第063話 依頼と転移
街道に戻ると、かなり楽になり、馬が歩くスピードも上がる。
そして、午後を過ぎたあたりで町の東門に到着した。
「お! 随分と早かったな」
俺達が門に戻ると、馬を渡してくれた門番の兵士が声をかけてくる。
「すぐに見つかったな。じゃあ、馬車を頼む。俺らはギルドに報告してくる」
「了解」
馬車から降りると、町に入り、ギルドに向かう。
ギルドの中に入ると、いつものように他の冒険者はおらず、閑散としていた。
俺とヘイゼルはガラ悪マッチョのところに行き、依頼の報告をする。
「街道からかなり離れたってマジか?」
依頼の詳細を報告する際に、発見した場所の位置も話したのだが、ガラ悪マッチョが食いついてきた。
「嘘ついてどうすんだよ」
「本当よ。かなり平原を歩いたし、馬車に乗って帰ったわ。おかげでお尻が痛くてしょうがないわよ」
まだ、痛いのか……
さすってやろうか?
「うーん、ちょっと締め上げるかなー」
ガラ悪マッチョが言うと、ちょっと怖い。
完全に輩だ。
「いや、そこまでしなくても……」
「そうよ。何をする気よ」
「いやな、依頼人には正確に状況を説明してもらわないと困るんだよ。今回は見通しの利く平原だったし、お前らはすんなり見つけられるだろうが、これが森とかだったらその情報のせいで冒険者が危なくなるんだよ。ここはきっちりしておかないと、他の冒険者が迷惑だ」
ほう……
なるほどね。
すげーギルマスっぽい。
ただの暇人じゃなかったんだな。
「まあ、そういうことなら」
「確かに困るわね」
俺の場合は占いがあるけど、なかったら1日では絶対に見つからんかっただろうしな。
「まあ、色を付けてやるから報酬は今度な。ちょっと請求してくる」
「頼もしい」
「さすがはギルマスね」
ただのガラ悪じゃなかった。
「そうだろう! こういう時くらいは仕事をしないと、俺の居場所がなくなっちまうからな! わはは!」
逆に言うと、そういう時じゃないと仕事をしないのね。
まあ、こいつが睨んだら財布の中身を全部渡しそうな気がする。
「じゃあ、よろしくー」
「おう! お前らはどうすんだ? 明日も仕事をするか?」
「いや、ちょっとこれからヘイゼルと用がある。明日か明後日には顔を出す」
誘拐する。
「わかった。また、仕事を見繕っとくわ」
「はいよ」
俺達は本日の仕事を終えたので、酒も飲まずにギルドを出た。
「これから家?」
外に出ると、ヘイゼルが聞いてくる。
「ああ。できたらお前の家がいい。大丈夫か?」
「ええ。大丈夫よ」
俺達は北の商業区にあるヘイゼルの家に向かう。
今まではギルドの近くに宿屋があったので、すぐだったが、やはり北区だと遠い。
10分以上歩き、ようやくヘイゼルの家が見えてきた。
「やっぱりちょっと遠いな」
「まあねー。でも、夜は静かで良いわ。前は夜中に酔っ払った冒険者がうるさかった時もあったし」
「わかるわー」
俺が泊まっている宿屋は1階に食堂があり、夜も酒を提供しているため、かなりうるさい。
寝たいのに寝れない時もある。
「そういう意味ではここは悪くないわ。あ、どうぞ」
家に到着すると、ヘイゼルが鍵を開け、中に入るように勧めてきた。
そのまま入ると、勧められるがまま、昨日座った席につく。
「何か飲む? お茶とお酒があるけど」
「いや、いいよ」
その言葉は後で俺が言うことになる。
「じゃあ、話って? 隠し事って言ってたけど」
ヘイゼルが対面に座り、本題に入った。
「俺が異世界人なのはわかるな?」
「そりゃね。聞いたし」
「実はな、俺、元の世界に帰れるんだ」
「…………ん?」
ヘイゼルは理解できないらしい。
そりゃそうだ。
「俺は今、フィリアに大量の砂糖の売買をお願いしてる」
「何かやりとりしてたね。ん? 大量?」
ヘイゼルは大量という言葉に疑問を持ったようだ。
「そう。いきなり異世界に転移してきたのに砂糖を大量に持っているわけがない。ちなみに、俺の家は砂糖を売っている店でもない」
「……1回戻って、売れそうな砂糖を持ってきた?」
賢い子だ。
「そういうこと」
ヘイゼルはちょっと抜けているけど、基本的には賢いのだ。
「ごめん。理解できない。帰れるって何? 聞いたこともない」
「お前、前に聞いたけど、魔法学校に異世界人の友達……知り合いがいたよな?」
「友達で合ってるわよ! あんた、私のことを友達がいないって思ってるでしょ!」
そっかー。
ちゃんといるのね。
「悪い悪い。それでそいつは帰れないってことでいいな?」
「そりゃそうでしょ。帰れるもんなら帰りたいんじゃない?」
そうかもしれない。
俺はどう思ったのだろう。
ホームシックにかかったか、気楽に生きたか……
「そうか……一応、確認したかったんだ」
「まあ、そうよね。で? どうやって帰るの?」
「それな。実はお前を今から招待しようかと思っている」
「へ? 招待? え? 私も行けるの!?」
まあ、驚くよね。
気持ちはすごくわかる。
「そうそう。実は俺だけじゃなく、他の人間も行けるんだよ。そこで親愛なる我が師を招待しようと思ってな。隠し事はしないって言ったし、仕事を手伝ってもらう関係上、知っておいてもらわないといけない」
そうじゃないと上手くいかない。
隠し事は信頼関係を崩壊させる一因なのだ。
「は、はあ……? 頭が混乱しそう……ホントに行けるの? ちゃんと確認した?」
「実は我が家では今、フィリアが留守番をしている」
「ほえ!?」
ヘイゼルがマヌケな声を出した。
「いや、ほえって……」
「急に名前が出てきたし、フィリアが今、異世界にいますって言われたらそりゃあ驚くわよ」
「まあ、そうだな。で? どうする?」
「い、家かぁー……うーん……あ、でも、フィリアがいるのか」
ヘイゼルの悩んでいるところがちょっと違っている気がする。
「大丈夫。家に親はいない」
「へ!? あんたとフィリアってそういう……」
異世界のところに食いついてほしいんだけどなー……
俺の思ってた反応と違う。
「いや、そこはいいから。来る?」
「うーん、じゃ、じゃあ、ちょっとだけなら……」
あ、また説明するのを忘れてた。
「悪い。実は異世界を行き来するのに丸1日の充電期間がいるんだよ」
「え……? ということは泊まり?」
「まあ、そうなる」
「と、泊まり!? あわわ…………えっと、んっと、ちょっと待ってなさい!」
ヘイゼルは慌てて立ち上がると、奥の部屋に駆け込んだ。
「あいつ、完全に勘違いしてないか?」
そのまま待っていると、奥の扉がそーっと開き、ヘイゼルが顔を覗かせる。
「ま、待たせたわね」
「何か用意でもしたん?」
「うるさいわね! 女の子は色々あるの! 男は触れちゃダメ!」
顔が真っ赤だよ、この人。
「行く?」
「い、行くわ! さあ、連れていきなさい!」
ヘイゼルはその場で両腕を広げる。
それを見ると、立ち上がり、ヘイゼルの横に立つ。
そして、ヘイゼルの肩を掴み、引き寄せた。
「………………」
ヘイゼルは完全に固まってしまっている。
「ヘイゼル、落ち着いてこれを見ろ」
そう言うと、ヘイゼルがギギギと音が出そうな動きでスマホを見た。
「落ち着いてー、怖くないよー、全然、怪しくないよー」
そう言うと、固まっていたヘイゼルが笑う。
「ふふっ。詐欺師じゃん」
ヘイゼルは笑いながら画面を見続けていたので、俺はスマホのアプリを起動した。
「気持ち悪っ!」
ぐるぐる画面を見たヘイゼルが騒ぐ。
そして、目の前が光に包まれ、何も見えなくなった。
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