第046話 聞こえているということは貴族や精霊の話も聞こえていたということだね
「いや、間違えた。ヘイゼル、俺とパーティーを組もうか」
「パーティー? 私らで? いいけど、弱くない?」
いいはいいらしい。
「弱い奴には弱い奴のやり方がある。お前、今回の儲けはいくらだ?」
「金貨200枚」
「それをほぼ3日でやったわけだ」
「確かに!」
本当はそれ以前に準備とかなんやらあったんだろうし、実際は金貨200枚から色々差し引かれるから手取りは別。
それなのに俺に金貨100枚を渡してくるのがこの子だ。
そういった利益計算もできないうえに酒ばっかり飲んでる子。
めっちゃ不安な子だが、もう安心。
俺というすばらしい詐欺……冒険者に出会ったのだから。
「まあ、そろそろ黄金草も厳しくなるし、別の道を探す必要があるが、俺達ならいける」
いい加減、近場の黄金草は採りつくしそうなのだ。
「あんたが索敵して、私の魔法で仕留めればいいわけね!」
「そうそう」
それで敵を一掃しよう。
「フィリアも手伝ってくれると言っている」
「おー! ヒーラー! そういえば、あんたら、何かコソコソ商売してるもんねー」
コソコソはしていない……と思う。
「そういうわけで、今日から俺とお前は仲間な。これからは苦楽を共にし、助け合うというすばらしい関係だ」
「え……う、うん」
ヘイゼルがもじもじしだす。
こいつ、本当にボッチだったなんだなー。
「よしよし。よろしくな、ヘイゼル」
「わかった! よろしく、リヒト!」
「ああ」
俺はすばらしい仲間を手に入れた。
「あ、それで仕事を手伝うって何? 自慢じゃないけど、私、魔法以外はよく知らないわよ? ましてや、商売のことを言われても全然わからないし」
まあ、魔法学校に通っていた貴族だし、商売なんか知らんわな。
それにしても、あんだけ契約について説明や注意をしてやってんのに、仕事内容を聞かずによく頷けるわ。
それだけの信頼を勝ち取ったか、こいつが世間知らずか……まあ、両方って思っておくか。
「それについてはちょっとここではな……聞き耳を立てているガラ悪マッチョがいる」
「ホントだ! 目が合った!」
「いや、聞き耳もクソもこのギルドでしゃべってんのはお前らだけだろ。普通に聞こえるっての」
確かによく見たら俺がここに来た時にいた数人の冒険者もいなくなっており、このギルドにいるのは職員と俺達だけだ。
職員はガラ悪マッチョを除いて、皆、私語もせずに真面目に書き物をしている。
「なあなあ、他の冒険者は? このギルドに冒険者がいるのをあんま見たことねーんだけど」
町中なんかでは見るが、このギルドに来る時にはいっつもがらーんとしている。
「皆、仕事だよ。こんな真昼間に働きもせずに酒を飲んでるのは詐欺師とその餌食くらいだ」
俺だって、朝から来てんだよ。
向こうの世界の朝だけど。
「餌食?」
ヘイゼルはガラ悪マッチョの言葉が引っかかったらしく、聞いてくる。
「君は気にしなくていいよ」
ウチのヘイゼルちゃんに余計なことを吹きこむなよなー。
「うーん、まあ、ここで話せないのはわかったわ。誰もいないところに行く?」
「どこだ? 町の外で話そうかと思ってたけど」
「私の部屋。外は危ないじゃん」
「お前の?」
もくもく亭だっけな?
「そうそう。私の部屋は人払いと防音の魔法がかけてあるから誰も来ないし、声も漏れないわよ」
人払い……防音……
こいつ、ヤバくないか?
「ギルマスのルークさまー。女の職員を呼んでくれー。このバカに常識と警戒を教えてやってくれー」
「ちょっと待ってろー。俺も同じことを思ったわー」
「いや! そういう意味じゃないから! わかってるから!」
ヘイゼルが顔を赤くして、止めてくる。
「何をわかってるん?」
「いや、そ、そういうことでしょ? する気ないもん」
「お前がなくても俺がする気だったらどうすんの? 無理やりするよ?」
「前に言ったでしょ? 私は護身術が使えるの! あんたなら余裕よ!」
ふーん。
マジで世の中を舐めてるな。
外套の中に隠している銃を取り出し、セーフティーロックを解除した。
「何それ?」
俺も答えずに誰もいない壁に銃を構え、引き金を引いた。
すると、大きな破裂音と共に弾が飛び出し、壁に小さな穴が空く。
ヘイゼルは音にびっくりし、俺の銃と壁に空いた小さな穴を口を開けて交互に凝視する。
「こいつはゴブリンもロクに殺せんが、お前の足に撃てば、お前は泣きながら抵抗を止めるだろうよ」
「……う、撃つの?」
「撃つわけねーだろ。さっき仲間になったばかりなのにその仲間を撃つバカはいねーよ。それにお前は痛みをこらえて魔法で反撃すりゃあいいの。ただ、お前の基準で簡単に判断すんなってこと。誰だって奥の手くらいは持ってる」
弾も少ないのにもったいないわー。
「どうでもいいけど、壁の修理代は請求すんぞー」
「あとで勝手に報酬から引きな」
ガラ悪マッチョに銃を見られたが、あいつは何も言わない。
すべてはフィリアのじいさんに任せている。
「……わかった。警戒ね」
「では、お前の部屋に行くか」
「え!? なんで!? この流れで!? 怖いわよ!」
下を向いていたヘイゼルが顔を上げ、叫ぶ。
「わざわざ奥の手を見せてやったし、攻略法も教えてやったろ。これは仲間への信頼なわけだ」
「えー……そうかなー?」
さすがに信用しないな。
まあ、警戒しろって言ったのは俺だし。
「防音の魔法を解けばいいだろ。宿屋なんだから店員はいるし、仕事の話も小声で話せばいい」
「……なるほど。いや! じゃあ、最初からそう言ってよ!」
ヘイゼルは納得しかけたが、すぐに抗議してくる。
「お前が警戒心がなさすぎるからだろ! 多分、この場にいる全員が思ったわ!」
ガラ悪マッチョを始め、仕事をしている職員の方を見ると、全員が頷いた。
「……わかった。じゃあ、行こ」
「俺はお前が本当に心配だわ」
マジで心配。
「詐欺師が説教してるのがおもしれーわ」
うるせーよ!
本来ならお前らの仕事ちゃうんか!?
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