ストーカー・オリジン5
俺にとってストーカー行為とは、生きる意味そのものであり、至福の時間だ。
だが、今日ばっかりは、一概に楽しいとは言い切れない。
理由は単純。あいつ――――清原が蝶野さんの隣を歩いているからだ。
別に、蝶野さんにやがて俺以外の男ができることなんて分かっていたし、覚悟をしていた事だ。
恋を叶えたいなどという思いは、蝶野さんが捨てたゴミを漁り出したあの日から、とっくに葬り去っている。
それでも、心のどこかで、受け入れられない自分が居る。
あの二人の関係を引き裂きたいと願う自分が居る。
それなのに行動を起こさないのは、きっと、俺の中に蝶野さんの幸せを願う気持ちが僅かながらにあるからなのだろう。
今日はやけに、蝶野さんの後を追う足取りが、一歩一歩重く感じる。
「にしても…………」
感づかれぬよう二人の後を追いながら、俺は一つの違和感を覚えた。
あの二人は、一体どこに向かっているのだろうか。
最初は、駅までの道のりを歩いているのだと思っていた。
だが、駅はとっくに通り過ぎており、これより向こうには、少なくとも高校生が立ち寄るような施設は無いはずだ。
二人はその後も歩みを進め、次第に街並みが、空き家などが沢山位置している、さびれたものへと変わっていく。
蝶野さんも状況をよく理解していないのか、たびたび辺りを見回していた。
ただ、二人は進み続け、やがて森の中の一本道を歩いて行く。
そして行きついたのは、山の中にポツンとあるコンクリートの建物だった。
まさか、ここが目的地なのだろうか……?
「清原くん、ここって――――?」
流石におかしいと思ったのか蝶野さんがそう声を掛ける。
しかし、清原が蝶野さんの手を掴み、引っ張って中へと連れて行った。
閉まりかけのシャッターから二人は中へと入り、俺は身を隠しながら、かがんで様子を見る。
すると、中には、ガタイの良い男二人組が地面に寝転がっていた。
蝶野さんは、不安そうな目で清原を見つめる。
「連れてきたぞ」
清原が、二人にそう声を掛けた。
すると、男たちはのそのそと蝶野さんへ歩み寄る。
壁のような男が、蝶野さんの前にそびえ立った。
蝶野さんの表情が、不安から恐怖へと変る。
「えっと…………」
「マジで可愛いな、君」
「はい?」
「興奮してきたってことだよッ――――」
男の内の一人が、蝶野さんの首を掴み、地面へ倒した。
そして、その男は片足に抱き着き、もう一人の男も片足に抱き着いて蝶野さんの動きを封じた。
それを見て、すぐさま清原が蝶野さんの上に跨る。
「悪いな。俺の理想の形になってもらう」
清原は獣のような目で蝶野さんを見下ろす。
蝶野さんは悲鳴を上げるが、すぐさま口に何かの布を詰め込まれて、声を封じられた。
「け、警察――――」
俺は慌てて警察へと連絡を開始する。
状況と現在地を伝えると、急行すると言う返事を貰い、電話を切った。
しかし、電話をした瞬間に警察がここへ瞬間移動してくる訳では決してない。
最寄りの交番からもかなり距離がある上に、こんな山の奥なのだから、すぐに警察は来ない…………。
俺は息を飲み、心臓を手で押さえた。
――――俺が、助けるべきだ。
俺が動かなくては、警察が来るまでの間に、蝶野さんは犯される。
俺が動いたところで、あいつらを撃退は出来ないだろう。だが、警察が来るまでの時間稼ぎなら、もしかしたら出来るかもしれない。
だから、動くべきだ――――。
俺は歯を食いしばり、一歩を踏み出そうとする。
――――だが、足は動かない。
俺の腐った根性が、足を動かそうとしない。
むしろ逆に、全身から力が抜けていき、俺は尻もちを付いてしまった。
文字通り、腰が抜けたのだ。
俺はただ、絶望をした。
悲惨な現状に。
俺自身の心の弱さに。
「暴れんなよな」
蝶野さんは、口を封じられながらも必死にうめき声を上げて抵抗をするが、ただでさえ小柄で隻腕の蝶野さんを男三人がかりで押さえているのだ。まともに抵抗などできるはずがない。
「いいねえ、泣いてる顔は凄く可愛い」
清原はそう言って、蝶野さんの涙を嬉々として舐めた。
「でも、もっと良い顔が見たいな」
清原は、蝶野さんの肩足を抑える男から何やら箱を受け取る。
そして、その中から取り出したのは、一本の注射器だった。
清原はその注射器を蝶野さんの腕に刺し、容赦なく中の薬を注入した。
すると蝶野さんは、全身を物凄い勢いで痙攣させた。
「どうだ? 最高に気持ち良いだろ?」
清原と男三人が蝶野さんから離れ、口に詰めていた布を取り外す。
すると、封じられていた蝶野さんの口からは、獣のような鳴き声があふれ出して行く。
でも、苦しそうではあるが、痛みなどを覚えていそうな様子ではない。
逆に、上限の無い快楽を浴びせられているかのような、そんな声色と表情だ。
「やめて――――ヤメデ――――」
「もう一本、いっとくか」
痙攣が収まり、僅かな正気を取り戻しつつあった蝶野さんに、清原はもう一本薬を注入した。
先ほど以上に蝶野さんは痙攣し、失禁しながらうめき声をあげ、黒目は限界まで上にのぼって白目のようになり、口からは異常なまでの唾液が流れ出た。
「最っ高だ」
気色悪い笑みを浮かべながら、清原は蝶野さんの服を脱がしていく。
そして、下着姿で痙攣しながら快感に溺れている蝶野さんを、清原と男二人組は共にスマホで撮影していた。
「それで、誰からこいつを喰う。多分こいつ、処女だぞ」
その言葉を皮切りに、清原と男二人は、激論を繰り広げた。
「気持ち悪い…………」
全てが、ただ気持ち悪かった。
蝶野さんの人間性を壊したあいつらが、ただただ気持ち悪い。
そして、蝶野さんが壊されていく様子を見て、一歩すらまともに踏み出せずに、あろうことか心のどこかで興奮してしまっている自分自身が、何よりも気持ちが悪い。
気持ちが悪すぎて、何もかもを殺したくなった。
何もかもを殺したくなって、そして死にたくなった。
やがて警察が近くまで来て、サイレンの音が響く。
清原と男たちはその音を聞くや否や、素早く逃げていった。
抜け殻になった蝶野さんだけが、その場に残った。
俺は、倒れている蝶野さんへ歩み寄る。
「ごめん…………」
俺は、その場に座り込んだ。
蝶野さんは、俺に目すら向けない。
ただ、蝶野さんは焦点のあっていない目でどこかを見つめながら、口を開いた。
「もっにょ――――」
唾液を垂れ流しながら、何かをねだるような甘い声色で蝶野さんは声を鳴らす。
もう、正気はとっくに薬に犯されている。
元に戻る事など無いのでは思ってしまうほど、強烈に。
俺は、そんな蝶野さんを見て、顎が痛くなるくらい、奥歯を噛みしめた。
「ごめん…………」
そう謝っても、蝶野さんは何の反応も示さない。
でも、俺は謝り続けた。
「ごめんッ――――ごめんッ――――」
俺は土下座をして謝りながら、コンクリートの地面に何度も繰り返し頭を打ち付けた。
何度も、何度も。
謝罪の言葉を叫びながら、頭を打ち付けた。
数回叩きつけただけで、俺の額から血が流れ出し、周囲に飛び散る。
十回を超えると、やがて、意識が遠のいて行く。
視界がチカチカし、世界が上下に回っているように感じる。
それでも、俺の動きは止まらない。
泣いて、叫んで、後悔の念を爆発させながら、頭を打ち付け続ける。
自らを罰するかのように。
額がかち割れるくらいに痛かったけれど、そんなの気にならないくらいに、必死に何度も頭を打ち付ける。
そして、特大の衝撃を最後に、額から滝のように血を流した俺は、その場に力なく倒れた。
意識はもう、とっくに宙を舞っていた。
――また、やり直したい過去が増えてしまった。
それも、今まだかつてないほどの、特大のものが…………。
評価・感想よろしくお願いします




