第085話 逃がさない
フィリアのじいちゃんである神父様と話をし、フィリアを娶る許可を得た俺は教会隣にある宿舎に入ると、出入口すぐ近くのフィリアの部屋の扉をノックする。
「どうぞー」
家主の許可を得たので、扉を開け、中に入る。
すると、フィリアがベッドの上でだらけていた。
「よう、フィリア」
「リヒトさん、こんにちはー」
挨拶をすると、フィリアは横になったまま挨拶を返した。
「体調でも悪いん?」
「いや、ちょっと考え事をしてた……よっこらっせと!」
フィリアが上半身を起こす。
「横になっててもいいのに」
「そしたらリヒトさんが座れないじゃん」
いや、俺も横に……
「まあいいや。じゃあ、隣に失礼する」
そう言って、フィリアの隣に座る。
座った時に2、30センチの間隔を空けて座ったのだが、すぐにフィリアが腰を上げ、ほぼくっついた状態で座り直してきた。
「ヘイゼルさんは?」
「家。ギルマスに依頼の詳細を話したし、帰ろうかなって思ってさ。お前はどうする? 考え事って言ってたけど」
多分、帰るだろうけど、一応、確認する。
「もちろん、帰るよー。考え事は今後の商売だね。砂糖も終わったし、どうしようかと考えてた」
「その辺も考えないとなー」
「まあ、まずは氷だね。あ、ヘイゼルさんの家に行く前にオリバーさんにお金を受け取りに行こうよ」
「そうだなー」
金貨600枚か……
めっちゃ重いだろうけど、幸せの重みと思おう。
「行く? ヘイゼルさんが待ってるだろうし」
「あ、ちょっと待て。出かける前にお前に話がある」
腰を浮かせかけたフィリアの腕を掴み、座らせる。
そして、フィリアの手を膝の上に置き、上から握った。
「話? なーに?」
「さっき、お前のじいちゃんと話をしてきた」
「う、うん」
フィリアは膝の上の手を返し、手を握り返した。
「神父様にお前との結婚の許可をもらってきた」
「うん……」
フィリアは俯いている。
そんなフィリアの頬を触った。
「フィリア、愛してる。俺と一緒になってほしい」
「うん。私も……よろしくお願いします」
フィリアは頭を下げる。
「ほら、こっちにおいで」
フィリアの頬から手を離し、首に腕を回す。
すると、フィリアは俺の手を離すと、腰を浮かし、俺に抱きついてきた。
「ありがとう……」
フィリアが抱きついたまま、耳元で囁いてくる。
抱き合っているので、顔が見えないが、声から察するにフィリアは多分、泣いていると思う。
「それは俺のセリフだな。でもまあ、ちょっと待ってね。色々と決めないといけないこともあるし、俺の親にも言わんといかん」
「うん。待ってる……」
フィリアが抱きつく力が強くなったと同時に俺ももう片方の手をフィリアの背中に回し、抱きしめた。
1時間後、俺とフィリアは宿舎を出ると、商人ギルドに寄り、オリバーから金貨600枚を受け取った。
そして、ヘイゼルの家に向かっている。
「ちょっと遅くなっちゃったね」
隣に歩くフィリアが声をかけてくる。
時刻は15時を回っている。
ヘイゼルを結構、待たせてしまったが仕方がない。
「まあなー。向こうに帰ったら朝の9時ってところかな……今回は色々あったし、ゆっくりしようかなーって思ってる」
「良いと思う」
フィリアが教会を数日空けることになるかもしれんが、神父様にはある程度の事情を話したし、問題ないだろう。
「しかし、重いな……」
肩にカバンを背負っているが、めちゃくちゃ重い。
金貨600枚はやべーわ。
「ちょっと持たせてよー」
「持ち逃げすんなよ」
カバンをフィリアに渡し、半笑いで言う。
「ちょっとやってみる!」
フィリアはカバンを持ち、走ろうとしたが、5メートルも到達しないうちに止まった。
「すごい! これが600枚! 逃げられない!」
フィリアが楽しそうに笑う。
フィリアに愛想を尽かされそうになったら金貨600枚を持たせようと思った。
「ほら、お前には重いだろ。貸せ」
俺もそんなに力があるわけではないし、正直、肩が痛い。
しかし、男の威厳を保つため、何でもないようにカバンを受け取ると、担いで歩き始める。
そして、ようやくヘイゼルの家が見えてきた。
めっちゃ疲れた……
「フィリア、ちょっと回復魔法をかけてみて。どんなもんかなーっと思ってさ」
「はいはい、重くて疲れたんだね。ヘイゼルさんにバカにされたくないんだね」
ち、違うよー。
「いや、前にヘイゼルから回復魔法は疲労に効くって聞いたからどんなもんかと試してみようかと思っただけ。ほら、今後、お前と一緒に冒険に出た時とかのためにどんな感じかを知っておかないといけないじゃん」
「早口で言わなくてもいいよ……いくよー、ヒール!」
フィリアが俺に手をかざすと優しい光が俺の身体を包んだ気がした。
すると、肩の痛みや色々と動いた疲れが少しずつ取れていく。
「おー! すげー!」
「でしょー!? 絶対に教えないけどね!」
先手を打たれた。
やっぱり教えてはくれないらしい。
「杖とかいらねーの?」
フィリアは袋ゴミが入ったカバンしか持っておらず、さっきの回復魔法も手をかざすだけだった。
「この程度なら杖がなくても大丈夫だよ。さすがに深い切り傷以上だと杖か詠唱がないと無理だけど」
回復魔法も攻撃魔法とほぼ変わらんみたいだな。
ヘイゼルも酒を冷やす時は詠唱もしてないし、杖も持っていなかった。
「なるほどね。よーし! 回復したし、ヘイゼルの家に行くかな」
「ほらね……」
フィリアの呆れたようなつぶやきは聞こえなかったことにし、ヘイゼルの家の扉の前に立つと、扉をノックした。
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