第044話 良い匂い!
翌朝、あっちの世界に戻る準備をし終えたので最後にコーヒーを飲む。
「うえぇ……何これ?」
フィリアが嫌そうな顔をしながら舌を出した。
コーヒーを飲もうとしたらフィリアも飲みたいと言ってきたのだ。
絶対に美味しくないからやめろと言ったのだが、飲んでみたーいって言いながら甘えてきた。
その結果がこれだ。
「お前は絶対に無理だと思ったわ」
ミルクと砂糖を多めに入れたが、無理だった。
だって、フィリアは酒飲みのくせに完全に子供舌なんだもん。
「水、水!」
フィリアがキッチンに駆け込む。
「冷蔵庫にジュースがあるからそれ飲め」
昨日、お酒じゃない果物ジュースも買ったのだ。
なお、重かった。
タクシーだけど、大量の酒も合わさって非常に重かった。
「あー、苦いし、不味かった……こっちの世界にもハズレがあったのか……」
フィリアはまだ舌を出してる。
かわいい舌だこと。
「だから言ったのに」
「よく飲めるね」
「慣れたら美味いよ?」
「私は慣れなくていいや」
そうしなさい。
君は甘い物ばっか食べてなさい。
「そろそろ戻るかー」
コーヒーも飲み終えたしな。
「あーあ、もうちょっといたかったけど仕方ないかー。私は砂糖と氷の調査があるしなー」
フィリアには残りの砂糖5キロと氷を売れるところを調査してもらっている。
よく働く子だね。
「お前、冒険者業は?」
「あー、そっちもしないとなー」
「クランに入ってるんだっけ?」
「だねー。まあ、自由なところだし、ノルマもないからいいんだけど、鈍っちゃうのは嫌だな」
フィリアはヒーラーだし、戦うことはあまりしないだろう。
俺より弱いって言ってたし。
それでもあまり実戦から離れると、勘が鈍るんだろうな。
「何かやんの? アンナやミケはいないけど」
「うーん、あの2人とは息が合うんだけどなー。リヒトさん達の仕事を手伝おうかな? 私、採取は得意だし」
「得意なんだ?」
「教会の庭いじりしてるしねー。慣れたもんだよ」
そういえば、教会には結構、花が咲いてたな。
「ヘイゼルには見習ってほしいわ。お前、あいつの採取しているところを見たらビビるぜ? マジで不器用」
「でしょうねー。あの人、貴族でしょ?」
バレとるやんけ。
「知ってんの?」
「立ち居振る舞いを見ればわかるよ。どう見ても貴族のそれだもん。というか、皆、わかってるよ。でも、詮索しないのが冒険者のルール」
必死に隠し、バレてないと思っているヘイゼルちゃん。
「今度から優しくしてやろうっと。というかさ、お前、クランに入ってんのに俺らと冒険していいの?」
「別に問題ないよ。普通に関係ない男の人とパーティーを組んでる人もいるし」
「ダメじゃね? 二重じゃん」
「そういうクランなんだよ。女の人しか入れないけど、自由にしていいよって。仕事やパーティーの斡旋もしてくれるし、半分組合みたいなもん」
いいなー。
俺も入りたい。
無理だけど。
「それでよく回るなー」
運営とか大丈夫か?
「援助されてるもん。教会とか魔法士ギルドとか色々」
「援助? なんで?」
いかがわしい匂いがしてきたぞー。
「教会でいえば、私みたいな修道女が冒険者をやることが多いからだよ。回復魔法を使えるしね。それなのに修道女に何かあったらマズいから援助してる。魔法士ギルドも一緒。優秀な魔法使いを失いたくないもん」
いかがわしくなかったね……
いかがわしいのは俺の心だったか。
「そりゃお前らもヘイゼルを誘うわけだ」
「そうそう。あの人こそ、そういうのが必要だもん。貴重で優秀な魔法使いなのに危なっかしい」
実際、ピンチだったからなー。
「あいつには事情があるんだよ」
「事情? まあ、貴族だし、あるんだろうね。詮索はしないけど」
「あいつ、家出娘」
「……リヒトさんって、すごくバラすよね」
それだけ君を信用してるんだよー。
というか、噂好きのお前らに言われたくない。
「じゃあ、まあ、一緒に行ってみるかね」
「商売の方もあるし、教会もあるからたまにだけどね。リヒトさんは? 黄金草?」
「まずはヘイゼルに貸している黄金草の分の取り立てだな。あとはギルマスと相談しながらかな? ヘイゼルもいるし、危なくないやつかなー」
貧弱2人。
たとえ、フィリアを入れても貧弱3人。
「完全に子分にする気じゃん。それともあれも娶る気?」
あれ“も”だって。
こいつはこいつで完全に嫁ぐ気でいるし……
というか、昨日から思ってたけど、もう嫁いだ気でいない?
「まあ、魔法の師匠だし、教えてもらいながら仕事をしようかと思ってる。それになんか、こう、庇護欲がね?」
「やっぱり男はああいう可愛い感じの……いや、あれはちょっとっていうか、かなりぶりっ子とは違う気がする」
あいつにそんな要素は皆無だ。
高慢ちきだもん。
たまに媚びへつらう目で見てくる程度。
「せめて、ドジっ子っていうことにしてあげて。あいつって、憐れじゃん」
「まあ、気持ちはわかるよ。放っておけない感じでしょ?」
「それそれ」
「まあいいけど。じゃあ、帰ったら冒険者ギルド?」
ヘイゼルも冒険者ギルドにいるだろうし、ガラ悪マッチョにも話をすると考えればそこかなー。
「だなー」
「わかった。じゃあ、ヘイゼルさんに部屋は一応、探してみるって言っといて」
一応?
まあいいや。
詳しくはヘイゼルに聞こう。
「じゃあ行くか!」
「うん!」
俺はスマホを取り出すと、フィリアがいつものように腕を抱いてくる。
ただ、何となく、以前よりも近い気がした。
特に腰の辺り。
うーん、良い匂いがするね。
いや、これ、甘いものの匂いだわ。
どんだけ持って帰る気だよ…………
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