第080話 しゃーない
俺とヘイゼルは疲れ切った身体に鞭を打ち、町まで歩いていった。
そして、解散し、各自の寝床に帰る。
宿屋に着くと、サラに飴玉をあげ、頭を撫でさせてもらった。
すぐにやってきたリリーにも飴玉をやると、部屋に行き、泥のように眠る。
目を覚ました時はすでに20時を回っていた。
何時に宿屋に戻ったかは覚えていないが、12時間以上は眠っていたと思う。
ちょっと頭が重いなと思いつつ、1階に下り、晩御飯の肉セットを食べると、再び、部屋に戻った。
「……どうしよ。全然、眠くないし、今日はもう寝られんわ」
前日のように人を殺したから眠れないということではない。
今日だって、あの兵士を銃で撃ったし、ヘイゼルが魔法で焼却処分をしていたところを見ていた。
だが、心には何も感じることはなかった。
「ホントに1日で何も思わなくなった……いや、昨日のヘイゼルのおかげか」
人は自分のために人を殺せなくても、人のために人を殺せる。
それが自分の身内ならなおさらだろう。
「でも、眠れんな……」
理由は簡単。
12時間も寝たから。
「こっちの世界はマジでやることがない……ヘイゼルの家でも行こうかな……」
ヘイゼルも同じように家に帰ったら寝ただろうし、もしかしたら同じように寝れずに悩んでいるかもしれない。
ヘイゼルの家には酒もあるし、飲みながら話をすれば、そのうち眠れるだろう。
あと、またサービスをしてくれるかも……
「行くか……」
1階に下りると、宿屋を出る。
そして、薄暗い町中を歩き、ヘイゼルの家に向かう。
夜の町は所々にかがり火が焚かれ、飲み屋もどことなく明るい。
冒険者や娼婦か飲み屋のねーちゃんらしき女性がちらほらいる西区を抜けると、北にある商業区に入った。
商業区はその名の通り、店が並んでいる区域であるため、夜はほとんどやっていない。
以前、ヘイゼルが静かで良いと言っていた通り、宿屋や酒場が集まる西区のうるささもなく、静かだ。
まっすぐヘイゼルの家に着くと、玄関の扉をノックする。
『はーい?』
中からヘイゼルの声がする。
どうやら起きていたようだ。
「ヘイゼルー? 今、大丈夫か?」
「リヒト? ちょっと待ってね!」
ヘイゼルの声がして、ちょっとすると、扉が開き、ヘイゼルが顔を覗かせる。
「よう」
「あんた、こんな時間にどうしたのよ?」
「さっき起きたんだけど、もう眠れん。酒をくれ」
「あー……あんたもか……まあ、上がってよ」
ヘイゼルに招かれて家に入る。
すると、リビングには金髪の女がテーブルにつき、缶酎ハイを飲んでいた。
「リヒトさん、こんばんはー。酒場ヘイゼル亭へようこそー。お客さんは初めて? まあ、座ってよ。良い子をつけるからさ」
フィリアが笑いながら手招きをしている。
もう酔ってるっぽい。
「ぼったくり臭いなー」
そう言いながらもフィリアの隣に座る。
家主であるヘイゼルは俺の分の酒を持ってくると、俺とフィリアの対面に座った。
「はい」
ヘイゼルは魔法で冷やしてくれた酒を渡してくれる。
「ありがと。お前はいつからいるん?」
ヘイゼルにお礼を言うと、隣のフィリアに聞く。
何故なら、テーブルの上には空き缶が6本も置いてあるからだ。
「えーっと、2時間前かな」
「寝てたのに起こされたわ……」
それはご愁傷様。
「ヘイゼルさんに聞いたけど、大変だったみたいだねー」
「マジでな……宿屋に戻ったら速攻で寝たわ。それでさっき起きたんだけど、さすがにもう眠れない。こっちの世界は夜にやることねーし、飲みにきた」
そう言って、酎ハイを開け、飲み始める。
冷えた酎ハイは一昨日飲んだ時よりも美味かった。
「私も速攻で寝た。今日はもう眠れそうにないわ……」
ヘイゼルも俺と同じらしい。
「じゃあ、飲もー、飲もー。こっちで3人で飲むのは初めてじゃん」
「そうね。仕事が終わったら3人で飲む予定だったし」
「ここは良い店だな。可愛くて良い子を2人もつけてもらったわー」
「優良店ですから」
俺達はなんとなく乾杯をし、再び、飲みだした。
「フィリア、砂糖はどうなった?」
「それね。昨日、オリバーさんと話がついた。5キロで金貨600枚に決まったよ」
金貨600枚……?
あっちのお金換算で600万円?
さらに金貨を売れば、6000万円ですか?
「マジ? あれ、2000円だぞ? 何倍になったんだ?」
「ホント、すごいよね!」
「あっちの世界のものってすごいのねー」
ヘイゼルも感心している。
「マジですごいわ……語彙力が低下するくらいにすごいわ」
うん、すごい。
本当にすごい。
「でも、砂糖はここで打ち切りね。外にまで噂が漏れてるらしい」
「外?」
「商人の繋がりなのか、他所の町からも砂糖を買いにきてる。これ以上はトラブルになると思うし、オリバーさんも黙っていない」
うーん、トラブルは嫌だなー。
実際に売ってるのはフィリアだし、これ以上はやめた方がいいだろう。
「まあ、最初に5キロまでって言ってたしな。砂糖はもうやめよう」
「だねー。また、お金を受け取る時についてきてよ」
「りょーかい」
しかし、金貨600枚かー。
1割である金貨60枚はフィリアのものとして、残りの金貨540枚も何に使おうかな。
「一気に金持ちになったなー」
「散財はやめてね」
ヘイゼルが釘を刺してくる。
「しねーよ。俺は金を貯めるの!」
何に使おうか悩んでたけど。
「良いことだよ。それにしても、そろそろ氷も売るとして、次は何を売ろうかなー?」
フィリアの金儲けは終わらないらしい。
俺とヘイゼルは目が金貨になっているフィリアに苦笑し、酒缶に口をつけた。
「そういえば、そのネックレスの反応はどうだった?」
ヘイゼルがニヤニヤしながらフィリアに聞く。
「皆、祝福してくれたよー! あ、おじいちゃんがリヒトさんに話があるから来いってさ」
だよねー……
ここまでが第2章となります。
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