第067話 そういうもん
俺は今、ぽつんと湯船に浸かっている。
すでに身体も髪も洗い終えたし、風呂に入り始めて、結構な時間が経っていた。
いつ風呂から出ればいいのかわからない。
今、リビングではフィリアがヘイゼルに何かの話をしていると思う。
「何だろうねー……」
思わず独り言が出るが、話の内容はだいたい予想がついている。
十中八九、ヘイゼルの気持ちの確認と今後についてだろう。
「俺、マジで重婚すんの……?」
ヤバくない?
ハーレムとは言わないけど、両手に華だ。
俺だって、女は好きだし、普通に性欲もある。
だが、結婚というのは今までの人生で一回も考えたことがない。
だが、もし結婚するならフィリアが良いとは思う。
ヘイゼルも欲しい。
非常にわがままで最低な発言だが、それが叶い、許されそうなところまで来ている。
「実は結論は出ている……というか、フィリアには言っちゃった」
フィリアとは結婚するだろう。
それがいつかはわからないが、そう遠くない。
フィリアは2年待つと言っていたが、そういうわけにもいかないのだ。
そして、フィリアより1歳上のヘイゼルも同様である。
あいつは結婚が嫌で家出してきたが、結婚自体が嫌なわけではないと言っていた。
多分、押せば首を縦に振りそうでもある。
「マジでねー。別にあいつらが嫌なわけじゃないし、むしろ好きだが、いきなりすぎるんだよ……」
あの世界、付き合う=結婚なのかね?
いや、あいつらが特別なのか……
修道女と貴族。
手を出すなら最後まで責任を取れってことだろう。
「占い、当たったなー」
俺が最初に向こうに転移した時、どっちの方向に行くかを占った。
その結果、南に行けば、女運に恵まれていると出た。
そして、縁があると出た2人に出会い、近づいた。
それを思えば、当然の結果と言えば、当然の結果だろう。
今後のあいつらとの関係を占う手もある。
だが、それをする気にはなれなかった。
幸せになれることはわかりきっていることなのだから。
「うーん……」
答えの出ない、というか、すでに出ている悩みを考え続ける。
「リヒトさーん?」
湯船で悩んでいると、すりガラスの向こうに影ができ、フィリアの声が聞こえてきた。
「なーに?」
「あ、良かった。いや、ちょっと長かったから様子を見に来た。ヘイゼルさんのこともあったし」
のぼせたのかと思ったのか?
「話は終わったか?」
「ごめん、今終わった。そして、ごめん」
何故に謝る!?
「どうしたん?」
「えーっと、とりあえず、上がったらリビングに来て。ごめんね」
めっちゃ謝ってくるし!
フィリアの影が消えると、すぐに風呂から上がり、脱衣所で身体を拭いて服を着る。
その後、ドライヤーで髪を乾かすと、そのままリビングに直行した。
そして、リビングのドアを開ける。
すると、リビングには頭を下げ、跪いている我が師匠がいた。
奥ではフィリアが家族写真を指差し、申し訳なさそうな顔をしている。
あー……母親のことをしゃべったのね……
「で、殿下におかれましては……そのー、あのー、大変、失礼な……ことを……」
ヘイゼルはパニクっているようで言葉がおかしい。
一応、サプライズの一つではあったが、ここまで動揺するとは思わなかったな。
「あのさ、ヘイゼル、俺、王族じゃないよ? ド庶民よ?」
跪いているヘイゼルに近づき、優しく声をかける。
「ソ、ソフィア様のご子息は庶民ではありません」
「そのソフィアが庶民なんだよ。あいつもクソ詐欺師だぞ」
インチキ霊媒師の名にふさわしい。
「ソフィア様は我が国が誇る巫女様であらせる、あらせら、あらせられるお人です」
呂律もまわってねーな。
酒か?
「3日で逃げた伝説のクズだろ」
フィリアのじいちゃんから聞いた。
「そのようなことは……」
あるんだな?
「ヘイゼル……我が親愛なる師よ。俺がたとえ、王族だったとしてもお前が我が師であり、俺がお前の弟子であることに違いはない。そして、俺とお前は苦楽を共にし、信頼する仲間だろう。そこに貴賤はない。貴族であるお前が庶民である俺の失言を許してくれたように俺もお前が俺の頭を杖で殴ろうと気にしない」
ヘイゼルの肩にそっと手を置いた。
ヘイゼルはそんな俺の手を握ると、顔を上げ、顔を見てくる。
「リヒト……あれは服を脱げとかほざいたあんたが悪い」
めっちゃ睨まれた。
奥にいる修道女も睨んでいる。
心なしか肩に封印したはずの蛇の頭が見える気がした。
仕方がないのでポケットに入れていた財布から金貨1枚を出し、そっと差し出す。
「だからお金はやめて!」
跪き、動揺していたヘイゼルは俺の機転で立ち直った。
なお、フィリアさんの俺に対する評価が下がった気がする。
ヘイゼルを起こし、ソファーに座らせると、その右隣に座った。
もちろん、フィリアは俺の右隣に座り、さっきと同じく、両手に華状態だ。
もし、この2人と一緒になれば、この配置が基本になるだろう。
それは占わなくてもわかる。
「どこまで話したん?」
おそらく、2人の話し合いではこの世界や俺の両親のことも話しているだろうと思い、フィリアに聞く。
「お義母様のことは話したし、この世界が私達からしたら異質なことも話した」
「なるほど。ヘイゼル、ウチの母親のことは気にするな……って言っても無理だろうけど、俺とあれを同一視するな。同じ詐欺師だが、俺は3日で男と逃げるようなボンクラではない」
「ボンクラ発言と詐欺師扱いは許容できないけど、わかった。あんたはあんた」
子は親のダメなところがよくわかるからなー。
逆も然りだけど。
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