第075話 そんなに引くなよ
「俺とお前の距離はそんなだったろ? あんなに音を消せるもんか?」
それにしてはあのクズが達人にも見えなかった。
「それなんだけどね……多分、魔道具よ」
「魔道具? あいつも俺の銃を見て、そんなことを言ってたな」
「魔法要素が詰まった道具と思ってくれればいいわ。魔石とかそういうのを使って作るの」
「まあ、なんとなくわかる」
不思議グッズね。
「……ねえ、あいつ、盗賊に見えた?」
「それっぽかったが、正直、違うと思う」
「だよね。あれは兵士よ」
ヘイゼルが断言した。
「なんでそう思うん?」
「あの魔道具は高いのよ。盗賊が持っていいようなものじゃない。それに対応が早すぎる。あんたの銃声を聞いて、笛を鳴らすってやってることが正規兵の練度よ」
「やっぱそうか。俺も盗賊が金属の全身鎧なんて着るかなーって思ってた」
イメージだが、盗賊はもっとボロっちいと思う。
「正規兵があんなところで何をしてるかな……」
「訓練ではないだろうな。あれがどこの所属かわかるか?」
「さすがにわかんない。うーん、戦争って感じでもなかったわよね?」
戦争だったらもっと人の気配があっただろうし、少なくても数百人規模だろう。
「だな。他国の兵士なら偵察とかじゃね?」
「かなー? まあ、考えてもわかんないし、ギルマスに投げるのが一番ね……」
確かにそこのあたりは冒険者である俺らの領分ではない。
こういうのは領主様だろう。
「そうしよう。問題はどうやって町まで帰るかだな」
「転移先は選べないのよね?」
「転移した位置だな。だからあの小屋の裏に転移する」
小屋の中じゃないだけマシかもしれん。
もし、あいつらがあそこで寝泊まりしてたら転移してすぐに見つかる可能性が非常に高い。
「ちょっと危険ね……いつ戻る?」
「日が出る前。4時くらいが一番安全だな。人間はそこが一番油断する」
眠いし、たとえ、見張りがいても日が出る前なら気付かれにくい。
「当分、ここに残る選択肢もあるわよ?」
「どれだけ待つかだな……ずっとフィリアを待たすか?」
「どこまで待てば安全なのかわかんないもんねー……」
下策だろうな。
「うーん、やはり明日の22時に転移する」
そうすれば、向こうは朝の4時だ。
「明日? いくらなんでも早くない? せめて1週間程度は時間をおいた方が良いと思うけど……」
それも一理あるが……
「正規兵なら俺らに見つかった時点で移動する可能性がある。その場合は早い方がいいし、逆に時間が経てば戻ってくるかもしれん。もし、何も考えてないバカなら寝てる」
どんな可能性でも絶対はないが、可能性が低い方が良い。
「なるほど。じゃあ、それまでに準備ね」
「お前は残れ」
「嫌。あんた1人でどうすんのよ?」
「俺は死ぬだけで済むが、お前はひどい目に遭うぞ」
正規兵かもしれんが、規律なんかなさそうだ。
「私1人がここに残されてもどうしようないわよ。2人で生き残る方に賭けましょう」
うーん……
「マジでロクな目に遭わんぞ? ただ犯されるだけなら良い方だ」
「先に死ぬのはあんたよ。その時点で自害するわ。そういう魔法もあるの」
怖い魔法だな……
でも、肉体的に弱いヘイゼルには必要なのか……
「2人で転移し、こっそり森を脱出し、街道まで行くか……そこまで行けば、誰かがいる可能性もある」
「ギルマスが援軍を送ってくれるって話もあるし、それが良いと思う」
援軍……期待できるかねー……
「ちょっと出てくるわ」
とある人間にメッセージを送り、ソファーに座っているヘイゼルに告げる。
「出かけるの? 私は留守番?」
「すぐ戻ってくるし、帰ったら飯を買いにいこう。何だったら外食でもいい」
時刻は昼を回っている。
あっちの世界で言えば、すでに晩飯時である。
「わかった」
「好きにしていいけど、飲みすぎるなよ」
「さすがに飲む気分じゃないわ」
だよねー……
ヘイゼルに留守を頼み、家を出る。
そして、約束の人と会うために近所にある以前にも行った喫茶店に向かった。
喫茶店は結構、流行っていると聞いたことがあるが、お客が一人しかいない。
というか、俺が行くと、いつもこの客しかいない。
「先生、こっちです」
「どうも」
その一人の客が呼ぶので同じテーブルにつく。
いつものアイスティーを店員に頼むと、すぐに持ってきてくれた。
そして、奥に消えていく。
この喫茶店には俺と対面に座るスーツの男しかいない。
これもいつもの感じだ。
「先生、この前は世話になりました。おかげさまで無事に乗り越えましたよ」
男は俺を先生と呼び、頭を下げた。
前に会った時に警察のガサ入れを占ってやったのだ。
「そりゃ良かった」
「親父も感謝してましたぜ」
「当分は平和だから安心して」
こいつらに不穏な影は見えない。
「マジですか? いやー、それは嬉しい。で、本題ですが、先生に言われたものを持ってきましたよ」
スーツの男が持ってきた袋を受け取る。
「こんなもんを何に使うんです? 先生は堅気なんだから変なことをしない方がいいですよ?」
「わかってるよー。護身用、護身用」
身を守るためのものであるし、嘘はついていない。
「暗視ゴーグルが護身用ですか? しかも、サイレンサーって……暗殺でもするようにしか見えませんよ」
「しないよー。その時はお前らに依頼するわ」
「いいですけど、いくら先生でも金を取りますよ?」
わーお。
冗談だったのにマジでやるんかい。
やーさんは怖いわー。
「一生頼まねーよ。それよか、ちょっと相談があるんだけど、聞いてくれる?」
「何すか? 先生に相談されて答えられるようなことはないと思うんですけど?」
そんなことはない。
「銃の話なんだけど、ハンドガンって弱くね?」
「まあ、そうでしょうよー」
スーツの男は普通に肯定した。
「強いのってない?」
「そりゃありますよ。強いのが欲しいんですか? やめた方がいいですよ。それこそライフルなんかあっても先生には使えませんし、それでも訓練すれば何となるかもしれませんが、さすがにそこまでやると先生のお母さんに呪われそうですわ」
ママン?
「あれになんか言われてる?」
「先生に引き継ぐ際に危険な目に遭わせるなって釘を刺されてます。あの人、平気で呪ってくるから怖いし、そもそも先生らはウチの組とは関係ない堅気なんで巻き込む気はないですよ」
いや、やーさんの仕事を引き継ぐ時点で危険だろ。
というか、平気で呪うな。
「ダメかー」
「まーじで何をしてるんですか? 危険な目に遭ってんなら護衛をつけましょうか?」
「お前らの護衛の方が怖いわ」
ウチにはフィリアとヘイゼルがいるんだぞ。
「でしょうねー」
武器は厳しいかなー。
「うーん……」
「あ、でも、護身用っていうなら良いもんがありますよ」
「何?」
「スタンガンです。ちょーっとだけ強力なやつです」
ちょーっとだけらしい。
「どんなもんなん?」
「まあ、大人は気絶ですね。心臓が弱い奴ならぽっくり逝っちゃうかも」
「ほうほう!」
これはヘイゼルには良いかもしれない。
魔法使いは杖を奪い、口を塞げば終わりって話だが、逆に言うと、敵はそれを狙ってくる。
ヘイゼルの容姿から考えて、敵が男ならヘイゼルを殺さずに拘束しようとするだろう。
そこが狙い目だ。
「いくら?」
「金はいらねーですよ。ちょっと取りに行かせますわ」
「あ、2つね。ウチの宅配ボックスの中にでも入れておいて。俺、これから帰って、女と飯食いに行くから」
羨ましいだろ?
「了解。女とですかー。良いですねー。先生は若いし、こんなところでわるーい大人と会うより、女とイチャコラしてください」
「実はな、俺、結婚するかもしれん」
「デキちゃった?」
まだ手すら付けてないね。
「いや。でも、もう引き返せないところまで来てる気がする」
占わなくてもわかる。
「おめです。晩婚の最近で考えれば、ちょっと早いかもしれませんが、結婚は若い方が良いって言いますよ」
「しかも、2人」
「………………」
さすがのやーさんも閉口した。
「もっと言えば、18と19」
「……お母さんには?」
「まだ言ってない」
「すんません、先生。俺、帰ります……俺は何も聞いてませんから」
スーツのやーさんは伝票を持って、そそくさと店を出ていった。
お読み頂き、ありがとうございます。
この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると執筆の励みになります。
よろしくお願いします!




