第084話 ありがとう
「予想してましたか?」
「捜索をずっとしておったが、ある日を境に一切の情報が消えたのだ……それまでは捕まえることはできんでも目撃情報くらいはあった。それが突然なくなった。私も捜索メンバーの一人だったが、これは異世界に逃げたと踏んでいた。一緒に逃げた貴様の父親は異世界人だったからな」
なるほど。
「異世界に転移できると?」
「わからんが、異世界人自体が転移してきた存在だからな。逆に転移することもあるだろう。特に貴様の両親は共に特殊なスキル持ちだからな」
母親は巫女、父親はギフト持ちか……
「なるほど」
「正直、貴様に初めて会った時からもしやと思った」
「そうなんですか?」
それは意外だ。
「顔がソフィア様に似ているし、そのオッドアイはソフィア様とリュウジ殿の色だ。そして、巫女様の力を持ち、イース国の話に食いついた。もしかしてとは思った」
あー、なるほど。
イースは母親から聞いたことがあったので、確かに食いついたわ。
「ミスったかな?」
「ミスというほどではない。私も確信があったわけではないし、何となくそう思っただけだ。ソフィア様は息災にしておられるか?」
んー……
「元気にしていますよ。巫女の力とやらを使って、博打で儲けて、今は父と外国で遊んでます」
「ハァ……いや、息災ならいい」
落ち込まないで!
気持ちはわかるけど、僕の母親なんです!
「神父様は母とは?」
「私は元々、ロストの貴族なんだ。と言っても継承権のない四男だったから教会の騎士団に入った。ソフィア様が巫女になられるということで護衛役を承ったのだ」
さっきこの町に来て20年って言っていたが、元はヘイゼルや俺の母親と同じロスト王国か。
「そのー、何と言うか……」
この人がロストでなく、エーデルにいるのは……
「貴様が思っている通りだ。私がロストに帰ってないのは護衛役をまっとうできんかったからだな。どんな顔をして帰ればいいかわからん。上にお願いして、この町の神父にしてもらった」
「本当に申し訳なく……」
ウチの母親が……
「よい。貴様が気にすることではないし、ソフィア様が選んだ道ならば仕方がない。元々、ロストでも何をしでかすかわからん姫君だったのだ。人とは考えることが違う。凡人の我々には理解できんかった」
良い意味でも悪い意味でもって感じだな。
「母には文句を言っておきます。右から左でしょうけど……」
ママがパパと一緒になったからリヒトちゃんが生まれたのよー……って言いそう。
占わなくてもわかる。
「だろうな。まあよい。フィリアのことにしても、あのヘイゼルとかいうバーナードの小娘のことも報告するがいい」
「ヘイゼルのことをご存じで?」
同じロストの貴族だからわかるのかな?
「バーナードの当主から気にかけるように言われておる」
ヘイゼルちゃん……
普通に居場所がバレてますやん……
「ヘイゼルの父親はヘイゼルがここにいることを知っているんですね? ヘイゼルは隠してますけど……」
「貴族を舐めないことだ。そんなもんはすぐに調査をすればわかる。ましてや優秀な魔法使いのことなんかすぐにわかる」
あー……ヘイゼルは目立つしなー……
「ヘイゼルの父親は連れ戻さないんですか?」
「外国だからな……いくら娘とはいえ、絶縁状を送った冒険者を無理に連れ戻せば、ここの貴族とぶつかるし、下手をすれば国際問題だ。ヘイゼルはここの領主とも知り合いだし、国も貴族も優秀な魔法使いを手放すわけがない」
マジでみーんな、ヘイゼルが貴族なことを知ってんだな。
それを知らないのは本人だけ……
「一度、向こうの親と会った方が良いですかね?」
結納じゃないけど、挨拶くらいはいるような。
「やめとけ。貴様はロストには行かんほうが良い。何だったら手紙でも送ってやろうか? それこそ何かの贈答品と一緒に送れば、向こうも文句は言わんだろ」
贈答品?
「何かを贈った方が良いんですかね? それこそ結納?」
「ある程度の財力を見せればいいんだ。向こうだって娘がいくら優秀だろうが、貧乏人に娘をやるのは不安になる。貴族から平民になって苦労する話は多いからな。あいつらだって、ちゃんと娘を養えるのなら安心するだろ。絶縁状を送ってるし、もはやあの娘に政略結婚の価値はない。あとは親の感情だけだ」
財力か……
100均で鏡でも買って贈るか……
フィリアの目利きでは確か、めっちゃ高かったはず。
「ヘイゼルに政略結婚の価値はないんですか?」
「貴族の婚姻では身辺調査をするからな。この町で調査してみろ。すーぐに貴様のお手付きなことがバレる」
手を付けてはないんだけどな……
ギリね! ギリセーフ(アウト)だよ!
「ヘイゼルの親も?」
「もちろん、知っている」
やっぱりかー……
一緒にいるし、部屋にも入ってるもんな。
事実はともかく、黒寄りのグレーだ。
「わかりました。適当に贈答品を見繕いますので、手紙を送ってもらえますか?」
「いいだろう。貴様は今後、どうする? この町に住むのか?」
「その辺を詰めていないのですよ。正直、感情のままにフィリアとヘイゼルをもらうことにしましたので」
2人に不満はないけど、もうちょっと時間をかけたかったよ……
「若いうちはそれでいいだろう」
「ですかねー? あとはこの町のせいですね。噂のせいで外堀がガンガン埋まっていきます」
「それはすまない。実はよくあることだ。実際、私の息子夫婦……フィリアの両親だな。あれらもそうだった」
この町がすごいんだな……
「まあ、多分、この町に住むとは思いますが、その辺を今後、3人で詰めていきます。今日はフィリアをもらう許可と私のことを話しに来たんです」
「わかった。私から何かを言うことはない。ただ、フィリアを頼む。あの子はしっかりしているし、必ずや貴様を支えてくれるだろう。貴様もまた、フィリアを幸せにしてやってくれ」
じいさんが俺の両肩に手を置いて頼んでくる。
ちょっと怖い。
肩を掴まないで。
「それは確実にお約束しましょう」
「うむ。なら結構。バーナードや教会のことは任せておけ」
「感謝します」
立ち上がり、深々と頭を下げた。
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