ストーカー・ソウル6
その後も、俺はありとあらゆる手を使ってあの二人を引き裂こうとした。だが、そのどれもが、全くと言って良いほど、上手くいかなかった。
「チッ――――」
俺は今日も、駒井を早朝の教室に呼び出している。
もうこのように呼び出すのも、何度目か分からない。
ただ、いつもと違う所は、今の俺には何のアイデアもないということだ。
「どうすりゃいいんだ――――」
流石に、そろそろ清原が蝶野さんを再び壊そうとしてもおかしくない時期になりつつある。
もう失敗はできない……。
――――けれど、やれることは殆どやり切ってしまった。
黒い噂も流したし、清原に濡れ衣だって着せた。
それでも、何一つ惜しい所にすらいっていない。
何をどうしても、あの二人を引き裂けない。
俺は……一体どうすれば、蝶野さんを救ってあげられるのだろうか――――。
「ねえ」
少し塞ぎ込んでいた俺に、駒井が声を掛けた。
だが、心配している様子など一切無く、ただ、俺に対して要件を求めているだけの様子だ。
俺は、そんな駒井の体を、頭のてっぺんからつま先まで、なぞるように全てを見た。
そして、一つ良いアイデアを閃く。
「――――お前さ、あいつに色仕掛けしろよ」
「は?」
俺の言葉が理解できなかったのか、駒井の口からそんな言葉が漏れ出た。
「お前、スタイルで行ったら蝶野さんよりも格段に良い訳だし」
「いやいや……」
「胸でも押し当てりゃ、必ずあいつは押し倒して来る。そして、物陰に隠れていた俺がその様子を動画か写真にでも収めて、学校中にバラまけば――――」
俺はもっと事細かに説明をしようとする。だが、そんな俺を駒井は手で静止した。
「本気で言ってんの? それってつまり、私に犯されろって言ってるのと同じことなんだけど?」
「そうは言ってないだろ……」
「なら、もし清原くんが私を襲ってきたら、あんたが助けに入ってくれんの?」
「いや――――」
一瞬だけ、死んでも助けると言おうとしてしまった。
でも、いざそう言う状況に陥ったとしも、俺はきっと、また動けないだろう。
だから、喉元まで出かかった言葉を引っ込め、違う言葉をひねり出した。
「もしそうなったとしたら、俺が教師でもなんでも読んで来るさ」
「それって逆に言うと、あんたが教師を呼んでくるまで、私はあいつに犯され続けなきゃいけないって事なんだけど」
色仕掛けなど、人目が無い所で実行せざるを得ないし、そうなってくると、最も近くにいる教師を呼ぶにも数分は掛かってしまうだろう。
そして、女を無理やり押し倒した男が、その数分間の内に、何もしない訳が無い。
どこまで行くかは分からないが、少なくとも何かしらはされてしまう。
「なんかさ、前々から思ってたけど、あんた、焦ってるでしょ」
眉をひそめながら。駒井は俺にそう言った。
「何言ってんだ。俺は至って冷静だ」
「いいや、そんなことない。噂を流すって言った時らへんから、あんたは変だった」
「何がだよ……」
「だって、蝶野さんが噂に振り回されないタイプの人間だって、あんたが誰よりも知ってたはずなのに、あんたは噂で翻弄しようとしたじゃん。それっておかしいでしょ?」
どんな言葉が来ても、すぐに反論してやろうと思っていた。
でも、俺は何も反論できなかった。
「あんた、やっぱおかしいよ。少し落ち着いた方が――――」
「――――うるさい」
俺は、反論をすることをやめた。
「いいから黙って、俺の言う通りにしろ」
この場において、駒井が俺の案に納得しているのかどうかなど、どうでも良いのだ。
「じゃないと、分かってるよな――――」
なぜなら、駒井には、俺の命令を忠実に従う以外の選択肢など無いのだから。
駒井は、いつもより若干潤んだ目を俺に向けて、黙って頷いた。
そして、何も言わず、駒井は俺の前から去って行く。
俺もそれを、特に引き止めたりはしなかった。
◆◆◆◆◆◆◆◆
放課後の教室、駒井にはただ一人で、奴が来るのを待たせた。
俺は、隣の教室で待機した。
隣の教室の様子は見えないが、駒井のスマホと通話を繋げてあるため、音は鮮明に聞くことが出来る。
俺は、壁時計の秒針を眺め続け、清原が来るのをひたすらに待った。
根っこの部分がクソ野郎なあいつなら、この色仕掛けも絶対に成功すると信じて。
――少しすると、隣の教室の扉が開いた後がした。
どうやら、遂に清原が来たらしい。
『何の用かな』
俺は通話を終了し、音をたてぬよう教室から出て、隣の教室の扉を僅かに開け、中を覗き見た。
「どうした? 何で黙ってるんだ?」
駒井は、清原を前にして、顔に影を落とし何も声を発さなかった。
でも、怖気づいている様子では決してない。
駒井は息を大きく吸い込み、清原に微笑んだ。
「ちょっと、もう少しだけこっち来てくれないかな?」
妖艶に笑いながら手招きして、清原を手の届く範囲まで近づかせようとする。
そして、やはりと言うべきか、清原は罠にかかる獲物のように歩み寄って行く。
二人が互いに手の届くほどの距離まで接近したら、駒井は清原に抱き着いた。
「お願い。清原くん――――蝶野さんじゃなくて、私を選んで」
駒井は抱き着き、自らの胸を押し当てながら、清原に言う。
「私、清原くんと付き合えるなら、本当に何でもやるから――――」
そういい、駒井は足を折り曲げていく。
やがて床に膝を付き、清原の下半身にすがるように抱き着きながら、上目遣いで涙を浮かべながら清原の目を見た。
「だから……お願い――――」
駒井ほどの美少女にこんなことをされては、耐えられる男などいるはずがない。
俺は勝ちを確信した。
けれども――――。
「ごめんな」
清原は、自信の腰に回っていた駒井の手を解く。
「俺はこれでも、蝶野さんとは色々な事があって、ちゃんと彼女の事を心から愛してるんだ。だから、駒井の気持ちには応えられない」
そう言い、頭を撫でた後、清原は去ろうとした。
大慌てで俺は隣の教室に隠れ、清原の事をやり過ごす。
するとほどなくして駒井が、俺が隠れた教室の中に入って来た。
「やっぱ、上手く行かなかったね」
俺を煽るような目を向けて、駒井は言う。
俺は奥歯をギュッと噛みしめた後、悔しい気持ちを爆発させ、その場でただひたすらに憎しみの気持ちを叫ぶのだった。
どうして……どうしてあいつはクズのくせに、無駄に一途なんだ…………。




