第098話 上手くいきそうで良かったね
「お前、このアルトにいるけど、その男はどうしたんだ?」
「キルケにいる。私もそいつもキルケの出身なんだ」
キルケ……
確かエスタと隣国の国だな。
この前、地図を見たからわかる。
「お前、エーデルに来ていいん? 男の傍にいろよ」
何にしても、近くにいないと進展はしないぞ。
「最近、キルケとエスタが物騒でな。戦争なんかに参加したくないし、本格的にエーデルに拠点を移したんだ。クリス……私のアレな。そいつらのパーティーもエーデルに来るんだよ。あいつらはパーティーだから動きが遅いだけ。もうちょっとしたら来るよ」
戦争かー……
「戦争は参加しないのか?」
「嫌に決まってるだろ。私らはモンスターを倒す専門職だぞ。盗賊や兵士崩れの野盗を殺すことはあっても人間同士の争いなんてごめんだ。そういうのは傭兵の仕事」
それもそうか……
俺だって、嫌だ。
「なるほどねー……」
……どうしよう?
その男、アルトに着いたらアンナにプロポーズする未来が見えた。
サプライズ的には言わない方がいいかもしれん。
ただ、アンナはめっちゃ不安そうだしなー。
「私はどうすべきだ?」
待ってりゃいいよ。
「俺の占いで上手くいくって言っただろ。これで進展せんかったら、上手くいってねーじゃん」
ヤリ捨てやんけ!
「それもそうだな……お前の占いが外れなければだが」
まあ、そういう見方もある。
「お前はもっと先のことを考えとけ」
「先?」
「結婚したら仕事はどうすんだ?」
「いや、普通に続けるよ。フィリアもそうだろ」
この世界って、嫁は家に入らないのかね?
「なあなあ、結婚しても仕事を続けるもんなん? 専業主婦的な考えはないん?」
「ああ、そういうことか。普通の仕事をしている人はそうするが、私らは冒険者だからな。動けるうちは稼ぐんだ。さすがに男女問わず、30歳を超えると、身体にガタが来る。35歳を超えて冒険者をしてる奴はほとんどいないんだよ」
引退が早いのか……
だからそれまでに夫婦で稼いでおくのか。
「なるほど」
「まあ、これはお前のところみたいな冒険者同士の場合だな。そうじゃない場合はまた違う」
「引退後は?」
「それこそ色々だ。冒険者時代の伝手を頼ったり、兵士になったり、指導役になったりとかかな。まあ、女の場合はクランが斡旋してくれるから楽」
お前らのクランって、マジでホワイトじゃん。
「ふーん」
「まあ、お前らは考えなくてもいいだろ。お前らは冒険者をしなくても稼げそうだ」
俺は占い、ヘイゼルは魔法、フィリアは……あいつは修道女でいいのか?
一番稼ぎそうな人だけど。
「わかった……これ以上、占いは必要ないし、1つアドバイスをやろう」
「なんだ?」
「結婚熱が高まっているミケへのフォローを考えとけ」
弟から始まり、友人2人が立て続けに結婚する。
荒れはしないだろうが、焦り始める猫ちゃんが占わなくても見える。
「……ああ、そうする」
「友情は大切にした方がいいぞ?」
「知ってる。リヒト、ありがとう。そして、改めて、おめでとう。フィリアと……あと、ヘイゼルとお幸せに」
アンナが改めて、祝福してくれた。
「ありがとう。金貨100枚ははした金だったわ」
「おかげさまで、その惚気を聞いても穏やかな気持ちで良かったなって思えるよ」
「ミケを大切に」
「……そうだな。相談に乗ってくれて感謝する。もう行っていいぞ」
アンナがしっしっと追い払いように手を振る。
「俺は虫か」
「フィリアが待ってんだろ?」
「じゃあな」
「早く行け」
アンナと別れ、教会に向かう。
時刻は21時を回っており、酒場や宿屋の多い西区ではまだ騒がしい。
そんな喧騒を抜け、教会にやってきた。
教会はすでに灯りもついておらず、暗かったが、宿舎の方に回り、扉を開けた。
鍵がかかっていなかったが、多分、フィリアだろう。
中に入り、鍵を閉めると、すぐ近くの扉をノックする。
『どうぞー』
フィリアの許可が出たので中に入る。
「お邪魔しまーす」
部屋に入り、ベッドに腰かけているフィリアの隣に座った。
「アンナは何て?」
興味津々なフィリアが早速、聞いてくる。
「まあ、想像はついてると思うが、俺が占ってやったあとの続き。まあ、上手くいきそうだわ」
「ホント!? よーし! 問い詰めよう!」
この町の人間はホントに……
「お前って将来はどう考えてるの?」
「将来? え? お金儲けだけど、どうしたの?」
やっぱりお金か。
「ちょっとアンナに聞いたんだけど、お前らって、引退後もクランが職を斡旋してくれるんだろ? どう思ってんのかなって」
ヘイゼルは聞かなくてもわかる。
あいつは魔法使いだから研究と魔法士ギルドの仕事だろう。
「私はやっぱりお金儲けというか、商売だね」
「修道女は?」
「いや、修道女ってお金になんないし。前にも言ったけど、私は家が教会だったから手伝い感覚でやってるだけで敬虔な信者じゃないよ。まあ、実家だし、これからも手伝いはするけど、お金は取らない」
だから商売か。
「引退って30歳を超えたら?」
「うーん、場合による。子供のこととかあるし、女性冒険者は体力だけじゃなくて、そっち方面もあるんだよ」
あー、それもそうだわ。
結婚すれば、子供だ。
子供……どうしようかねー?
「なるほどね」
「まあ、子供はいずれかな? いつかは欲しいけど、私らは跡取りが必要なわけじゃないから焦んなくてもいいし」
「やっぱ商家や貴族は跡取りがあるから焦るんかね?」
なんか嫌な空気と言うか、義務感があって嫌だな……
「そうだよ。というか、親や周りが急かしてくるんだと思う。そういうのはゲルドさんとかが詳しいかな?」
「いや、ドロドロしてそうで聞きたくないわ」
絶対に嫌!
庶民で良かった!
「だよねー。絶対に嫌だよ。だから正妻はヘイゼルさん」
「お前らさ、その争いを俺の前ですんな。すげー、へこんでくるから」
正妻の地位の奪い合いでも嫌なのに譲り合いって……
「ごめん、ごめん。私ら庶民に正妻とかないし、半分は冗談だから」
半分は本気らしい。
「お前、たまにひどいよな」
「ごめんってー」
フィリアはそう言って俺の首に両腕を回してくる。
フィリアの顔が近い。
「罰として、泊まっていくわー」
「罰になんないね。というか、最初からそのつもりでしょ」
そりゃね。
当たり前じゃん。
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