第048話 なんかからかいたくなる子
「まあ、保管場所をお前が借りる部屋にしようかとは思ってるんだが、そこは本題じゃない」
「部屋? あー、まあ、その道具がどのくらいの大きさかは知らないけど、空いてるスペースがあればいいわよ。それが本題じゃないの?」
ヘイゼルさんは快く、スペースを貸してくれるらしい。
「うんうん。実はお前が持ち歩くのは嫌だって言うけど、頼みたいのはそこ」
「だから嫌だって言ってんじゃん。私が狙われるじゃん」
「大丈夫。お前は狙われない。だって、他の人間からしたらお前がその道具を持っているのは見えないんだから」
「………………」
ヘイゼルは無言だったが、すぐにベッドに立てかけてある杖に手を伸ばしたので警戒している相手に背を向けるというバカなヘイゼルの肩に手を伸ばし、掴んだ。
それにより、ヘイゼルの弱い力ではそれ以上進めなくなり、杖を掴むことができなくなった。
「今、杖はいらないよ?」
「離せ! 殺すぞ!」
こわーい。
「落ち着け」
「この世の森羅万象に司る精霊よ……」
ヘイゼルが詠唱を始めた。
多分、魔法を使うのだろう。
これでようやく理解した。
ヘイゼルは杖があれば、無詠唱で魔法を放てる。
逆に言うと、杖がないと、詠唱しなければならないのだ。
以前、魔法使いは杖を奪われ、口を塞がれたら終わりと言っていたが、こういうことなのだろう。
「少し黙ろうか?」
ヘイゼルの腕を引いた。
すると、軽いヘイゼルは簡単に身体を預ける形となったのでヘイゼルを羽交い絞めにし、口を塞いだ。
「んー、んー!!」
当然、ヘイゼルはしゃべれなくなり、詠唱も終わった。
「おや? こうすれば防音の魔法がなくても大丈夫だね?」
口を塞ぎながらベッドに押し倒した。
「んー!!」
ヘイゼルが必死に暴れるが、どうしようもない。
こいつ、マジで力が弱いな。
「落ち着け。俺はお前の仲間であり、お前の弟子だろう? 何を魔法で攻撃しようとしてんだ?」
「んー、んー!!」
まだ文句を言っているっぽいが、抵抗は徐々に弱まりつつある。
「ヘイゼル。我が親愛なる師よ。落ち着きなさい。俺はお前を信頼して、銃を見せ、さっきの道具の話をしたんだ。まだ、話は終わっていない。俺はお前をどうこうする気はないし、ただ、仲間として、秘密を打ち明けようとしているんだ。別にそれに対して、お前に見返りは求めない。お前はお前の秘密を守ればいい。だが、攻撃するのは違う。ましてや、魔法はないだろう。ここをどこだと思ってんだ? 宿屋だぞ?」
ヘイゼルは抗議もやめ、抵抗もなくなった。
「今から手を離そう。下にいるおかみさんのところに逃げ込んでもいい。だが、魔法はやめろ。まーた、借金地獄のふちを見たいか?」
こんな所で魔法を放てば、宿屋が燃える。
そしたら弁償だろう。
「んー」
ヘイゼルはこくんと頷いた。
それを見て、ヘイゼルの口から手を離し、身体も離す。
すると、ヘイゼルは特に暴れもせずにゆっくりと起き上がった。
「ハァハァ……いや、あんた、誤解だって言うんならどこ触ってんのよ!」
おっと、雰囲気でつい……
「お前がでかいのが悪い。どうしても押し倒すと当たるんだよ」
「うっさいわね! 私だって、好きでこうなったんじゃないのよ!」
そりゃそうだ。
「護身術は?」
「こ、怖くて……というか、羽交い絞めにされて、押し倒されてから逃れられる護身術なんてないわよ!」
でしょうねー。
自慢の護身術なんてそんなものだ。
「ほら、お前のお茶を飲め。落ち着こう」
「あー、怖かった。絶対にヤラれるかと思った」
ヘイゼルが文句を言いながらお茶を飲む。
「悪いな。でも、俺も殺されるかと思ったわ」
「ご、ごめん。だって……」
まあ、それほどに収納魔法のことを知られたくないんだろう。
「収納魔法か?」
「……そうよ。あんた、知ってたのね」
ヘイゼルは長い沈黙の後に、口を開いた。
「お前さー、一昨日の行動を振り返ってみろよ」
「んー?」
ヘイゼルは必死に思い出そうとしている。
「採取が終わって、俺がお前に黄金草30株を渡した時、お前はどうした?」
「……あ! あー……あぁ…………」
ヘイゼルはガクッと項垂れた。
ようやく思い出したらしい。
「あとさ、ポーションを10個も持ってきているって言ってたけど、どこに? カバンは?」
「ああ……」
「俺はてっきり弟子である俺を信頼して、見せてくれたのかと思ってたわー」
これっぽっちも思っていないけどね。
「そ、そうなの……! って、んなわけないよ……私って、本当にダメな奴なんだなー」
うん。
うん。
本当にうん。
「お前はずっとソロだったからその頭がなかったんだろうな」
「そうね……使うのは1人でいる時だけだから」
つい、いつもの感じで冒険に出たわけだ。
「実際、収納魔法はヤバいか?」
「ヤバいわね……でも、私はそこまでの容量はないわよ?」
「どんくらい?」
「えーっと、このくらいの容量かな」
ヘイゼルは手を使って、宙に四角を描いた。
1立方メートルって感じか?
十分にクーラーボックスは入るな。
「十分だよ。親愛なるわが師よ、協力してくれるね?」
ヘイゼルの目をじーっと見て頼むと、ヘイゼルはぷいっと顔を逸らす。
「……わ、わかったわよ。あんまり目を見ないで。あんたの目を見てると、断りづらくなる」
ほーう。
それはとても良いことを聞いた。
「じゃあ、服を脱いでみよっか?」
逸らしたヘイゼルの顔を笑顔で覗き込む。
「………………」
ヘイゼルが真顔で杖に手を伸ばした。
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