第065話 いつもの人
「ちなみに、修道女は?」
「当然、同じくらいマズいね」
「でも、お前、来たじゃん」
「いや、そもそも私は説明されてない。ほぼ誘拐だったし」
そういえば、フィリアはサプライズのつもりでロクに説明もせずに連れてきたんだ。
マズかったのか……
「ぶっちゃけたことを聞いていい?」
「なーに? ヘイゼルさんを娶りたいならいいよ。多分そうなると思ってたし、あの人もその気でしょ。じゃなきゃ、リヒトさんを自分の家に招かないし、ここにも来ない」
まだ、何も言ってないんだけど…………
「いや、そうじゃなくて……いや、ある意味そうなんだけど……お前って、その辺を許容できんの? 俺の国って重婚は犯罪なんだけど」
「そういう国はあっちの世界にもあるよ。でもまあ、エーデルでは何も問題ないね」
それはガラ悪マッチョから聞いたな。
実際、あいつは奥さんが2人いる。
「国じゃなくて、お前の考えを聞きたいんだけど」
「嫌か嫌じゃないかで言えば、嫌が勝つかな……? ぶっちゃけ、相手による。ヘイゼルさんは別にいい」
いいのか……
「ちなみに、嫌な相手って?」
「比べようとする女とか、独占しようとする女とか、とにかく争いになる人だね。そういう人とは家族になれない。貴族や王族みたいに屋敷を別に建てるなら大丈夫だけど、それはそれで時間がなくなるから嫌」
うーん、まあ、俺もそれは嫌だな。
「ヘイゼルは? 争いになんないの? 守銭奴対ポンコツじゃん」
「守銭奴って言わないで。別に争ってるわけじゃないよ。あの人は良くも悪くもマイペースだからそういうことを気にする人じゃないし」
確かにマイペースだな。
一人だし。
「お前と性格とか合わなくない?」
フィリアはしっかりしている。
「お互いの悪いところを補えばいい。というか、これはリヒトさんの仕事だね。まあ、得意でしょ」
得意かな?
ヘイゼルを騙すのは得意だけど。
「うーん、ちなみに、正妻とかそういうのはあるの?」
「あー、それは争いになるね」
ダメじゃん。
「争うの? 正妻争い?」
昼ドラ?
「いや、逆に譲り合いが始まる」
えー……
それはそれで嫌だなー。
「なんで?」
「正妻や妾っていう概念自体は普通の平民にはないよ。そういうのは跡取りとか継ぐものがある家だね。店がある商人とか、貴族とかね。もし、リヒトさんが身を立てて貴族になった時とかにそういう話が出てくる」
そういう後継ぎは正妻の子がなるのか。
あのガラ悪マッチョはそういうのがないっぽいし、正妻とかないんだろうな。
「店を構えるつもりもないし、貴族になる気もないけど?」
「可能性の話だよ。リヒトさんの能力なら貴族になれるし、実際、そういう異世界人も少なくない。というか、リヒトさん、王族だし、ロストに行けば、確実になれるよ」
行かない。
絶対に行かない。
「嫌だよ」
「私も同じくらいに嫌。貴族の夜会とか絶対に行きたくない。そういうところに顔を出したり、貴族の妻同士の横の繋がりで家を支えるのが正妻の役目なんだよ。だから譲り合いが始まる」
おほほ、なやつね。
「ヘイゼルは? あいつはできるだろ」
「あの人は貴族だからそういうのもできるだろうけど、得意ではないでしょ。ましてや、絶対に好きじゃない」
あー……それっぽいなー。
ヘイゼルは素直だし、そういう腹芸も得意ではないだろう。
すーぐ顔に出るし。
「なるほどねー」
「まあ、リヒトさんが貴族になればの話だよ。逆にこっちは? いくら重婚がダメでも男の人は囲うでしょ」
フィリアってドライだよね。
いや、あっちの世界がそういう世界なんだろう。
「愛人ね。こっちの世界は結婚する時に書類を提出する必要があるから奥さんとは別に愛人を囲う感じかな?」
社長さんかな?
「書類なんてあるんだ……もし、私らが結婚した場合はどうなるの?」
「お前らはそもそもこっちの世界の戸籍がないから無理だと思う。多分、内縁の妻かな。まあ、そっちの結婚と変わらん……いや、待て、俺の母親はどうなんだ?」
あの人、戸籍もないだろうし、婚姻届とかどうしたんだろう?
というか、俺の戸籍の親の欄はどうなってんだ?
「えっと、私にはわかんない……」
「うーん、まあ、そういう話になった時に聞いてみるか。どっちみち、紹介や報告はしないといけないし」
保留って良い言葉だ。
「まあ、任せるよ。ヘイゼルさんのこともね」
「ヘイゼルねー」
あいつのことも好きだし、悩むところではあるけど、あいつはどう思ってんのかねー?
「ちなみに、ヘイゼルさんからは絶対にアプローチはしてこないよ。貴族の女性からアプローチするのは恥でしかないからね」
俺次第なわけね……
「うーん、保留」
「保留ばっかだねー。でも、2人までにしてね。それ以上はさすがに嫌」
でしょうね。
「猫ちゃんは?」
「ホントにミケが好きだねー……獣人はやめた方がいいよ……というか、脈がなさすぎて……」
やはりないのか……
「うーん、そんな気はしてた」
「アンナは? リヒトさん、仲良さそうだったけど」
「アンナ? あいつは今頃、他の男とよろしくやってんだろ」
そろそろ進展があるんじゃね?
「ん? 何それ!? 聞いてない!」
フィリアが身を乗り出して聞いてくる。
「お前らの町の人間は本当にこういうのが好きだよな……悪いが、言えない。あいつも言われるのは嫌だろうし……まあ、占ってやったんだよ」
「それもそうね。あとで本人に根掘り葉掘り聞くわ。あとさー、宿屋のサラちゃんは? リヒトさんが餌付けしてるって、おかみさんのリリーさんが言ってた」
サラ?
可愛い子だね。
「あの子、12歳だぜ?」
小学生やんけ。
「あと3年で15歳じゃん」
「こっちの世界ではそれでもアウト。ぶっちゃけて言うと、お前もヘイゼルも本当は怪しいんだよ」
まだ十代だ。
いや、成人は18歳以上か?
どうだっけ?
「ふーん、ないの?」
「お前ら2人でも怪しいのに12歳って……それはマジで捕まっちゃうよ」
問答無用でアウト。
「あっちでは捕まんないよ?」
「俺はお前だけで良いよ……ヘイゼルと」
「そこは私1人って言うところだよ」
ですよねー。
でも、話の流れ的にね?
「保留なんだよ……」
「ホントに刺そうかな……」
隣で呆れているフィリアの腕を掴むと、引っ張り、抱きしめた。
「急に……どうしたの?」
抱き合う格好になっているため、フィリアがしゃべると、耳元がくすぐったい。
「お前は絶対に娶るし、じいさんからもらう。今さらお前を他の男にくれてやる気もないし、おさらばする気もない。だが、ちょっと待ってくれ」
「……うん。わかった」
フィリアが頷き、俺の背中に手を回した。
あーあ、言っちゃった。
これで後戻りはできない。
あとはヘイゼルをどうするかだなー……ヘイゼル……ヘイゼル?
はっとして、フィリアから離れる。
「どうしたの?」
「……ヘイゼル、遅くないか?」
フィリアとかなりの時間、話しているが、ヘイゼルが一向に風呂から戻ってこない。
「そういえば……」
「フィリア、見てこい!」
「わ、わかった!」
指示を出すと、フィリアは慌てて風呂場に向かった。
ヘイゼルさんは予想通り、のぼせてました……
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