第047話 ヘイゼルを説得しよう!
ギルドを出た俺達はヘイゼルが泊まるもくもく亭へとやってきた。
中に入ると、ヘイゼルは宿屋のおかみさんに挨拶をする。
そして、2階に上がると、部屋が6つあった。
「奥の2部屋が私の部屋なの」
「2部屋も借りてんの?」
無駄じゃね?
「私は魔法使いでしょ? 本が多いの。それに錬金術やら魔法の研究やらでどうしても1部屋じゃ足りなくてねー」
「ふーん。魔法使いも大変だなー」
本当に研究者って感じだな。
「まあ、好きでやってることだから。あ、こっちね。奥の部屋は絶対にダメ。私の研究成果が置いてあるから」
ヘイゼルがその手前の部屋に入る。
まあ、その研究成果とやらを俺が見てもさっぱりなんだが、警戒心があることは良いことだ。
ただ、それは魔法ではなく、もう少し、自分に向けてほしい。
そう思いながらヘイゼルに続き、部屋に入る。
部屋はそこそこ広く、10畳はありそうだった。
ベッドと机があるのは俺が借りている部屋と同じだが、いくつかのテーブルが置いてあり、テーブルや床には本やよくわからない道具が散乱している。
「汚くてごめんね。例のポーションの依頼で心がすさんでたから」
まあ、あんな状態になったら掃除する気も起きんわな。
心と部屋の綺麗さは比例するって母親から聞いたことがある。
「それはいいけど、隣もこの部屋と同じ大きさか?」
「そうよ」
結構、良い所に住んでるんだなー。
「ここ、いくら? 2部屋も借りてたら高いだろ」
「まあねー。2食付きで銀貨8枚。2部屋だからその倍の金貨1枚と銀貨6枚」
たけー!
1日、16000円じゃん!
いや、待て、2食付き?
君、騙されてない?
「よくそんな金があるなー」
「まあ、魔法使いは儲かるからね。その分、出費も多いけど……」
詳しくは知らないが、そんな気はする。
「それでもここに泊まるより部屋を借りる方が安くつくのは確かだろ」
「そうね。一昨日、フィリアに相談しに行ったんだけど、そう言われた」
「部屋を探してみるって言ってたけど?」
一応という言葉付き。
「最初は自分で探したんだけど、なくてね」
「ないの?」
「あるのは1戸建てばっか。4部屋とか5部屋のやつを借りてもさすがに持て余すわよ」
1人では広いかもなー。
俺もあっちの世界では1人で広い家に住んでるけど、持て余している。
最近はフィリアがいるからいいけど。
「こっちの世界には集合住宅みたいのはないのか?」
アパートとかマンションみたいなやつ。
「あるわよ。でも、そういうところは男が多いし、逆に狭いのよ。2部屋借りられたらまだ良いんだけど、なくてねー」
なるほど。
こいつは中途半端なんだ。
1人のくせに研究やら錬金術でスペースがいる。
でも、そこまで大きい家は管理できない。
フィリアが一応、探してみるって言っていた意味がわかった。
「それは厳しいかもな」
「っぽいね。フィリアはこの町の人間だし、知り合いも多いから探してはくれるみたいだけど、微妙……あ、ごめん。お客さんにお茶も出さずに。適当に座ってて」
ヘイゼルはテーブルの上に置いてある高そうなティーセットをガチャガチャと構い始めた。
座れと言われたが、座る場所がベッドくらいしか見当たらないので仕方なく、ベッドに座った。
なんとなく、ここでヘイゼルが寝てんのかーと思うと、ちょっと興奮する。
「あ、ごめん。椅子もないね……よいしょ!」
ヘイゼルは奥にあるもう一つのテーブルをベッドの前まで持ってくると、用意していたティーセットを置いた。
そして、俺の隣に座り、お茶を淹れてくれる。
「どうぞ」
勧められたので一口飲むと、すごく良い香りと共に味わい深い紅茶の味がした。
「美味いな。それに香りが良い」
「でしょ! 良いやつだから」
高そうなティーセットといい、こういうところは貴族っぽい。
「お前、良い趣味してるわー」
「研究とかで詰まった時によく飲むのよ」
なるほど。
確かにこれを飲むと落ち着く気がする。
「これは良いな」
「でしょー。お酒も好きだけど、こっちも好きなのよ。それで仕事って?」
ヘイゼルは本題に入った。
「仕事ね。色々と考えてんだけど、まずは氷を売ろうと思ってんだわ」
「氷? 私に氷を作れってこと? できないこともないけど、厳しいわよ? 私の冷却魔法は水を凍らすほど強くないもん。見たと思うけど、私は火魔法が得意でね」
冷却魔法とやらはお酒を冷やす程度か。
まあ、あれだけの威力の火魔法があれば、他の魔法はそこまでレベルを上げなくても十分にやっていける。
「いや、氷を用意するのはこっちでやる。ちょっと考えがあってな。それについては後日、教えてやる。問題は氷って溶けるだろ?」
「あー、まあね。学校の友達とかで氷を売ってる子はいたけど、そういうのが面倒らしい」
友達、いたのか……
ちょっとホッとした。
「俺、異世界人だろ? 実は氷を保存する道具を持ってるんだわ」
「マジ? すごいじゃん! 見てみたい!」
「まあ、完全に溶けるのを防ぐわけじゃないけど、かなり遅らせられる。今度、見せてやるよ」
「お願い! すっごく気になる!」
そんなに見ても楽しいものじゃないけどなー。
研究者だし、魔法使いは知的好奇心が旺盛っぽいのは事実みたいだ。
「とまあ、そういう道具があるんだけど、目立つんだよ」
「まあ、少なくとも私は知らないし、目立つかもね。下手すれば、狙われるかも……」
「だろ? そこでヘイゼル先生の出番なわけだよ?」
「私? 私が持って、売りに行くの? 嫌に決まってんじゃん」
完全にリスクしかないもんな。
マジでカモがネギを背負って来る状態だ。
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