第045話 こんな騙しやすい奴はいない
スマホのアプリを使って、フィリアの部屋から出た俺達は家を出る。
そして、商人ギルドに行くというフィリアとその場で別れると、冒険者ギルドに向かうために教会の敷地内を出た。
なお、教会の扉の前には見たことあるじじいが俺とフィリアをガン見していた。
けっして目を合わさないようにして、その場を去ったのであった。
教会を出ると、そのまま冒険者ギルドに向かった。
ギルドに入ると、相変わらず、客が数人しかおらず、職員の方が多く見える。
特にテーブルに座っている人間はたった一人だ。
そいつは無表情でちびちびと酒を飲んでいたが、ギルドに入ってきた俺を見ると、ぱーっと笑顔になった。
犬みたいだなと思いながらそいつの所に行き、同じテーブルに座る。
「ガラ悪ー! ガラ悪のルークさまー! 酒ー!」
受付で鼻毛を抜いているギルマスに注文をする。
「あいよー」
ガラ悪マッチョは立ち上がり、酒を用意しだす。
「よう、ヘイゼル、今日も昼間から酒か?」
「何言ってんのよ! あんたを待ってたの! 宿屋に行ったら出かけてるって言ってたし、ここで待ってたの!」
そんなに俺が恋しかったか、よしよし。
というか、いつから飲んでんだ?
「で? 依頼はちゃんと終えたか?」
「そう、それよ! こほん! えーっと、この度はー、危ないところをー……」
目が上を向いてんぞ。
しかも、棒読みだぞ。
「覚えてきたやつじゃなくて、ちゃんと自分の言葉で言え」
そう言うと、ヘイゼルは静かに立ち上がり、恭しく頭を下げる。
「無事に終えることができました。本当にありがとう。助かったわ。とっても感謝しています」
うーん、立ち居振る舞いだけは確かに上流階級のそれだな。
「うんうん。良かったなー」
もうちょっと頭を下げると100点だった。
頭を下げたことでローブの首元がたゆんでいるからだ。
あとちょっとで見えそう。
「お前ら、何をしてんだ?」
声がしたので見上げると、ガラ悪マッチョが酒を持ってきていた。
「主従の儀式だ」
「違うわよ! 感謝してんの!!」
ヘイゼルが顔を上げて怒ってくる。
「師匠、冷やしてー」
ガラ悪マッチョから酒を受け取ると、ヘイゼルに渡す。
「しょうがないわね!」
ヘイゼルは酒を受け取り、魔法を唱え、酒を冷やしてくれた。
「はいどうぞ!」
「ありがとー」
酒を受け取ると、飲む。
うん、冷えてる!
「まあ、仲良くしろよー」
ガラ悪マッチョは単純なヘイゼルに苦笑いを浮かべ、受付へと戻っていく。
ヘイゼルもちょっとご機嫌に席に着いた。
「それでね。これが今回のあんたの取り分」
ヘイゼルは今日はちゃんとカバンを持ってきたらしく、空いている椅子に置いてあるカバンから袋を出し、テーブルに置く。
「取り分?」
「ほら、黄金草は私が全部もらったじゃん。だから、今回のポーションの依頼料を等分しようと思って」
等分?
ポーションの依頼料?
袋を取り、中を覗く。
袋を取った時にわかっていたことだが、めっちゃ入っている。
「いくらだ?」
「金貨100枚」
バカだ……バカがここにいる……
「ヘイゼル、座れ」
「いや、座ってんじゃん」
「こっちに座れ」
対面に座るヘイゼルに隣に座るように促す。
「何よ、もう! 隣がいいの?」
バカは立ち上がり、素直に俺の隣に座った。
「あのな、世の中には契約というものがある。わかる?」
「そりゃわかるわよ。私はそれでドジったんだから」
あ、そうでしたね。
「俺はお前と一緒に仕事をする際に2割でいいと言った」
「金貨40枚でいいの?」
こいつの魔法士ギルドからの依頼料は金貨200枚か。
かなりの高額だが、金貨1枚の黄金草を使ったポーション100個と考えればそんなものかもしれない。
ってか、その場合、俺達2人が集めた黄金草は88株だから金貨88枚じゃないのか?
「違う。黄金草の採取は金貨1枚だから俺の取り分は金貨18枚くらいだ」
「え? でも、それだと……」
わかってる。
こいつなりの感謝だろう。
命とは言わないが、人生を救ってもらったと思っているのだ。
「ヘイゼル、よーく聞け。この依頼は確かに俺が助けた。でも、本来、これはお前の錬金術で儲けたお金なんだ。俺が貰っていいものではない」
「でも……」
「うんうん。言いたいことはわかる。だが、それが契約だ。感謝は別の形でもらう。お前にはこれから魔法を教わるし、一生、俺の仕事を手伝ってもらうわけだ。わかる?」
「うん……」
言質を取ったぞ。
マジでカモゼルだな。
「だから、この金は金貨18枚だけでいい。あとはお前のもの。感謝は別のことで表せ。それともお前は金貨82枚を渡して、もう感謝せんのか? はい、さよならか?」
お前の価値は金貨82枚程度ではないんだ。
誰が逃がすか。
「ち、違う……!」
「だろう? お前にはあとで魔法を教えてもらって、ちょーっとお仕事を手伝ってもらうから。あと、ちょーっと頼みごとを聞いてほしいんだよ。いい?」
「う、うん」
「一緒に頑張ろうなー?」
「わかった!」
ヘイゼルちゃんは良い子だねー。
「リヒトー。俺はどこに通報すりゃいいんだ?」
ガラ悪マッチョが受付から声をかけてくる。
「ちょっと黙ってろ。どこにも通報すんな。今はあくまでも個人間のやりとりだけだからギルドは関係ない」
警察は勘弁よ。
「どうかしたの?」
ヘイゼルは俺とガラ悪マッチョのやり取りに疑問を持ったようで聞いてくる。
「何でもないよー。じゃあ、ヘイゼル、ちょっとこの紙に名前を書こうか?」
「紙? 紙なんてないけど?」
おーっと、つい癖で……
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