第086話 だって、仕方がないじゃないかー
ちょっと待つと、扉が開き、ヘイゼルが出てきた。
「あ、やっと来た。えらい時間がかかってたみたいねー」
「ちょっとな。その辺のことも話すわ」
「ふーん、まあ、入ってよ。あ、フィリアもこんにちは」
ヘイゼルはそう言って、俺達を迎え入れる。
「こんにちはー。お邪魔しまーす」
俺とフィリアはヘイゼルの家に入り、リビングにある机の席についた。
昨日と同様に俺とフィリアが並んで座り、家主であるヘイゼルが対面に座る形だ。
「さっき神父様と話してきたわ」
席につくと、ヘイゼルに説明をする。
「長かったわねー」
色々、あったんだよ……
「まあ、ちょっとな……結論から言えば、承諾はもらえた」
「でしょうね。反対することはしないでしょ」
「と、俺も思ってはいたが、怖いわ」
「わかるわかる。あの人、怖いよね」
ホントねー。
「そうかなー? 優しいおじいちゃんだよ」
お前にはそうだろうよ。
「まあ、お前は孫だからな。それでだ、一応、母親のことも、あっちの世界のことも話しておいた」
「話したんだ?」
「言っちゃっていいの?」
このことはまだフィリアにも言っていないため、ヘイゼルだけじゃなく、フィリアも驚く。
「お前らの価値観は知らんが、ウチの国では結婚は個人だけでなく、家の繋がりでもあるからな。それに神父様も勘付いてはおられた」
「へー。まあ、貴族は確かに家の繋がりはあるよ。そのための政略結婚だし」
貴族はそうだろう。
俺もそれはわかるし、想像もつく。
「おじいちゃん、気付いてたの?」
フィリアが聞いてくる。
「お前の部屋で転移したからな。あの人、人の気配とかがわかるらしく、お前の部屋に誰もいないことがわかってたらしい。あと、俺が母親に似てるんだと」
「あー……おじいちゃん、元騎士だからなー」
「そういえば、いつの間にかすぐ後ろにいたし、気配を読むとかもできるかもね」
騎士団に入ると、気配を読むとかいうよくわからない達人芸ができるようになるのかね?
俺も占いやダウジングみたいなことをすればわかるけど。
「でも、リヒトさんがソフィア様に似てるってのはわかるかも」
「確かに……あの写真を見て、私も思った」
俺にはよくわからないが、まあ、親子だし、似てるかもしれない。
「まあ、そういう話をしてたんだわ。あと、ヘイゼルの話は……どうしよ……?」
ヘイゼルちゃんが落ち込むかもしれない……
「私も何かあるの?」
「フィリア、お前、神父様の出身地ってわかるか?」
一旦、ヘイゼルを置いておき、フィリアに聞く。
「え? ここでしょ?」
フィリアは知らんらしいな……
「まあ、話すか……」
「詳しく聞きたいけど、長くなりそう? あっちに帰ってからにしない?」
それがいいかもな。
「そうね。あっちでゆっくり聞きましょう。私、ソファーに座りたいわ」
フィリアもだが、ヘイゼルはあのソファーが好きだなー。
まあ、こっちの椅子は長時間座ると、お尻が痛くなるしね。
「じゃあ、帰ろうか……ヘイゼル、準備はいいか?」
「ええ。あんたに言われた通り、ゴミはまとめたわ。収納魔法にしまってる」
ヘイゼルには向こうのゴミをこっちで処分するなと伝えてある。
「よっしゃ。ヘイゼル、こっちにおいでー」
対面に座っているヘイゼルをこっちに呼ぶ。
「あんたにそれを言われると、いかがわしいようにしか思えないわ」
「なんで?」
フィリアが首を傾げた。
ヘイゼルちゃん……
少し、黙ろうか……
内緒って言ったのはお前だろ。
「色々あったのよ。それよか早く帰りましょう。私、お風呂に入りたい」
「あ、私も入りたい」
「帰ったら風呂なー。じゃあ、寄ってきてー」
そう言うと、2人が俺を挟み、両腕を掴んだ。
「いや、一旦離せ。スマホを操作できん……」
俺達は姿勢を正し、アプリで日本に帰還した。
3人で日本からあっちの世界に転移したことはあるが、あっちの世界から日本に転移したのは初めてである。
だからどうということはないが、なんとなく、この2人と結婚するんだなーと思えた。
俺達は帰還すると、風呂に入ることにした。
最初はフィリアだ。
今、フィリアが風呂に行っており、俺とヘイゼルはソファーに座ってお茶を飲んでいる。
お酒は全員が風呂から上がったあとだ。
「お前、さっきのはないぞ」
転移直前のヘイゼルの発言を責める。
「悪かったわよ。でも、あんたがふざけるからでしょ」
「俺はいつもふざけてるじゃん」
「いや、それが悪いんじゃない?」
まあ、そうとも思う。
「8対2くらいかな……」
もちろん、ヘイゼルが8で俺が2。
「えー、6対4くらいだと思うなー」
実は俺もそのくらいかなと思ってる。
「これは罰だな。これ、ヘイゼル、こちらに来なさい」
「それが言いたかっただけでしょ。しょうがないなー」
ヘイゼルはやれやれといった感じで身を寄せてくる。
そんなヘイゼルを抱きしめた。
「……ヘイゼル、好きだ。俺と結婚してほしい」
「あー……あんたらが来るのが遅かった理由がわかったわ」
まあ、フィリアのじいさんと話しているだけにしては時間がかかりすぎてたからね。
「まあまあ。2人も娶って悪いとは思う」
「別にフィリアならいいわよ……ねえ? たとえ、死しても私を守ってくれる?」
多分、これはロストの風習だろうな……
母親が父親に聞いているところを何回か見たことがある。
夫婦喧嘩して仲直りする時だ。
見たくはなかったけどね……
「絶対に守ると誓う」
「うん……お願い」
ヘイゼルも了承してくれ、俺を抱きしめ返してくる。
「……あいつ、いつ風呂から上がるかな?」
「やんないわよ」
サービスもなしっぽいな……
「しかし、フィリアが風呂に入ってる時にこんなことをしてると、罪悪感がヤベーな」
すげー、浮気っぽくね?
「そりゃあんたはそうでしょうよ」
「お前は?」
「何も思わない。どうせフィリアがお風呂から上がって、次に私がお風呂に入っている時に似たようなことをするんだろうなーって想像がつくもん」
……まあね。
罪悪感が増したわ……
とはいえ、俺がヘイゼルを離すことはなかった。
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