第083話 ごめんなさい
教会の神父であるフィリアのじいちゃんから話があるということをフィリアに聞いた俺は教会に行き、話を聞くことにした。
正直、足が非常に重い。
話の内容は100パーセント、フィリアのことだからだ。
この世界ではそういう意味に当たるアクセサリーを俺はフィリアに贈った。
まあ、正直に言えば、買った当初はそこまでの意味を含んでいなかったが、男が好意を持つ女に贈ったプレゼントであることに変わりはない。
そういう意味があるんだよって教えてもらったあとも返却は求めなかったし、特に否定もしなかった。
フィリアがそれを受け取り、身に着けるという返事をもらった今、もう後戻りはできない。
というか、俺、言葉に出しちゃったしね。
数日前、こっちの世界に戻ってきた時、フィリアはネックレスを見せびらかすように身に着け、家のある教会に帰っていった。
同僚の修道女達が祝福してくれたって言ってたし、噂好きのこの町の住人のことだ。
もう大抵の人間が知っているんじゃないかと思う。
下手すれば、ヘイゼルのこともだろう。
そうなると、フィリアのじいちゃんである神父様の耳にも当然、入っている。
もしかしたらフィリアが直接、報告している可能性も高い。
フィリアのじいちゃんはフィリアを俺に譲ることに関してはそこまで否定的ではなかった。
むしろ、勧めているところすらあった。
この世界の結婚の価値観はわからないが、多分、どの人も結婚に対してあまり否定はしないのではないかと思う。
国によってはだが、重婚もオッケー、ヘイゼルから聞いた絶縁後も結婚を祝福する話、ガラ悪マッチョから聞いた明日死ぬかもしれないのに結婚を推奨する価値観、そして、そんな男に嫁ごうとする女。
俺はこれらを総合的に踏まえて、反対される可能性はないと考えてる。
もちろん、孫はやらんと言って、殴られる可能性はゼロだろう。
ヘイゼルと別れ、教会に向かっている途中、この思考を2、3回繰り返している。
だって、嫌なんだもん。
心を落ち着かせようと必死!
俺、付き合っているかも微妙な女子の保護者に挨拶に行くんだよ?
まだ、抱きしめたことくらいしかしてないんだよ?
ちょっと半裸を拝んだのと家に連れ込んだくらいだよ?
こえーよ!
また足が重くなり、さっきの思考を最初からやり直す。
そして、心の中で大丈夫を連呼し、教会へと向かった。
教会に着くと、俺は一度、立ち止まり、スイッチを切り替える。
堂々と!
もらって当然的な心構えでいこう!
挨拶の時におどおどする男にだーれが唯一の孫娘を託すってんだ。
覚悟を決め、敷地に入ると、教会の本堂の扉を開いた。
そして、以前、フィリアに案内された奥の執務室の前に立つ。
多分、ノックをしないでも俺がここにいることは気付いているんだろうなー……
とはいえ、ノックはしないといけないので、扉を2回ほど手の甲で叩いた。
『入れ!』
ほーら、しゃべり方が騎士団モードだもん。
絶対に俺だってわかってるし。
「失礼します」
扉を開けると、そう言いながら一礼する。
顔を上げると、フィリアのじいさんが以前と同じく、椅子に座っていた。
「座りながらですまん。今度は本当に腰を痛めた」
ラッキー!
これで殴られないのは確定!
「いえ、今度、腰に効く湿布でもお持ちしましょうか?」
「……そうだな。あればもらいたい」
「用意しましょう」
買ったことないけど、ドラッグストアに行けば、売ってんだろ。
「頼む。まあ、座れ」
じいさんは机の横にあった予備の椅子を引っ張り、正面に座るよう言う。
近くね?
手が届く距離では?
「では、失礼して」
否定もできないので大人しく椅子に座った。
俺とじいさんの距離は1メートルも離れていない。
医者の問診を受けている気分だ。
「して? 何の用だ?」
白々しいなぁ……
「フィリアから神父様から話があると伺いました。また、私も神父様にお話があるのでやって参りました」
「ふむ……どちらの用事から済ますかな?」
まーじで白々しいわ。
「どちらも同じ内容ですので私から話しましょう」
「では、聞こう」
じいさんが姿勢を正した。
「単刀直入に言いますが、あなたのお孫さんであるフィリアさんを嫁に迎えたい」
「ふむふむ。まあ、そうだろうなー……はっきり言うが、私は否定しない。フィリアがそう決めたのならそれで構わんし、いつくたばるかもわからん爺の言うことに従い、婚期を逃すこともない」
「あなたはまだ死にませんよ」
あと20年以上は生きるだろうよ。
「そうか……それは良いことを聞いたな」
「フィリアとは一緒になります。ただ今すぐというわけではありません。まだしないといけないこともありますので」
これだけは言っておかないといけない。
まず、俺は両親に伝えてすらいないのだ。
「わかった。私はただ孫を祝福する。時期については貴様らが決めることだ。ついでに聞くが、あの魔法使いとも一緒になる気か?」
「よく知ってますね?」
「この町では色恋話はすぐに共有されると思っていい。私も20年前になるが、この町に来てビックリした。どこぞの誰が結婚するらしいとか、あそこは隠しているようだけど、デキてるみたいな噂がしょっちゅう入ってくるのだ」
そんな昔からこんな感じなのね……
「本当にすごいですね。まあ、ヘイゼルとも一緒になるでしょう。時期は未定ですがね」
「うむ……それについてもフィリアが納得しているのなら構わん」
とりあえず、反対はなさそうだ。
良かった……
「話は変わりますが、教会の動きで不審な点はありますか?」
「特にない。教会も異世界人がこの町に来ているということは把握しておったし、私に調査しろとの指令もきていた。その辺は私が誤魔化しておいたから安心しろ。いや、本当にあっさりだったな。教会も裏取りをしていたようだが、この町では、貴様は詐欺師としての認識が強いからな」
あんまり嬉しくねーな。
町の人間は俺のことを完全に詐欺師って思ってるってことだ。
「そうですか……まあ、問題がないなら構いません。それともう1つ、お話をしないといけないことがあります」
「1つか? 少なくとも、私は2つほど怪しんでいることがあるけどな」
2つか……
「聞いてもいいですか? どれでしょう?」
「貴様らは何をしている? フィリアの部屋に籠ったと思ったらすぐに気配が消えたぞ」
気配って……
バケモンか、お前は?
「腰に効く湿布を用意すると言ったでしょう?」
「チッ! やはりそういうことか!」
じいさんがいやーな顔をする。
「どうやら予想をしていたようで?」
「その前にもう1つ聞かせろ」
「何でしょう?」
「貴様の両親だ」
ほう……
「存命ですよ。結納でもしますか?」
「何だ、それ?」
「えーっと、嫁をもらう時に男親が女親に金を渡すのかな……? すみません、自分も詳しくはなかったです」
余計なことを言うんじゃなかった……
こういう時に一般常識がないとダメだね。
「ああ、そういうやつか……あるところにはあるが、エーデルにはない風習だな。この国は冒険者の国だし、親がおらん場合が多い」
まあ、日本でも最近はやらないことが多いのかな……?
「まあ、その前に親に報告してからなんですけどね」
「報告しとらんのか?」
「留守なんですよ。だからフィリアとの結婚やらなんやらを今すぐにというわけにはいかないのです」
「なるほど……」
じいさんはふむふむと頷く。
「私の両親でしたね? 何を聞きたいんです? まあ、名前を聞けば、すべて納得されると思いますよ?」
「名は?」
「父はリュウジで母はソフィアですね」
「ふぅー……やはり異世界に逃げておったか……」
じいさんは大きく息を吐くと、ボソッとつぶやいた。
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