第071話 好きなんだ
「離縁も言い出せずに国外に逃亡か?」
「かなーっと」
うーん……
「それなら街道を探しても意味ねーだろ」
「他も探してほしいが、範囲を外国に広げると依頼料が10倍以上になる。それを嫌がったんだろうよ」
ガラ悪マッチョもぶっちゃけ始めた。
「街道のみを調査し、何かが出たら良し、出なかったら調査不足を言い出して、いちゃもんか?」
「さすがにそれはギルドが認めん。でも、依頼主はこの町の人間だし、トラブル臭がすごいから他の冒険者はスルーしてる。いくら野蛮な冒険者でもこの町に住んでることは変わりないし、いらんトラブルは避ける」
金貨15枚では割に合わんな……
「他の依頼はねーの?」
「泊まりでいいならいっぱいあるぞ」
嫌だわー。
採取の仕事をするかな……
「リヒト、あんたが占ってみれば? 馬車がこの辺にあるなら受ければいいし、ないならスルー」
なるほど。
やってみるか……
「エロイムエッサイムー」
「意味ない詠唱のやつね」
うるせー。
雰囲気が大事なの!
「えーっと、商人はわかんないけど、馬車はあるな……」
今回は結構、見えた。
「奥さんから逃げたわけじゃなさそうね……事故か、モンスターか、盗賊か……」
モンスターと盗賊は嫌だなー。
「どうする?」
「ウルフやゴブリンに襲われたのなら問題ないわ。盗賊は……さすがに兵士が調査したあとだし、この辺りにはいないか……というか、この依頼自体を占ってみてよ」
「今、占った。結果は微妙……」
うーん……どうしよ?
「微妙? どんなの?」
「依頼はわからんが、南の街道に行くと、不幸になると出ている。だが、最終的には良くなる」
「ん? どっちよ?」
ヘイゼルが俺の曖昧な占い結果を聞いて、首を傾げる。
「いやね、こういう占い結果はよく出るんだよ。失敗しても後々の為になるってことってあるじゃん。人は成長する生き物だからさ」
愚者は経験に学び、賢者は歴史で学ぶってやつだ。
愚者でも経験すれば学べるのだから経験はとても大事。
「この依頼は失敗するかもしれないけど、最終的には成長できて、やっておいて良かったってこと?」
「そうそう。今回の失敗が教訓になるってやつ。他にも怪我の功名とかそういうのもある」
怪我はするけど、それ以上の報酬や物を得られる。
怪我をしたことで想い人と良い感じになれるはずのアンナとかがそう。
「うーん、確かに微妙ね……」
「経験談だが、こういうのはやらなくても特に問題ないが、やると、ほぼやっておいて良かったって思えるもんだ」
今までの人生でこういう占い結果は本当によくあった。
やるかやらないかは半々だったが、やった場合はやって良かったと思えるし、今でもそう思っている。
「年長者からアドバイスをすると、そういうのはやった方が良いぜ。危険を避けてばっかだと、成長をせんのは確かだし」
ガラ悪マッチョがとても良いことを言っている。
「それはわかってるんだけど、不幸になるのが見えてると尻込むんだよ」
誰だって嫌だろう。
「そうよねー。別にこれじゃなくても採取すればいいし」
そうそう。
「別に命の危険はなさそうだし、受けたらどうだ? 半日経って帰ってこなかったら援軍を送ってやるよ」
ギルマスが言うんなら本当に援軍は送ってくれるんだろうな。
「まあ、馬車を探すだけだしなー」
「やる? 私はいいけど」
「そうするかー」
あんま気乗りはしないけど、やった方が良いのは確かだし……
「じゃあ、やってくれ。明日でいいぞー」
「わかった」
俺達は結局、依頼を受けることにして、ギルドを出た。
「ねえ、あんたの未来視で詳細とかはわかんないの?」
ギルドを出ると、ヘイゼルが聞いてくる。
「よほどのことだったらわかるけどなー。それこそ災害とか」
だから微妙なんだ。
「なるほど……まあ、失敗しても仕方がない気持ちで挑みましょう」
「だなー。じゃあ、明日の朝に迎えに行くわ」
「明日は南門でしょ? 逆に私があんたの宿屋に迎えに行くわ。目覚まし時計を買ったし」
いつの間に……
でも、時計の針が向こうの時間のままになっていて、寝坊するって出てるからやっぱり迎えにいこ。
こういうどうでもいいものはすぐにわかるんだけどねー。
翌朝、目が覚め、起きると、まっすぐ北区にあるヘイゼルの家に向かった。
ヘイゼルの家に着くと、やはりヘイゼルは寝ていた。
家に入れてもらい、薄着のヘイゼルを眺めながら椅子に座った。
そして、『なんで鳴らないの!?』と言いながら自室に着替えに戻ったヘイゼルを待つ。
しばらくすると、黒ローブに着替えたヘイゼルが菓子パンを持って戻ってきた。
「おかしいわねー。あの時計、壊れてない?」
「大体6時間くらいの時差があるからこっちの朝は向こうの夜中だぞ。お前が何時にセットしたかは知らんが、多分、7時とかだろ。時計の針を調整するか、昼にセットしないと朝には鳴らないんじゃないかな?」
ネタばらし。
「そういえば、夜に鳴った気がする……誤作動かと思ってたけど、そういうことか」
その時点で気付けよ……
まあ、ヘイゼルはねぼすけだからなー。
「迎えに来て良かったわー」
「あんた、こうなることを知ってたでしょ」
ヘイゼルがジト目で見てくる。
「そんなことないよー」
「じゃあ、なんで迎えに来てんの? 私、宿屋で待ってなさいって言ったわよね?」
ヘイゼルちゃんが賢いよー……
「ヘイゼルの失態……顔を早く見たくてね」
あと薄着。
良いことがあるって占いに出てたもん。
「失態って言った! はっきりと言った!」
だって、お前の失態を見てると、笑顔になれるんだもん。
これが愛だよ。
「ヘイゼルは昨日の夜、パスタにしたん?」
「話を逸らすのド下手か! 食べたわよ!」
ヘイゼルは真面目なのでツッコみながらもちゃんと答えてくれる。
「失敗した?」
「してない。美味しかった」
「お前が幸せそうで嬉しいよ」
「……今、言わないでよ。ほら、行こう」
菓子パンを食べ終えたヘイゼルが立ち上がったので立ち上がり、一緒に家を出た。
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