第077話 マジか
ヘイゼルに慰めてもらった翌日は朝からリビングでゆっくり過ごしていた。
食事を買いに出かけたくらいであとはソファーに座りながら2人で他愛のない話をしていた。
昼になってもそれは変わらず、ただただ体と精神を休めた。
そして、夕方になると、夕食を食べ、風呂に入り、準備と最終確認をする。
「向こうに着いたらまずは周囲の確認だ」
「わかった。もし、見張りがいるなら絶対にかがり火かなんかの火を焚いていると思う」
その場合はすぐにわかるな。
「だな。その時はこのサイレンサー付きの銃で確実に見張りを始末する。もし、それで他の奴に気付かれたら水魔法で火を消してくれ、向こうは闇で見えないが、こっちは暗視ゴーグルで見える」
「了解」
俺達は準備を終え、向こうでの服に着替え終えている。
体力も気力も回復し、身体の状態はいい。
昨日もぐっすり眠れたし、今日だって、ずっと身体を休めてた。
あとは暗視ゴーグルが付いたヘルメットを被り、アプリを起動させるだけだ。
時計を見ると、9時55分。
作戦開始5分前だ。
「最後かもしれないからキスでもしとくか?」
「だーかーらー、先にフィリアにしなさいっての。というか、縁起悪くない?」
向こうにもフラグってあるんかね?
ちょっと考えたが、ヘイゼルに近づき、抱きついた。
「これはフィリアにもした」
「やることやってんのね」
ヘイゼルも俺の背中に手を回す。
「帰って、フィリアを呼んで、お前の家で飲もう」
「そうね。大変だったねーって笑いましょ。でも、昨日のことは言っちゃダメよ」
「わかってる」
言えるか……
ほぼアウト寄りのセーフ(アウト)やんけ。
「時間だ。行くか……」
時計で時間を確認すると、ヘルメットを被る。
「これ、すごいんだけど、ダサいわよね」
ヘイゼルもヘルメットを被った。
黒ローブに長い髪。
いつものヘイゼルだが、三角帽子ではなく、暗視ゴーグル付きのヘルメットだ。
はっきり言って、ものすごく似合わない。
「機能性重視だよ。俺だって似合ってねーだろ」
「うん。ダサすぎ」
はっきり言うな。
「ヘイゼル」
「ん」
名前だけでヘイゼルを呼ぶと、ヘイゼルがくっついてくる。
そして、スマホを掲げ、アプリを起動させた。
このぐるぐる画面を見るのが最後になりませんようにと祈りながらスマホ画面を注視した。
やっぱ、このぐるぐるは気持ち悪いなー。
気が付くと、外の風を感じた。
だが、何も見えない。
すぐに転移先だと判断し、暗視ゴーグルを装着した。
暗視ゴーグルは昼間のようにはっきり見えるわけではないが、周囲の状況を把握するには十分なものだった。
隣でヘイゼルが同じ行動をしたのを確認すると、伏せたまま、小屋の裏から覗く。
どうやら見張りはいないようでかがり火もなかった。
すでに撤退してくれたらラッキーと思い、そーっと小屋の前に回り、小窓から小屋の中を覗くと、何人かの人間が寝ていた。
チッ!
まーだ、いやがる。
図太い奴らだ。
声を発せずに事前に決めておいたハンドサインで小屋に人がいることをヘイゼルに伝える。
ヘイゼルも了解のサインを出した。
俺達がここに来る前に決めておいたことはなるべく声は発しないこと、常にお互いの位置と姿を確認することだ。
声を発しないのは向こうは見えないが、こっちは見えるというアドバンテージを活かすためのものであり、お互いの位置を確認するのは向こうの魔道具対策である。
中に人がいる場合はそーっとここを離れることに決めていたため、ゆっくりと歩いて、来た道を引き返していく。
そして、小屋から少し、距離を取ると、ヘイゼルが俺の肩を叩いてきた。
「……どうした?」
予定にない行動だったため、小声を出して聞く。
「……馬車がない」
ヘイゼルにそう言われて、俺達が転移した小屋裏に馬車がないことに気付いた。
「……移動したか?」
そう聞くと、ヘイゼルが地面を指差した。
暗視ゴーグルをつけたままでわかりにくいが、昨日見た車輪の跡が増えている気がする。
「……この先じゃないかな?」
「……多分、俺らが通ってきた道を警戒してるんだと思う。だが、火がない」
見張りならかがり火でも焚火でもするだろう。
だが、それがないところを見ると、夜は来ないと踏んで休んでいるということだ。
「……夜に大森林に行く奴はいないからそうだと思う。でも、あの道を通れば気付かれる」
俺らが通ってきた道は草の音が出るだろう。
そうなったら寝てるかもしれないが、起きる可能性が高い。
「……やるぞ」
そう言うと、ヘイゼルが頷いたのでそのままゆっくり歩いていくと、例の開けた場所が見えてくる。
そして、そこには予想通り、馬車が止まっていた。
俺達はさらにそーっと近づくが、馬車は見えるものの、周囲に人はいない。
「……どうする?」
ヘイゼルが小声で聞いてくる。
「……俺の銃は音が出ないが、小型だ。屈強な兵士は即死しないかもしれん。お前の精霊魔法で焼ききれ」
これは事前に決めておいたことだ。
俺の火力では即死できない可能性が高い。
だが、ヘイゼルの魔法は音もあまり出ないし、高火力なため、まず瞬殺できる。
問題は光だが、小屋からはそこそこ離れているし、寝ているから大丈夫……だと思いたい。
一応、そのために4時に行動をしているのだ。
「……わかった」
「……魔法を放ったら一気に走るぞ。お前が先頭だ」
これも決めておいたこと。
ヘイゼルの方が足が遅いので先に走らす。
「……ええ。行くわよ」
俺達はそーっと馬車に近づくと、立ち上がった。
そして、ヘイゼルが杖を構えると、杖の先が光りだし、炎が現れる。
炎はあっという間に馬車に当たり、すべてを焼却した。
繋がれている馬さんには悪いと思ったが、すぐにその場を離れ、来た道を走っていく。
――ピイィー!!
俺とヘイゼルが道に入った瞬間、後ろの炎の中から笛のような高い音が響いた。
だが、その音はすぐに消える。
「警告の笛!? 生きてるの!?」
何て練度だ!
絶対に盗賊じゃない!
「死ぬ間際に使ったんだ! 行け! 止まるな!」
俺達はヘイゼルを先頭に走り出した。
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