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ストーカー・オリジン

「ねえ、あの人って、例の――――」

 同じ高校の女子生徒二人組が、改札に寄りかかって座り込み、茫然としている俺を指さして、何やら語り合いだした。

「そうそう。例のストーカーの人だよ。同じクラスの女子に盗聴器を仕掛けたっていう」

「あんなところで何やってるんだろ」

「さあ」

 女子達は俺について話だし、次第に、俺への暴言を語り合うようになった。

 その子たち以外にも、駅に居る同じ高校の生徒達は皆、俺に向かってゴミを見るかのような目を向けてくる。

 でも、この場から逃げ出すだけの気力が、今の俺には無かった。

 ――――ポケットに入れていた、財布とスマホをいつの間にか盗まれたのだ。

 この犯行が、ただの一般的な泥棒によるものか、それとも、俺に嫌悪感を抱く同じ高校の奴らによるものかは分からない。

 ただ明らかなのは、今の俺には、家に帰るための手段が何一つないという事。

 一応、歩いて帰る事も出来る。でも、俺の家は電車に乗ったとしても小一時間は掛かるほど距離があるから、歩いて帰ったらきっと六時間はかかる。

 スマホもお金も無く、親と連絡を取る事も出来ない。

 絶望感が俺の体を包んでいる。全身に上手く力が入らない。

 盗まれたという事実に気が付いてから、俺は一歩も歩けなくって、こうして改札に寄りかかって座り込んでしまっている。

 俺が座っているせいで改札が実質一つ使えなくなっているから、同じ高校の生徒以外も俺を嫌悪感のこもった視線で刺してきた。

 この場にいる人間全員が、俺の敵なのだ――――。

「――――どうしたの?」

 急に、そんな声が俺に掛けられた。

 俺に声をかけるもの好きが、存在していたのだ。

「財布とスマホを盗まれてしまって……帰れないんです…………」

 声の主に目は向けず、地面のタイルを見つめながら、俺は話す。

 すると、僅かな間が流れたあとで、少女が俺の目の前にお札を一枚差し出した。

「これで足りる?」

 俺は思わず、その人の顔を見上げた。

 すると、天使のような女の子が俺を見つめていた。

「は、はい。大丈夫です……」

 俺はそのお札を受け取る。

 すると彼女は、今度は俺に手を差し出した。

 彼女が片耳にだけ付けていた風鈴の耳飾りが、太陽の光を反射して、まぶしいくらいに輝いていた。

「じゃあ、行こっ――――」

 彼女は弾けるように笑って、俺に左手を差し出し、立ち上がるよう促した。

 俺はそんな彼女の笑顔を見て、左手を掴む。

 ――――彼女は、右腕の無い子だった。

 ブレザーの右腕の部分は、彼女の長い髪と一緒に宙を舞っている。

 だから、俺に差し出されたのは左腕だったのだ。

 でも、差し出された彼女の左手を掴んで立ち上がる際に、フラついたりはしなかった。

 それだけ、彼女は強い子だった。

 両手が揃っている俺なんかよりも何倍も強くて、そして美しい子だった。


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