ストーカー・ソウル2
翌日になった。
今日、蝶野さんは俺の励ましによって、清原に告白をする。
一度目は、本当に何も語る事が無いくらい、あっさりと二人は結ばれた。
だが、二度目はそうはいかせない。
絶対に、あの二人結ばれるのを俺は阻止する。
「遅いぞ、駒井」
早朝、誰もいない教室で、俺が呼び出した人物――駒井がようやく姿を見せた。
「前日の深夜に呼び出されたんだから、これが限界だって」
駒井は、平たく言えば俺の幼馴染の女子だ。
家も近所で、僅かながら家族ぐるみでの付き合いもある。
まあ、決して仲が良好という訳では無いのだが。
「それで、何の用」
「いつも通り単刀直入に言う。今日の放課後、蝶野さんが清原に告白する」
蝶野さんも清原も、うちの学年の中では有名人だ。だから、その部分は説明せずとも、駒井には伝わるだろう。
「だから、お前は今日の放課後、その告白に割り込んで、清原に告白しろ」
駒井は蝶野さんにも負けず劣らずの容姿を持っている。
蝶野さんと違って人当たりは決して良くないが、それはそれでクールビューティ的な魅力を持っているし、やり方次第では、十分に駒井へ目移りさせることも可能なはずだ。
「一応言っとく。イヤ」
「……お前さ、言われなくても分かってるだろ?」
俺は自らの制服をめくりあげる。
脇腹にある大きな古傷を、駒井に見せつけた。
「チッ。分かった」
――――この傷は、俺達が小学六年生だった頃、駒井に付けられた傷だ。
当時、駒井はクラスのほぼ全員からいじめを受けていた。
駒井は昔から顔が良くて、その割に人付き合いが苦手な奴だったから、それだけでいじめられる理由には十分だったのだ。
駒井へのいじめは相当酷いもので、駒田は日々精神をすり減らして行った。
そしてある日の放課後、精神的に限界を迎えていた駒井に、俺は聞いた。
どうして君はいじめられているの、と。
そんな俺の言葉が、極限の精神状態だった駒井の逆鱗に触れたのだろう。
駒井は、その場にあった彫刻刀で俺の脇腹を刺したのだ。
幸いその場には俺と駒井以外に誰もいなくて、俺はその件を誰にも話さなかったから、問題になることは無かった。
いや、俺が問題にしなかったと言うべきか。
俺の血がべっとりと付いた駒井の彫刻刀は、まだ当時のまま家に保管してある。
もし俺に逆らうのなら、傷害事件として訴える。そう言って俺は駒井を脅し、言う事を聞かせているという訳だ。
傷害罪の時効は十年ちょうど。
そして、駒井の家は貧しく、賠償金の負担を家族にさせる訳にはいかず、過去に傷害事件を起こして、それを訴えられたと明るみになれば、高校に残れるかも分からない。
だから、少なくともあと四年は、俺は駒井に何でも言う事を聞かせられるのだ。
「あんた、次は蝶野さんに惚れたんだ」
「まあな」
「あんたが邪魔したがるって事は、清原くんは何かがヤバい人って事ね」
流石は付き合いが長いだけあって、駒井は俺の思考や状況を的確に当ててくる。
「それで、もし清原くんが私と付き合うって言い出したら、私はフッていいの?」
「ああ。だが、一週間くらいしたらで頼む」
「分かった」
伝えたい事を伝え終えると、駒井はスクールバックを肩にかけて教室を後にしようとした。
「――――全く、良かったよ」
ただ、駒井が扉に手を掛けたところで、不意にそう話しかけてくる。
「今日こそ、ヤらせろって言われるかと思った」
駒井は俺に背を向けたまま、そう言った。
駒井の顔は見えないから、その言葉がどれほど本気のニュアンスを含んでいるのか、あまり見極められない。
「――――もし俺がそう言ってたら、お前はどうした?」
表情が見えていないのは向こうも同じ。だから俺もあえて意地の悪い返しをしてみた。
すると駒井は、振り返り、俺の目を見た。
「ヤるっきゃないでしょ」
そう語る表情は、恐ろしいほどの無。
嫌悪感も笑みもどっちも全く無い、よく分からない表情だった。
俺はその言葉に、息を飲む。
僅かな静寂な間が、俺達の間に流れた。
俺が口を開きかけた瞬間、それより先に駒井が言葉を出す。
「まあ、私としては、精々胸を揉むくらいで勘弁してほしいものだよ」
駒井はそう言って、扉を開けて去って行った。
「……あの野郎」
ここらでもう一回、駒井には何か痛い目に会ってもらった方が良いかもしれないと、俺は内心でそう思いながら、始業までの時間を過ごした。
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