼食を再開した。
「あさってから京都旅行だっけ。お土産楽しみにしてるよ」
「うん、楽しみにしてて」
何があるか分からない京都旅行だが、それでも好きな人と行く旅行だから楽しいものになる。寧々はそう信じてうどんを啜った。
お互い食べ終わり、それぞれ利用した店にトレーを片付けに行く。
相変わらずフードコートにやってくる人は多いようで、寧々と岩澤は少し休憩してから席を立った。
それからぶらぶらと気になる店に入っては出るをくり返し、荷物も重たくなってきたところで帰ることにした。
あさってからの京都旅行に備え、洋服とスニーカー諸々新調したのでとりあえず大丈夫だろう。
時刻はいつの間にか夕方になっていたし、頃合いだ。
電車に乗り、寧々の方が先に最寄り駅になったので、岩澤とはそこで別れて電車を降りた。改札口を通れば見慣れた景色がやってくる。両手で持つ荷物はけっこう重いが、これもあさっての京都旅行のためだと思えば頑張れる。
寧々は気合を入れ直し、家までの道のりをどうにか歩いて帰宅した。




