第076話 セーフかアウトかは議論の余地があるが、俺の中ではセーフ(最低)
やーさんから色々ともらったあと、家に帰った俺はヘイゼルと一緒にファミレスに向かう。
そこで昼食を食べ、帰りに晩御飯用の弁当を買って、家に帰った。
そして、玄関の横に置いてある宅配ボックスから紙袋を回収すると、家に入り、ソファーでくつろぎ始める。
「あんたんとこのご飯は本当に美味しいわー」
先ほどオムドリアとかいう俺も食べたことがないものを食べていたヘイゼルはご機嫌そうだ。
喜んでくれるのは嬉しいし、可愛いとは思うが、ドリンクバーで遊ぶのはやめてほしかった。
なーにが、『私は錬金術も得意なの!』だよ!
コーヒーを混ぜた時点ですべてが終わりだっつーの。
「良かったなー」
ヘイゼルに返事をしつつ、やーさんからもらった2つの紙袋を開ける。
中にはヘルメット付き暗視ゴーグルが2つとサイレンサー付きのハンドガン、そして、スタンガンが2つ入っていた。
「何それ?」
絶対に見たことがないであろうヘイゼルが聞いてくる。
「まず、これは暗視ゴーグル。夜だろうが見えるようになる」
「明るくなるの?」
「いや、このレンズを通すと見えるようになる。夜になったら試そう」
「全然わかんないけど、わかった」
俺も原理は知らん。
「これは銃だな」
「あんたが持ってるやつ?」
「そうそう。ただ、これは音がしない。この筒が音を殺すんだ」
これも原理は知らん。
「あー、さっきは響いたもんねー」
最初からサイレンサー付きだったらそのまま逃げ切れたかもしれん。
銃を最初にもらった当初はそこまで頭が回らなかった。
「それでこれはお前の武器だ」
2つあるうちの1つのスタンガンをヘイゼルに渡す。
「何これ?」
「これはスタンガンという護身用の武器だ。魔法に雷魔法ってあるか?」
「あー、あるわね。超上級魔法」
雷は強いらしい。
まあ、水を出したり火を出したりするよりは強そうだからなー。
「これはその雷みたいなものを出すんだ」
そう言って、持っているスタンガンのスイッチを押した。
すると、先端からバチバチと音を出しながら電気が走る。
「うわー……すごい魔道具ねー」
ヘイゼルが感心しているが、魔法ではなく、科学だ。
まあ、俺も詳しくは知らんから魔法と変わらないけど。
「お前は杖を奪われ、口を塞がれることが弱点だ。敵もそれを狙う。その時にこれを使え。多分、相手は気絶する」
「そんなに威力があるんだ……あんたに押し倒された時にこれがあったら使ってたわ」
今は押し倒しても使わないよね?
「最初から出すなよ。敵に奪われて、自分に使われたら最悪だからな」
「自分が無力化することになるのね……わかった。収納魔法に入れて、拘束されたら使うわ」
それでいい。
これは保険だ。
ヘイゼルは普通に対峙すれば、強力な魔法が使えるし、まず負けない。
「準備はこんなもんかな」
「色々あるもんねー。一気に移動できるものはないの?」
「自転車かバイクか……あるにはあるが、どっちみち、森では無理だ。せめて、平原や街道ならなー」
まあ、免許を持ってないからチャリ一択だけど。
「逃げるのは足ね……」
次は24時間の制約上、こっちに帰ることはできない。
遭遇したら即、戦闘だ。
「最初はゆっくりとその場を離れて、来た道を引き返そう。明るくなってきたらダッシュだ」
「そうしましょう」
俺達は作戦を決めると、その日はゆっくりと身体を休めた。
夜になると、買ってきた弁当を食べ、酒は飲まなかったが、2人で話をし、早めに就寝した。
ヘイゼルは俺の部屋で寝て、俺は両親のベッドで横になっている。
だが、布団に入って1時間は経つが、一向に寝ることができなかった。
「チッ! ダメだ。眠れない……」
思わず上半身を起こし、頭に手を置く。
ヘイゼルと一緒にいた時は何ともなかった。
だが、1人になると、急にあのクズを殺した時を思い出してしまう。
「今日は眠れないかなー……」
とはいえ、さすがに寝た方が良いのはわかる。
明日の出発は22時のため、時間は十分にあるのだが、肉体的にも精神的にも疲れている今の状態では寝た方が良い。
「飲むか……」
このままでは眠れそうにないので、1階のリビングに下り、冷蔵庫から酒を取り出した。
そして、その場で一気飲みした。
微炭酸とはいえ、アルコールの入った炭酸飲料を一気するのはキツかったが、今はその辛さが逆に良かった。
さらにもう1つの缶を取り出し、ソファーに向かう。
ソファーに腰かけると、缶のプルタブを開け、2缶目の酒を飲み始めた。
「ゴブリンと人間は違うなー……」
ゴブリンを殺した時も思うことはあったが、今ほどではない。
やはり人間はキツい。
あんな奴、死んでもいいと思うし、たとえ、時間が戻ったとしても殺す。
ヘイゼルに手を出した時点でそれは決まっているし、後悔はない。
「占いに出た不幸はこれか……」
人を殺すこと。
あっちの世界で生きていくのならば、またあるかもしれない。
その時に今、殺しておいて良かったと思うのかもしれない。
あのクズはヘイゼルに手を出したから悩むことなく殺せた。
だが、もし、俺に敵意を向けられたとして、引き金を引けたかはわからない。
「こういう時はどうすんだろ……」
西の門番にゴブリンを初めて殺した時に言われたのは酒か女だ。
酒は飲んでいる。
あとは……
「ヘイゼルを襲うか……?」
「ダメって言ったじゃん」
声がした後ろをゆっくりと振り向く。
そこには髪をあげ、パジャマを着た黒髪の魔女が立っていた。
「寝てろよ。夜這いに行けない」
「ダメだっつーの」
ヘイゼルは笑いながらそう言うと、俺をまたいで定位置である左隣に座った。
「お前と話してると、忘れられるわ」
半笑いでお酒を飲む。
「人といるのは良いことよ」
ホントだわ。
「お前、人を殺したことはあるか?」
「あるわよ。たまに襲われるからね。全部返り討ちにした」
燃やしまくったのかな?
「思うことはないん?」
「最初はあったけど、最初だけ。今は女の敵は積極的にぶち殺すわ」
勇ましいねー。
「眠れん」
「わかるわかる。皆、そうだよ。でも、安心して、明日には普通に眠れる」
明日は夜にあっちに転移するから寝られんがな。
「そうなん?」
「弱い人は引きずるけど、あんたは余裕でしょ。普通にゴブリンの腹を掻っ捌いてたし」
「普通ではない。嫌々だよ。ガラ悪マッチョがやれってうるせーもん」
「冒険者じゃない人はそれができないのよ」
まあ、できない人もいるだろうね。
「これが明日には治るのかねー」
「そういうもん」
そっかー。
でも、今は人のぬくもりがほしいわ。
最悪、母親でも父親でもいい。
「ヘイゼル、こっちにおいで」
ヘイゼルに手招きし、もうちょっと近くに来るように呼ぶ。
「だーかーら、ダメだっての」
ヘイゼルは腕でバツ印を作った。
「なんで? フィリア?」
「そう。あんた、私とフィリアの両方をもらいたいなら順番を守りなさい。絶対にフィリアより先に私に手を出したらダメ」
順番……
「さっきも言ってたな。何か理由があるん?」
「あんたが先にいい感じになったのはフィリアでしょ。それなのにあとから来た私が先に関係を進めたらフィリアがいい顔をするわけないじゃん。ブチギレ案件よ。私もあんたも生涯、ネチネチ言われ続けるわ。女はそういうもん」
泥棒猫かね?
いや、ちょっと違うか……
でもまあ、確かに散々、保留にしておいて、それはマズいわな……
「わかった。まあ、酒で寝落ちするか……」
酒を片手に天井を見た。
強いのを買えば良かったな……
「…………しょうがないわねー。絶対に最後まではやんないけど、サービスぐらいならしてあげるわ。でも、ここまでさせて結婚詐欺したらマジで殺すからね。あと、フィリアには絶対に内緒よ」
ヘイゼルはそう言って、俺が手に持っている缶を奪い、一気飲みした。
さっきと言ってることが違うじゃんとか、いいのかなと思ったが、女はそういうもんらしい。
ってか、占いの依頼を受けると不幸になるけど、やっておいて良かったと思うってこれじゃないよね?
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