第069話 両肘君「道は1つ」
大量に買った荷物を持ち、タクシーで帰宅した時にはすでに18時を回っていた。
それだけ買い物に時間をかけたのだ。
ヘイゼルが選ぶのが遅かったというのもあったが、フィリアはフィリアで時間をかけていた。
まあ、女が2人もいれば、買い物が長くなるということなのだろう。
夕食の時間なのでフィリアが料理を作り始める。
まあ、パスタなんだけどね。
あの子、留守番してた時も菓子パンとパスタと果物しか食べてないらしい。
よく飽きないわ。
俺とヘイゼルはフィリアの料理を待ちつつ、ソファーで座っていた。
ヘイゼルは今日買ってやったネックレスを手に取って、じーっと見ている。
フィリアの時にはシルバーのネックレスを買った。
ヘイゼルはゴールドだ。
違うのにした方が良いと思ったからだが、思いのほか、2人共、気に入ってくれている。
単純に嬉しいと思う。
「ねえ? これはそういう意味?」
ヘイゼルが顔を上げて聞いてくる。
「そういう意味」
「……そう」
ヘイゼルは再び、視線を下に落とし、ネックレスを見る。
「今日はどうだった?」
「人生で一番驚いたことがどんどん更新されていったわ。この世界はすごいわね。一番すごいのはそのスマホだっけ? 異世界に転移してくる人はそこそこいるけど、自由に移動できるって、どんな大魔法よ」
「だよなー……これについては俺もわからん。狙ったわけじゃないし、こんな魔法を俺も知らん」
チートを超えたチートだ。
ゲームで言えば、違うゲームに違うゲームのキャラを持っていくようなものだし。
「うーん、調べたいけど、下手に弄ると壊しそうだわ」
「壊れたら修理できなくなる可能性があるからな」
「それは困るわよね」
あっちの世界も好きだしなー。
「まあ、好きに移動できるってことで満足してくれ」
「そうね。でも、丸1日の充電期間が邪魔か……毎日お風呂は無理そう」
12時間なら昼は向こうで夜はこっちというサイクルも可能なのだが、24時間は無理だ。
「それはしゃーない。俺も半日だったら宿屋に泊まらずに帰ってきてる」
「そうよねー」
「できたよー」
俺とヘイゼルが話していると、フィリアが声をかけてくる。
食事用のテーブルの上にはパスタが置いてあった。
「用意してもらって悪いな」
「ありがと」
俺とヘイゼルはソファーから立ち上がり、食事用のテーブルに向かう。
「いいよー。これはそんなに難しくないからねー」
まあ、パスタを茹でて、ソースを絡めるだけだもんね。
それでもやってもらったのは確かだ。
「何これ?」
席に着いたヘイゼルがパスタを見て、フィリアに聞く。
なお、ヘイゼルとフィリアが並んで座り、俺がその対面に座っている配置だ。
「パスタ。小麦を麵にしたやつ。王都で売ってるやつと一緒かな?」
「あー、一時期、話題になったやつね。異世界の料理だったのか……王都で作った人はこの世界の人間かもね」
そうかもしれない。
パスタはどこにでもあるから日本人とは限らないが、こっちの世界の人間の可能性が高い。
接触は……どっちでもいいな。
「まあ、食べようぜ」
俺の分はたらこであり、フィリアがボロネーゼ、ヘイゼルがカルボナーラだ。
「いただきまーす」
「いただきます……」
フィリアは元気よく食べ始め、ヘイゼルは恐る恐る食べ始める。
「すごい……! これは美味しいわ!」
ヘイゼルが絶賛しながら食べるスピードを早めた。
「だよねー。私、こればっかを食べてるよ」
「お前、偏食すぎだろ。他のもんも食えよ」
「うーん、作りたいとは思ってるんだけど、キッチンにあった料理本を見てもさっぱりだった」
言葉がわかんないからな。
「だろうな」
「リヒトさんに翻訳してもらって、違う紙に書こうかな……」
とても良い考えだと思う!
俺が作ればいいんだろうけど、俺、やんないし。
ここはやる気のありそうなフィリアに任せよう。
「そうしよう!」
「わかったー。今度、紙でも買おうかな。こっちの紙の方が品質も良いし」
ノートでも買うかね。
「そうするか」
「まあ、今度かな。明日の朝にはさすがにあっちの世界に帰るし」
まあ、フィリアはこっちに3日もいるからなー。
「え!? 帰るの!?」
夢中でパスタを食べてたヘイゼルが顔を上げる。
居座る気だったらしい。
「まあ、仕事もあるし……砂糖の交渉もあるし」
「俺達だって、冒険者の仕事があるだろ」
「……まあ、そうだけど」
ヘイゼルは不満タラタラだ。
「次に帰る時はゆっくりしてもいいだろ。お前の家から転移すれば目立たないからな」
「だねー」
「ねえねえ、私に家を借りるように仕向けたのって、これ?」
ヘイゼルちゃん、賢い!
「それもある。でも、安くなったし、良かったじゃん」
「何故か釈然としないのよね。すごく騙された感がある」
ちょっとヘイゼルを騙すというか、からかいすぎたかもしれん。
軽い人間不信というか、俺不信になってる……
「まあまあ。お酒も持って帰ってもいいし、このパスタも持って帰っていいから」
「お酒はわかるけど、これも? 私、料理をしたことない」
「これはお湯で茹でて、混ぜるだけだからお前でもできるよ。ほぼお前と同じレベルの俺でもできるんだから」
俺もこれくらいしか作れない。
あとはコンビニ弁当かスーパーの惣菜で生きている。
「お湯ならすぐに用意できるし、やってみようかな……」
ヘイゼルは火魔法が得意って言ってたし、お湯を作るのは簡単なのかな?
そういえば、出してくれたお茶も温かった。
「あとで教えてあげるよー。ところで、ヘイゼルさんはどこで寝るの?」
フィリアが聞いてくる。
「うーん、ベッドはもうない。ウチは人を呼ばないし、客用の布団もない。お前ら、ウチの両親のベッドで寝る気はない?」
「嫌。恐れ多すぎ」
「私もソフィア様のベッドで寝るのは勘弁よ。私の両親が知ったら気絶しそう」
そう言うと思ったよ。
「じゃあ、俺のベッドで寝るの? 広めだけど、2人は狭くない?」
「女子2人ならいけるわよ。私らはそんなに大きくないし」
いや、2人とも大きいよ。
うん、大きい。
綺麗なネックレスだ。
「うん、我慢する」
うーん、今後のことを考えると、その辺もどうにかしないとなー。
というか、いつまで実家に住むかっていうのもある。
広いけど、ここ、両親が住む家だもん。
母親が帰ってきたらこいつらの精神がやばそう……
「金だな……どう考えても金がいる」
向こうの住まい、こっちの住まい。
この家に何度も転移させておいて、今さらこいつらに安アパートに住めって言ったら怒りそうだしな。
「お金は大事だよね」
「まあ、わかるけど。やっぱ明日、仕事をするべきか……」
フィリアとヘイゼルが俺の金発言に同意し、頷く。
「あ、明日の朝に転移しても向こうは昼だぞ」
「じゃあ、仕事は明後日かしら?」
「それで良いだろ。ガラ悪マッチョに依頼を聞きに行くだけで仕事は翌日かな」
「わかった。じゃあ、依頼を決めたら私は部屋の片付けをするかな……」
俺はどうしよう?
町の探索でもするか?
俺達は翌日の予定を決めると、晩御飯を食べ終え、3人で飲みながら話をし、就寝した。
翌日、コンビニで氷を買って、ヘイゼルに輸送をお願いしようと思ったが、すでにヘイゼルの収納魔法には私物がいっぱいだったので断念した。
仕方がないので朝食を食べると、準備をし、スマホのアプリを使ってあっちの世界に帰還した。
なお、帰還する時に右のフィリア、左のヘイゼルがそれぞれ抱きついてきたのが嬉しかった。
だが、それと同時にもう絶対に後戻りできないんだろうなと再認識した。
でも、俺の両肘君は後悔などないと言っていた。
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