第037話 教会へ
フィリアに連れ添って、階段を下りる。
「リリー、ちょっと教会に行ってくる」
フィリアを侍らせたまま、リリーに行き先を告げた。
「かっけー。結婚しに行くようにしか見えないし、聞こえないよ」
リリーが笑いながら茶化してくる。
「神父様に会いにいくだけだよ」
「腕を組んだまま? フィリアちゃんの保護者に? かっけー」
ダメだこりゃ。
この状況ではどう言っても、そうにしか見えない。
「今日は帰らないと思う」
多分、そのままあっちの世界に戻るだろう。
「へ? マジで言ってる?」
「教会には泊まらんし、新居でもないがな。仕事だ」
本当は仕事でもないけどね。
帰省だ。
「なーんだ。泊まらなくても料金は返さないよ?」
「大丈夫。あと、これ」
明日の分の飴をリリーに渡した。
「はいよー。明日には戻るの?」
「多分な。もし、ヘイゼルとかいう魔法使いが訪ねてきたらそう言っておいて」
「りょーかい」
リリーが頷く。
「じゃあ、行ってくる」
「いってらっしゃい。フィリアちゃんもまたね」
「はい!」
俺とフィリアはそのままの状態で教会に向けて歩いていく。
「離し時を逃したなー」
「わかる」
しばらくこのままで歩いていたが、正直、歩きづらいので離れたい。
「離れろ」
「はーい」
フィリアも素直に離れた。
「お前のじいちゃんはどんな人だ?」
「優しいおじいちゃんだよ」
そりゃ孫には優しいだろうよ。
「他に情報はない?」
「うーん、元騎士団だね」
はい、怖いことが確定!
「強い?」
「もう60歳前の年寄りだよ」
「うーん、紳士なキャラで行くか」
「もう無理だね。だって、この町でリヒトさんを知らない人はいないよ」
手遅れか……
「まだ、数日なのに噂が出回るのが早くないか? いくら俺がよそ者とはいえさ」
「皆、噂が好きだもん。ましてや、詐欺師に占い師。食いつく、食いつく」
奥さん、知ってるー? 占い師ですってー。
あら、私は詐欺師って聞いたわー。
いやねー。
ホントよねー。
こんな感じかな?
「まあいい。めっちゃ強そうな宗教家……相手にとって不足はない」
「何の勝負をしにいくの? ギフトでしょ」
お前の蛇のこともあるんだよなー。
覚悟を決め、フィリアに教会まで案内してもらった。
教会はテレビで見たことがあるような洋風の建物であり、いかにも教会って感じだ。
そして、その教会の横には大きな平屋が併設されている。
学校の体育館よりも広いと思う。
「あれが孤児院?」
「だねー。孤児院兼私らの家」
「大きいな」
「まあ、孤児や修道女も住んでるからね。騎士団が駐留する時も使う」
それで大きいわけか。
「神父様は?」
「昼間はこっち」
フィリアが教会の方を指差す。
「さて、行くかね」
「腕を組む?」
「話が変わっちゃうからやめて」
殴られる可能性がめっちゃ上がる。
もし、その時が来るとしても、準備や仕込みというものがあるのだ。
いきなりはない。
フィリアに案内され、教会の中に入った、
教会はあっちの世界と同じく、椅子が並んでいたが、その先には十字架ではなく、絵が飾ってあった。
その絵は女の人が立っている絵だ。
多分、女神様だと思う。
「こっちだよ」
絵を見ていると、フィリアが横にある扉を指差す。
そして、扉まで行くと、ノックをした。
『はい?』
扉越しに男性の声が聞こえる。
「フィリアです。お客様をお連れしました」
『入りなさい』
男性の許可を得ると、フィリアは俺の方を向き、入るように促してきた。
「失礼します」
扉を開けると、そう言いながら中に入る。
部屋の中は執務室のようで、白いひげを生やした老人が椅子に座っていた。
「ようこそ我が教会へ。申し訳ないが、座ったままで失礼するよ。最近は腰がちょっとね」
老人は腰をさすり、優しそうな笑みを浮かべた。
確かに温厚そうなじいさんだ。
「構いません。お初にお目にかかります。私はリヒトと言います。最近、この町にやって来た冒険者です」
「これはこれはご丁寧に。私はこの教会の神父を務めているディランです。そこにいるフィリアの祖父に当たります」
感じはすごく良い。
「存じております。お孫さんにはお世話になっており、今日もこうして紹介をしてもらった次第です」
「そうですか。こちらこそ、我が孫がお世話になっているようで……」
俺のことを知っているか……
まあ、噂になってるって言ってたし、神父様なら知ってるわな。
ましてや、孫娘とつるんでるんだもん。
「何も知らない私を助けてくれる立派なお孫さんです。実は私は異世界人という者らしいのです」
「ほう! それは大変に苦労したでしょうな」
神父様の目が見開いた。
「いえ、私にはすばらしい出会いもあり、幸運にもたいした苦労をしませんでした。この町に来ても多くの人にお世話になっております」
「うむうむ。女神様のお導きでしょう。先に謝っておきます。この町の住人をあまり悪く思わんでください」
「何がでしょう? 良くしてもらった覚えはあっても、悪くされたことはありません」
実際、ない。
基本的にこの町の人は良い人が多いと思う。
「あなたのことを詐欺師とか言っている者がいるでしょう?」
それを聞いて、フィリアを見る。
フィリアはそっぽを向き、天井を見上げていた。
そのわざとらしさに苦笑いだ。
「詐欺師と呼ばれるのは慣れてますよ。占い師ですし、実際、似たようなこともしていますしね。詐欺師と呼んで笑ってもらえるならこちらもこの町になじみやすいです」
「それならいいのですがね。皆も悪意があって言ってるわけではないのです」
「わかりますよ。占い師が来たよりも詐欺師が来たって言う方が話は盛り上がりますし、酒の肴にもなるでしょう」
そう言って笑うと、神父様は俺の目をじーっと見てくる。
「ふむ……まあいいでしょう。それよりも今日は何用でこちらに?」
神父様は何かに納得すると、用件を尋ねてくる。
「先ほど、私が異世界人と言いましたが、実はギフトがわからないのです。異世界人は女神様からもらえるものだと聞いたのですが……」
「なるほど。それでしたか……申し訳ありませんが、金貨20枚かかりますよ?」
やっぱ20枚だ。
「フィリア」
「はーい」
フィリアを呼ぶと、フィリアは神父様に袋を渡した。
神父様は袋の中身を確認すると、机の引き出しにしまう。
「確かに。では、見てみましょう。その前にフィリア、お前は退室していなさい」
「なんで?」
「ギフトは当人にとって重要なものだ。他人のお前が聞いていいものじゃない」
「なるほど。じゃあ、リヒトさん、私は外で待ってるから」
フィリアはそう言って、部屋を出ていった。
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